第17話 委員長

 朝靄あさもや混じる月曜日の朝。東京都調布市。

 添田明人は、旧甲州街道沿いにある自宅の“添田畳店”から、都道120号線を徒歩でのらりくらりと多摩川高校へ向かっていた。彼は昨夜、とあるオンラインゲームを遅くまでやっておりかなり眠い様子である。

 一応、明後日実力考査があるので試験勉強をしなければならなかったが、ゲームへの誘惑には勝てなかった様である。

 そんな様子で明人は校門をくぐり、ふぁ~と欠伸をしながら、いつものように玄関の自分の下駄箱に向った。

 と、

「添田」

 背後から不意に呼び止められる。

 振り向くとそこには、

 短めのポニーテールに、百日紅さるすべりの模様をあしらった竹刀袋と、多摩校指定の鞄を背負う女生徒の姿。

 中学時代の学級委員長、阿蘇品のぞみであった。

「おー、委員長じゃん。久しぶり。そう言えば同じ多摩校だっけ?」

「今はクラス委員だっての。…まぁ、久しぶり」

 委員長という中学時代からのあだ名で呼ばれる阿蘇品のぞみ。挨拶もそこそこに玄関で靴を脱ぎながら、早速と明人へあることを尋ねる。

「添田って、直人と同じクラスなんでしょ? 今、元気でやってるの?」

 近くで割かし進学校、という理由で直人と同じ多摩川高校に入ったものの、のぞみはクラスが別になったり、家の事情で色々忙かったりと、中々直人と顔を会わせられずにいた。

 そしてこの前、一年一組の担任和歌月千夏に、直人の状況をなんとなく尋ねてみると、やはり色々素行に問題があるらしい。おまけに自分の知らない女生徒と、何か関わりが…。

 それで、同じクラスの添田明人にそのことの聞いてみたのだが…。

 一方の明人は、久しぶりにあった同級生の関心が、いきなり直人に行ったことに嫉妬の炎が渦巻いた。…なんであいつばっかり女子に構われる。と内心ボヤく。

「…やっぱ元相方が気になるのかよ」

 少し毒っぽくなる明人。

「誰が相方だっての! …………元ってなによ?」

 明人の含みある言葉に、怪訝に眉を結ぶのぞみ。明人は重ねるように吐き捨てる。

「…新しい相手、見つけたみたいだぞ。あいつ」

「………ど、どういう意味よ」

 その言葉にのぞみは動揺を走らせる。

「知らねーのか? 他のクラスでも結構、話題になってるみたいだけど? …魔王と言えば」

「やっぱり勇者なの?」

「知ってんじゃん」

「この前ちょっと小耳に挟んで。……で、だから勇者ってどういうことなの?」

「知らねーよ。…ってか本人聞けば? ほら。噂をすればなんとやら」

 そう言って明人は、のぞみの背後へめんどくさそうに顎をしゃくった。

 釣られてのぞみが振り向くと、玄関でくだんの人物がのそりと靴を脱いでいる。

 のぞみの中学の同級生、蘇我直人であった。

 不意に心音が高鳴る。会えなかったのは僅かな期間なのに、本当に久しぶり感覚。

 直人の方ものぞみの姿を見とめたようで、ん? と顔を上げる。

「お、久しぶり。委員長じゃん。おはようー」

 相変わらずの低血圧気味で、爽やかとは無縁の挨拶してきた。

「…お、おはよ」

 別にやましい事はないのだが、噂をすればで渦中の人物が突然現れると、やっぱり妙に後ろめたい。まごまごして顔を逸らす。

 しかし一方の直人は、久しぶりにあった級友なのに特に何も感じないのか飄々とした態度。それを見とってのぞみは内心ムスッとする。…久しぶりなんだから少しは感慨らしきもの感じなさいよ。

