第13話 転生者の証明

「「ゆうしゃ? ゆうしゃ!? ゆうしゃあ!?!?!」」

「そ、そうです!」

「「まおう? まおうぅ!? まおぉぅう!?!?」」

「だから、そうだって!」

「「ええええええええーーーー?!?!?!」

 土曜の昼過ぎ。東京都調布市調布駅地上口前。

 そこで異世界地球テラからの転生者たちは、ギガソルド城以来の再会を果たしていた。

 対面する片方は、ともに調布在住の魔王と勇者の転生者、蘇我直人と久住朋子。

 もう片方は、武闘家カレンの転生者と僧侶のコスプレイヤー。傍にはチャイルドカートで安眠しているカレンの娘。

 彼らの今日の再会のきっかけは、朋子がツイッタ―にて勇者一行の再結成を呼びかけたことに端を発したものである。

 それに応える形で、武闘家の転生者と僧侶のコスプレイヤ―はこの調布駅につどっていたのだが、その再会の歓びは、双方に驚きに取って代わられていた。

 特に武闘家と僧侶の転生者らには、現世の魔王と勇者の姿は驚天動地に値していた。

 なぜなら、異世界地球テラの救世主である勇者エルフィン・エルリード。

 異世界地球テラの破壊者である魔王ギガソルド。

 この二大傑物が、

「ゆ、勇者が女の子で」

「魔王が男の子ですかぁ!?」

 と、前世とあまりにかけ離れていたためであった。

 一方の直人と朋子は、驚かれたことに逆に面食らっていた。

「そ、そんなに驚くことですか?」

 と勇者の転生者である朋子は、おずおずと二人に向かって尋ねる。

 やっと出会えた仲間にこうも驚かれるとは予想外だったのである。この再会を喜び合い感動に涙する場面を想像していたのだが…。

「……あんたら、本当に勇者と魔王の転生者なのかい?」

 武闘家の転生者が怪訝に呟き、

「……前世の欠片をこれっぽちも感じないんだけど」と続けた。

「…………そうですよ。そうですよ! あなたがエルフィン様っ!?」

 歓喜から仰天。そして疑念な面持ちへと変化する勇者一行。

 二人のその様子に、朋子の顔はだんだんと悲痛に歪んでいく。

 やっと出会えたのに、

 ともに転生までしてくれた大事な仲間なのに、

 自分の事を信じてくれないのか?