「今、三組だっけ?」と直人。

「う、うん。…三組。あんまり…会わないね」

「そう言えばそうだな。高校ではクラス変わっちまったし。ワザワザ会いに行く理由もねえしな」

「………そう、ね」

 相変わらず配慮に欠ける直人のぶっきらぼうさに、のぞみは少しムスッとする。

「…俺、先行くわー」

 と、傍にいた明人は、さっさと教室へ向かう。

 直人もそれに続こうとするが、

「それでさ」とのぞみが付いて来ながら話しかけてくる。

「何?」

「勇者、現れたの?」

「ぶっ!」

 のぞみの質問に直人の顔が引き攣る。割かし珍しい彼のあからさまな動揺に、のぞみは怪訝な顔をした。

「何? 本当に本当なの?」

「………まぁ。ホントと言えばホントだが」

 煮え切らない態度を見せる直人。そのことをのぞみにあまり触れられて欲しくないようであった。

「と言うか、まだ魔王の生まれ変わりとかの設定続けてんの?」

 ジト目で呆れながらのぞみは言う。 

 のぞみは中学三年間、事あるごとに魔王の転生者とのたまう中二病の直人を、学級委員長としてたしなめていたのである。それはクラスの一種の名物となっていて、級友たちからも夫婦漫才などと揶揄されていた。

「……別にいいだろう。誰にも迷惑かけてねえし」

「全然よくない。もう高校生でしょ! 子供染みたバカなこと考えてないで」

「お前は、思想信条の自由の権利を侵害する気か」

「中二病にその権利はありません」

「ひっでっ!」

 のぞみは呆れながらツッコむ。

 しかしそれは、中学以来のいつも通りのやり取り。

 のぞみはそこはかとなく安堵を感じる。男子三日会わざれば括目して見よ、と言うが、直人はいつも通りに捻くれている。ほんといつも通りだった。

「…何、ニヤついてんだよ」

「別に」

 ツンとそっぽを向くのぞみ。

 直人は少々訝しんだ。

 と、

「その子、…誰ですか?」

 二人の背後から妙に不機嫌な声がする。少し驚いたのぞみが振り返るとそこには、パッと見地味で大人しそうな、綺麗な黒髪を腰まで伸ばした女生徒がいた。

 誰? と首を捻るのぞみ。

 入学してまだ日が浅いとは言え、彼女が初めて見る生徒であった。…こんな子、この学校にいたっけ?

「おはようございます!」

 その女生徒に何故かイライラ気味に挨拶をされる。しかしその矛先はのぞみでは無い。

 目線は真っ直ぐ隣へ向けられていた。

 のぞみがふと見やると、直人がすごいゲンナリ顔をしていた。

 …え? 何?

「……おはよう」とうんざり気味な挨拶の蘇我直人。

 のぞみは、直人のその態度になにか腑に落ちないものを感じはしたが、一応、自分も挨拶をされたのである。

 生真面目な性格ののぞみは、失礼がないようにと微笑んで挨拶を返す。

「あ、おはようございます。蘇我くんのクラスの子ですか? 初めまして。私は中学の同級生の阿蘇品のぞみ…」

「あなた、敵ですか!」

 その女生徒はのぞみの自己紹介を流し、唐突に敵視をぶつけて来る。

 いきなりのことで、怯み、固まるのぞみ。

「は? て、敵?」

 のぞみは意味が分からない。敵意を向けられることに身に覚えがないし、そもそもこの女生徒とは初対面である。

 もしかしたら知らぬ間に、何か粗相そそうを犯してしまったのだろうか?

 のぞみは生真面目に自分に問いかけるが、 

「魔王と親しげでした! …まさか新たなる夢幻四天王の一人ですか?!」

 濡れ衣も甚だしかった。

 夢幻四天王って一体何?

 どうして自分が、直人の中二設定に巻き込まれているのだ、と困惑する。

「じ、じゃあな。委員長! また今度な!」

 と、直人が誤魔化すようにいきなり叫んだ。

 そしてのぞみを置いて、女生徒の肩袖を引っ張りさっさと、教室へ向かって行ってしまった。

 は? へ? な、いきなり何?

「ち、ちょっと! カーディガン引っ張らないで!」

「アホ! 一般生徒巻き込むな!」

「あ! 今度はアホとか言う! こ、この変態魔王!」

「その件は悪かったって! 俺も頭に血が上ってどうかしてた!」

 他の生徒に、何事? と悪い注目を受ける中、直人と女生徒は騒ぎならが教室へと向かって行った

 一人、呆然と置いてきぼりにされる阿蘇品のぞみ。

 しかしながら、あの女生徒の言動に妙に引っ掛かるものがあった。

 …もしかして、あの子が勇者なのか?

 その予感と同時に、のぞみは何か不愉快なモノを感じた。

  *****

 その日の午前中の授業は、普段とさして変わることはなかったが、一つだけ変化があった。

 また朋子である。

 先週の土曜に直人は、彼女の面子を潰すことをやらかしてしまったため、思いっきり敵視されていたのだ。

 具体的には、授業中いつものように視線を感じ横を振り向くと、朋子と目が合う。

 フンッ、と顔を逸らされる。いつもはキョドるだけなのだが。

 それの繰り返しであった。

 当然の如く明人に、休み時間中「今度は何があった!?」と問い詰められるものの、公衆の面前でスカートをめくっただけだ、とはやっぱり言えず、「さぁ?」とはぐらかすばかりであった。

 そんなこんなで昼休み。

 朋子に珍しく「ちょっといいですか?」と連れ出され、直人と朋子はまたも非常階段の踊り場に来ていた。明人の呪詛はガン無視して。

「…直人くん。私、覚悟決めました」

 朋子は神妙な面持ちでそう紡ぐ。

「一昨日の集まりで、あなたはやっぱり魔王として世界滅亡の野望を抱いていることがわかりました! 私はそれを、勇者として全力で止めます! これは責務なんです!」

 勇者の転生者は、改めて決死の覚悟でそれにあたることを叫ぶ。

 その宣言を受けた魔王の転生者は、チラチラと周囲に人がいないかと確認する。

 朋子は最近、人目めをはばからず勇者行動を取るようになっている。……状況と空気を読んで、冗談と受け取られるタイミングで魔王ぶる自分と違い、彼女は周りを一切気にしない。

 校内でこれ以上、魔王と勇者コントをするのは人目が気になる。…いや、もう今さらだけど。

 そして他に人がいないかを確認できると、直人は胸を撫で下ろす。

「で、あのさ。この前のどこに、その野望を改めて抱く要素があった?」

 この前の勇者一行との集まりでは、武闘家の転生者は子育てに励んでおり、僧侶の転生者も痛い中学生になっていただけ。おまけとして自分が公務員を目指していることを述べただけであった。

 何一つ、滅びの要素は無かった筈なのだが?

「私のパンツを捲った!」

「スカートだ! だから俺が悪かったって!! って、なぜそれで世界滅亡!?」

 呆れる直人を置いてきぼりにして、朋子は考える。

 彼は、公衆の面前で自分のスカートを捲り、あまつさえパンツの柄を公言するという暴挙を働いたのだ。

 とんでもない大悪事である。彼はやはり魔王だったのだ。

 そんな行為をいとも容易く行えるのであれば、彼の目論見通り調布市役所に入って公金横領や談合などで私腹を肥やす悪事を平然と行えるであろう。市民の血税ということなどかえりみることないのだ。

 そうして力を蓄えた後、魔王はさらに国家の中枢へと入り込み、影の実力者として政治を操って日本を軍事国家に変貌させ、全世界に対して侵略戦争を仕掛けるに違いない。

 飛び交う銃声。逃げ惑う人々。焼かれる都市。

 そして、ついに訪れるのは、終末。

 大気圏外から雨霰あめあられと降り注ぐ核ミサイルたちに、地球は放射能で汚染されるのだ。

 おのれ…、おのれ魔王め! …なんて恐ろしい事を!