 暗澹あんたんたる気持ちとなる勇者。

 と、僧侶のコスプレイヤーはさらに疑うような表情で朋子へおもむろに近づいた。

 そして「確かめます」と呟き、

 朋子の胸を鷲掴んだ。

「ひゃっ!」

 と、小さいな悲鳴。僧侶のいきなりのセクハラ行為に朋子は驚いて、彼女を突き放し一歩退いた。

「いいいい、いきなり何するんですか!」

 朋子は戸惑った。他の転生者も同様であった。

 だが僧侶の転生者は、そんなことを気にする様子を見せず、鷲掴んだ手をニギニギしたかと思うと、

甘食あましょく!」

 となぜか若干優越気味で呟いた。

 ……何を確かめたんだ? と思う魔王と武闘家の転生者。

 胸を掴まれた朋子は、僧侶の言った意味が一瞬理解できず口をパクパクさせたが、すぐに僧侶のコスプレの下に潜む豊満な二物に気づき意味を悟る。 ……くっ。

「…………やっぱり女の子です」

 その些細なもので事実確認した僧侶の転生者は茫然となった。

「あ、当たり前じゃないですか!? なななんで胸を揉むんですかぁ!?」

おとこの可能性を疑いました」

「見れば分かるじゃないですか!? わ、私は正真正銘、女です!」

 顔真っ赤にして必死に弁明する朋子。同姓とは言え、いきなり胸を触られるなんて恥ずかしいのである。

 しかし、その勇者が同姓となっている事実に、武闘家と僧侶の転生者は、どんどん顔を暗くさせていた。

「……まぁ、あんたらの気持ちも分からなくはないな」

 と、魔王の転生者が不躾ぶしつけ気味に呟いた。

「俺も初めてこいつと会った時はかなり驚いたさ。何しろあの鬼気迫った勇者エルフィンが、現世じゃただの女子高生だもんな」

「「女子高生?」」

 魔王の言葉に声を揃える勇者一行。

「そ。多摩川高校ってとこの」

「「……」」

「……疑ってかかるのも当然だけどさ、…こいつは紛れも無く勇者だよ。俺とちょっと色々あったんで間違いない。…この魔王ギガソルドが保障してやる」

 そう言って、また居丈高に腕を組む直人。

「有り難く思え」

 朋子にチラッと目配せした。

 それで朋子は、直人が一応フォローするのつもりでいることに気付く。かなり上から目線であったが。

「べ、別に魔王なんかに保障されなくても、私は勇者です!」

 と、ぷんぷんする朋子。

「自称、だろ?」

「自称でもいいんです! って、そんなこと言ったら、直人くんだって自称魔王じゃないですか!」

「……いや、俺は一応、証明できる力を持ってる」

「力? なんですかそれ?」

「ほれ」

 と言って、直人は朋子に左手をグーで差し出した。途端、朋子のトラウマが蘇る。

「ひっ!」

「……何にもいねえよ」

「…っ! もう! からかわないで下さい!」

「あのさっ!」

 と、イライラ気味に武闘家の転生者。

「イチャイチャするなら、どうぞお好きに、なんだけどさ」

「「しっ、してな」」

「高校生に、クラスメートって……もしかして魔王は、勇者様と同級生なんですか!?」

 そう言って目を見張る僧侶の転生者。

 直人は特に隠す理由も見当らないので「そうだけど」素直に呟く。

「「……」」

 またも言葉を失う勇者一行。今度は直人もその理由が分からない。

「……まぁ、めんどくさいからもう転生者ってのは認めるけどさ」

 と、武闘家の転生者。

「え? いいんですか?」と僧侶の転生者。

「その前にさ…」

 武闘家の転生者は溜息交じりに呟くと、ふと直人に近寄り、

「なんで魔王が、さも当然の様にこの場にいるんだい!」

 と強引に胸倉を掴んで持ち上げた。

「いぃっ!?」と身長差からつま先立ちになってしまう魔王。

「転生者ってのは一億歩譲って認めてやるよ! だけどね、なんで宿敵がのこのこ姿を現してんだい! しかも勇者と一緒に!」

「い、いや、だ、だからクラスが…」

「あ゛あ゛っ!?」

 女性とは思えぬその膂力りょりょく、その気迫。そして0距離ガン付け。

 とても一般人のそれではない。武闘家の転生者はこういうことに慣れている様である。

 まるで肉食獣に狙いを付けられたような恐怖に、魔王の転生者は思わずたじろぐ。

 ……間違いない。この武闘家の転生者、元ヤンだ……!

「あ、あの落ちついて、は、話を」

「だからなんでラスボスが、あっさり勇者一行の前に現れてんだよ!」

 焦る直人。

 ……案の定だけど、朋子、俺の事を一言も勇者一行に伝えてねえな!