「………多分、お前、ロクでもない事考えているだろ?」

 ジト目で自分を睨む朋子に直人はゲンナリする。

 朋子は基本、説明とかが得意ではない。

 そのため何が言いたいかは、こちらで察してやる必要があったのだが、正解だった試しがなかった。

「直人くんは、自衛隊を世界侵略ギガソルド軍に作り替えるつもりなんでしょ!」

 ほら見ろ! と項垂うなだれる直人。

 …なんだその安直つだっさいネーミングは!

 朋子は相変わらず突飛に突っ走っていた。

「スカート捲りからその結論に至ったお前の脳味噌には目を見張るものがあるが、一体どうしてそうなる!?」

 健全に頑張ってくれている自衛隊員たちも、朋子の妄想に付き合わされてはたまったものではないだろう。

「………俺は確かに保守派だけど、現状維持派だぞ」

 色々と炎上しそうな話題なので、言葉を選ぶ直人。

「…ほ、ほしゅは? と、取り敢えず私はイヌ派です! ダックスフンド飼ってます!」

 政治に全く関心のない朋子は、イヌ派閥である事を告白する。

 保守中道よりの直人に対し、朋子はイヌ派小型犬寄りのスタンスであった。

「………俺んちはアパートだからペット飼えねえし」

「やっぱりネコ派ですか?」

「どっちかと言えばそうだけど!」

 実際ネコ派なので思わず返す直人。

「……やはり私たちは、相容れないのですね…」

 重々しく、勇者の転生者は神妙に紡ぐ。

 何時の時代、如何なる場所にも存在するの相対の構図。

 水と油。光と闇。陰と陽。

 そしてイヌとネコ。

 この地球世界に置いても、勇者と魔王、という存在同士は、やはり対決する運命にあったのだ。

「……………なんだこれ」

 毎度のことながら、話が脱線してしまうことに辟易

してしまう魔王の転生者。

 思いっきり溜息を付く。そして軌道修正。

「っていうかさ? まだ魔王を討つことに固執してんのか?」

「当り前です! 私は勇者なんです!」

 さも当然と鼻息を荒げる朋子。

「…一緒に魔王を討つこと当てにしてたお仲間、ダメだったじゃん。一人でどうすんの?」

「うっ」

 勇者の転生者は、結局言葉を詰まらせる。

 日野聡美は子育てと仕事が忙しく、有藤瑛里華もなんだかんだで魔王に対して興味を失っており、共に再び魔王を討つ、という同意が得られなかったのだ。前世での契りは一体なんだったのか。

 言葉を返せずシュンとなる朋子に、直人は再び溜息を付く。

「…取り敢えずさ、その目標は保留にしとけよ」

「な、なんでですか!」

「まずは実力考査があるだろ!」

「あ…」

 多摩川高校一年生最初のテストが、後日待ち構えているのだ。

「もうすぐだぞ? 試験勉強してるのか?」

「……」

 さらに力なく俯く朋子。

 その様子だけで、直人は彼女が一切勉強してない事を見て取った。

「はぁ…。案の定」

「だって…」

「後さ」

「はい?」

「今日の放課後、クラス委員会だからな」

「え!? き、聞いてないです!」

 一学期始め、クラス委員に抜擢された直人と朋子の二人であったが、クラス委員の仕事は殆んど直人だけがやっていた。

 主にプリント集めや各授業の号令、教諭との取次などであったが、いざ朋子にやらせてみると、プリント集め忘れや号令の声が聞こえない、クラスの皆に授業で必要なものの周知が行き渡ってないなど不手際が目立ち、担任の和歌月千夏も直人の方ばかりに仕事を回す様になっていた。