 朋子の肝心なところの抜け様に内心呆れる直人であったが、ただの男子高校生に過ぎない魔王の転生者は声をうわずらせ、元ヤンにビビってしまう。

「何ビビってんだい!? あんたは魔族の王、異世界地球テラの破壊者、魔王ギガソルドなんだろ!? あぁ!?」

「あの…今は、普通の高校生なんですが…」

 出来るだけ刺激しない様、敬語を使う直人。それがまた武闘家の転生者をイラッとさせる。

「何が高校生だっ! ……って、じゃあ私より年下じゃないか!?」

「そ、そいういうことになりますね…」

「先に転生したくせに、なんであたしより後に生まれてんだいっ!?」

 さらに直人の首を絞める武闘家の転生者。

「……し、知らないっす! そう言われましても、お、俺も理由は分かりません…」

 転生魔法転生の秘儀が不完全であることは、この地球に転生してしまったこともあり、魔王の転生者にも自覚はあった。

 だが、元ヤンに絡まれているこの状況では、はっきり言ってどうでもいいことだった。

「あの…苦しいんで……、離してもらえ」

「あんたは魔王なんだろ? なら自力でどうにかしてみな!」

 魔王に慈悲は要らない、と武闘家の転生者はさらに力を込める。直人は息が出来ずにさらに顔が青くなってしまう。…やばい、死ぬ。

 と、

「か、カレン様」

 僧侶の転生者が、少し心配そうな様子で言う。

「それ以上は不味いです。人目があります」

 人目がないならいいのか? とコスプレイヤーに悪態を付きたかったが、直人は苦しさのあまり声にならない。

 僧侶のコスプレイヤ―は声を潜め「…お巡りさんが見てます」と続けた。

 直人はその声で交番の方を見やり、交番付きの巡査二人がこちらに注意を向けいることを確認した。

 な、なんとかなるか? と少し希望を見出したが、

「……だからなんだい?」と全く気にする様子を見せない武闘家の転生者。

「え? だって思いっきりお巡りさんに睨まれて…」

「ポリ公なんざどーだっていいんだよ」

 ………出た。ヤンキーの警察なめてる態度だ。

 万事休すか、と一瞬、意識が遠のきかけた直人であったが、

「や、やめて上げてく、ください…」

 と朋子が意外にも止めに入って来た。……思いっきり腰は引けていたが。

「……なんだい、勇者エルフィンの転生者ちゃん。魔王を助けようってのかい?」

 妙に刺々しい武闘家の転生者。今の勇者を少し小馬鹿にしている。

「…そ、そんなつもりはないです」

「じゃあどうつもりだい?」

「あ、そ、その」

「なんだい! はっきりいいな!」

 イライラして叫ぶ武闘家の転生者。

 朋子は怯み、涙目になりかけたが、

「わ、わたしが、魔王を倒します! だ、だから手を離してください!」

 懸命に叫び、武闘家の転生者に掴みかかった。

「ちょ、ちょっと!」

「直人くんから手を離して!」

 朋子は直人を助ようと、力の差が歴然としているのも関わらずに必死に元ヤンに掴み掛かった。

 組んずほぐれつに絡み合う勇者と武闘家の転生者。

 しかしすぐに、武闘家の転生者の方が訳が分からないと手を離す。途端に、ゲホッとせき込み尻餅を突く魔王の転生者。

 朋子は不安定なファッションサンダルでコケそうになるが、すぐに踏ん張り、

「な、直人くん!」

 と、慌てて彼に駆け寄った。

 そして気遣って背中を摩り、大丈夫? と安否を尋ねる。

「…な、んとか」

 と息絶え絶えに答える直人。

 朋子は心持ち安堵を漏らすと立ち上がり、キリッと武闘家の転生者に睨視をぶつけた。

「なんで酷いことをするんですか?!」

「あんたが何やってんだい!」

 すかさず激昂する武闘家の転生者。

「なんで勇者が魔王を助ける真似をするんだ! ってかその前に倒すって言ったよな!?」

「い、言いましたけど、それとこれとは話が別なんです!」

「一緒だよ! 倒す相手を助けるって本末転倒じゃないかい!」

「……そ、それは、その」

「何なんだいあんたらは? 一体何なんだ?」

 呆れのあまり頭を抱える武闘家の転生者。