 しかし今日の委員会は、初めて行われることもあり、各クラスのクラス委員、男女二人で出席することになっていた。

 仕事を直人に任せっきりだった朋子には寝耳に水であった。

「…私も出なきゃダメですか?」

「当然っ。委員会くらい出ろ!」

「うぅ。……………はい、わかりました」

 朋子は渋々頷く。

 直人はそれに多少安堵すると、じゃあ購買に行くわ、と中に入るため扉に手を掛けた。とその時、

「…あの子、誰なんですか?」

 朋子が妙に不機嫌気味で呟いた。

 んあ? と眉をひそめる直人。

「………あの子って?」

「今朝、一緒にいた女生徒」

 一瞬思い当たらず、首を傾げた直人だったが、すぐに分かった。委員長のことだ。

「ああ。ただの中学ん時の同級生だけど」

 なんの含みも無く直人は紡いだ。

 自分にとって委員長はそう表現するしかない相手であった。

 だが朋子はなぜか疑いの眼差しを向けて来る。

「…嘘です」

「いやなんでだよ」

「仲よさげじゃなかったじゃないですか!?」

 そう言って憤然と詰め寄って来る朋子。

 相変わらずのパーソナルスペースの狭さに、直人はのけ反る。

「あ、あいつとは付き合い長いんだよ」

「…幼馴染とかですか!?」

「いや違うって。五年前に調布に引っ越してきてからの付き合い」

 直人は以前八王子のめじろ台に住んでおり、調布へは母の仕事の都合で小学校の時に引っ越して来たのである。なので、この調布に幼馴染はいなかった。

「……じゃあやっぱり、か…」

「…か?」

「新生夢幻四天王の一人ですか!?」

「…お前、今朝もそれ言ってたな。また懐かしいフレーズを…」

 直人は呆れ気味ながらも、そのフレーズに前世の記憶を呼び起こした。

 夢幻四天王。

 甲虫種という昆虫型の魔物中心で編成されたギガソルド軍にて、その中心を担った者どもである。

 地上界侵攻の先兵を担い、強靱な甲殻とずば抜けたパワーを持っていたコーカサスオオカブト(に近い種)の甲虫種、鋼のステイルクロウカシス。

 魔法部隊を率い自身も幻惑魔法を得意とした、巨大な目の模様を持つ蛾の甲虫種、百眼のケンタム・オクロスガイガン。

 新月の闇夜に乗じ暗殺部隊を率いて、一晩で人側最強国の一角オルシア帝国の首府を壊滅させたウデムシの甲虫種、一撃のイクトゥムヴァラキム。

 そして実質的に地上界侵攻軍を指揮し、魔王ギガソルドに次ぐ魔力を誇った四天王の紅一点。女郎蜘蛛の甲虫種、アラクネのゾゾ。

 夢幻世界決戦の時点で既に勇者に倒されてしまっていたが、頼もしく忠実な部下たちであった。

「……」

 確かに夢幻四天王は頼もしかった。共に人類を滅ぼすことを夢み、そしてそれ寸前まで実行してくれたのだが、無慈悲に勇者に殺されてしまったのだ。

 …目の前の勇者の転生者、久住朋子に。 

「………………」

「なんですか?」 

 ジト目で睨んでくる朋子。直人は少し複雑な思いが走る。

 四天王が勇者に殺されたことは遠い昔のことで、しかも異世界の出来事である。おまけにそれ以上の暴虐を魔王ギガソルドは人間たち対して行っていたのだ。

 おあいこ、と首を振る直人。そのことに関して朋子を恨む気持ちは微塵もない。もう過ぎたことなのだ。

 だが、

 委員長こと阿蘇品のぞみは話が別だ。

 彼女は魔王とか関係なく日本人としての、蘇我直人の純粋な友人なのだ。

 自分だけならまだしも、何の関係もないこの世界の人間を巻き込むのは頂けない。

「……あいつはただの同級生だ! 魔王ギガソルドとは何も関係ないからな!」

 直人は朋子に釘を刺す。

 そして踵を返しながら「ちゃんと放課後来いよ!」と捨て台詞を残し購買へ向かって行った。

 ポツンと残される朋子。

 不意に口をへの字に結ぶ。

「…同級生にしたって、仲良すぎだったじゃないですか…」

 ぼそっと呟いたその言葉は、グランドで遊ぶ多摩校生たちの声でかき消されるのだった。

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