「……ベジータ的なあれですかね? お前を倒すのは俺」

「私は…それでも勇者なんです! お願いです! 信じてください!」

 僧侶の台詞に被せて、朋子は必死に訴える。折角出会えた仲間に信じてもらえないなんて悲しすぎる。

 朋子は葛藤していたのだ。

 魔王を倒す。

 それは勇者の使命。

 でも彼が誰かに酷い目に遭わせられるも嫌だ。 

 支離滅裂かもしれないとは思っていたが、同時に湧き出でしまう相反に近い思い。

 どちらも正しいと思え、どちらも間違いとは思えず、朋子は素直に両方とも従う。

 曇りなく、どちらも真っ直ぐ一直線に。

「…………」

 朋子の眼差しを訝かしむ武闘家の転生者。肩を落としてため息をつき、紡ぐ。

「自分も言えた義理じゃないけどさ。あんたが勇者の転生者っていう根拠を、正直あまり感じないだよね。見た目といい、言動といい」

「そ、その」

 前世の己と現世の己が全く違うことは、朋子自身よく自覚していた。

 だから自信のなさの裏返しの様に、魔王に対して虚勢をはっていのだが…。

「勇者ごっこは、帰って家でやりなよ。……ニセモノは目障りなんだよ」

「…!?」

 その信じていた筈の仲間の言葉は、本来自信家ではない朋子の足元を壊すには充分な威力だった。

 へなへなと、直人の隣に愕然がくぜんと座りこんでしまう。

「カレン様、何もそこまで言わなくても…」

「じゃあ、この嬢ちゃんを勇者エルフィンと認めろって言うのかい? 証拠もないのに信じられるか!」

「………それ言ったら、私ら自身もそうですし」

「……」

 朋子にああ言おうとも、自分たちとてこの世界では転生者という証明はない。

 単に互いに自称し合ってる過ぎず、結局同じ穴のムジナでしかないのだ。

 それを頭では理解している武闘家の転生者。しかし気持ちが理解しない。漫然と頭を掻く。

「一体、どうしろって言うんだい…」

 やるせなく悪態を付く武闘家の転生者。

 と、

「朋子は勇者だ。俺がそう言ってんだろ」

 魔王の転生者がそう言い放って憤然と立ち上がる。

「……だからその根拠はなんだい?」

「俺が魔王の前世記憶を持ってる転生者だからだ。……何しろ俺は一回、勇者に殺されてる。そんな相手忘れるワケがないだろ」

「それが魔王の記憶という保障はない。信用に足りない。ただ自称してるに過ぎない。…それは私らにも言えることだけど。……堂々巡りなんだよ。結局」

 カレンはそう言ってため息を付く。が、

「俺には勇者と、あんたら勇者一行と違って転生者の根拠はある。

 ………もし魔法が使えると言ったら?」

 妙に自信満々に呟く、自称魔王の転生者。それに眉をひそめる勇者一行。

「……本気で言ってんのかい?」

「本気だ。実際に使える。しかも召喚魔法」

 勇者一行はさらに怪訝な顔をする。

 召喚魔法。もしくは召喚詠唱術。

 異世界地球テラに置いてその定義は、

 使役契約した精霊、魔物、死霊、亡霊、もしくは式神、使い魔などを詠唱陣で呼び出す術式である。

 被使役契約をされたそれらは、例え遠隔地に居ようと、強制的に呼び出され使役者の命令に従わなければならない。

 契約方法は相互同意であったり、強制であったり色々だが、転移術式の応用の一種であるため、術者は高度の知識、魔力、聖力がなければ話にならない。

 無論、魔王ギガソルドは超一級の転移魔法の使い手であった。

「裁判所なんかからの出頭命令ってオチじゃないですよね?」

「…そっちの召喚じゃねえよ」

 僧侶の野暮に取りあえずツッコむ直人。

「…なら見せてみなよ。あんたの魔法を。使えるなら、だけど」

 ふんっと鼻を鳴らしてカレンは直人を睨む。

 その視線に直人は怯むことなく、腕をクロスに構え、そして傍

かたわ

らへ呟く。

「………朋子」

「っはい」

 茫然としていた朋子が、その呼びかけで我に還る。

「目をつむっとけ。………転生者の力を使う」

「………っ! まままままさか、あれを使うつもりですか!?」

「そうだ。……この女の態度が鼻持ちならん。目に物見せてやる」

 そう意気込む直人。

 変わって朋子は、トラウマを思い出し青冷めた。

「やっ……やめてくださいっ! 街にパニックを起こすつもりですか!」

「構うもんか!」

「直人くんっ!」

「悠久の時を生けし、矮小なる魂よ」

 朋子の悲痛な叫びを無視し、魔王は邪悪な呪文詠唱を始めた。

 途端に「ひっ」と目と耳を防ぎ怯え始める勇者の転生者。

 その彼女のあまりの怯え様に、勇者一行は暗に警戒した。

「漆黒の肌を持ちし邪悪なる魂よ」

 ぞっくとした、嫌なものが勇者一行の背筋に走る。

「我が言に従い群れを為せ。我に仇なす怨敵に心胆おののく恐怖を与よ!」

 カサカサ、という、まさに虫唾の走る音が勇者一行にの脳裏に響き、駅前の雑踏が妙にざわついた。

 勇者の転生者は耳目を防ぎカタカタと震えている。

「……うは。オープン中二病。あ痛たたた」

「コスプレのあんたがそれ言うかい?」

 勇者一行の戯言を聞き流し、魔王の転生者はクロスせていた両手を拡げ、とうとう召喚魔法を発動させる。

「くくくくく、恐れ慄け勇者一行! 出でよ! 我が眷族、黒甲虫くろこうちゅう族よ!」

 その刹那、調布駅前は阿鼻叫喚の地獄絵図へと変貌した。

『きゃ、やだ!』

『どうした?』

『ゴキブリ!』

『あぁー、ここらへん飲食店多いもんな~』

 遠くで、カップルの驚く声が勇者一行の耳目に入る。

「「……」」

 すると、カップルのいた方向から、小さくて黒い奴が、恐るべきスピードでこちらに接近してくるのが見えた。

「わわっ」

 と、足元を駆け抜けたそいつを、慌てて避ける僧侶の転生者。

 そしてそいつは魔王の転生者の前に辿り着き、触角を嬉しそうにピクピクさせた。

「くくくく、恐れいったか勇者一行よ!」

「………………………」

「さぁ、我が眷属よ! 蹂躙せい、≪飛蝗暴食ロカスタエ・グラ≫!」

 グシャッ!

 と嫌な音を立て、武闘家の転生者は魔の眷属を踏みつぶした。

「な! き、貴様!」

「貴様、じゃないよ。今のが召喚魔法!? ふざけんじゃないよ!?」

 と武闘家の転生者はいきり立つ。

「い、一応、召喚したんだよ!」

「たかがゴキブリ一匹じゃないか!」

「本気出せば、十匹はイケるんだぞ!」

「ただの嫌がらせレベルだろ!」

「か、カレン様!?」

 と、その時、僧侶の転生者が恐慌して叫ぶ。

「……なんだい」

 とカレンが怪訝に呟くと同時に、僧侶サンドラは聖属結界詠唱術らしき印を結んだ。

 それに武闘家の転生者は、

 …まさか本当に、魔王は何かの魔法を使ったのか? と彼を警戒するが、

「えんがちょ! 切った!」

 と、ゴキブリを踏みつぶしたカレンに対して、サンドラは結界を張った。

「……」

「くくくくく、我の術策にハマりよったな。勇者一行よ!」

 地獄の釜底から轟くような声色で魔王は、それに乗っかる。

「今、貴様の靴の裏には、ゴキブリの体液が付着している…。雑菌だらけの不衛生な物質がな! 見えない敵に心胆震えあがるがいい! えんがちょ! 切った!」

「何がえんがっちょだ! マジで寒すぎだろ! もうこの場でぶっ殺してやる!!!」

 ブチ切れた武闘家の転生者は、直人に掴みかかった。それを必死に躱す魔王の転生者。しかしすぐに捕まりヘッドロックを掛けられてしまう。

「ギブッ! ギブっ!」とタップする魔王の転生者。

「誰が認めるかい!」とガチで扼殺やくさつしにかかる武闘家の転生者。

「ブレーク! ブレーク! ……ファイッ!」とはやし立てる僧侶の転生者。

 勇者の転生者は、未だ耳目を防ぎガタガタと震えていた。

 武闘家の愛娘は騒ぎに目を覚まし、ぐずり始めていた。

 そして交番付きの巡査らが「君らさっきから何を騒いでいるんだ!」と建物から飛び出し、東京都調布市、調布駅前広場はてんやわんやになるのであった。

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