第2話 事件案件「虎太郎」未解決ファイル

 渉ちゃんには年の離れた兄の虎太郎こたろうさんがいる。

 虎太郎さんは科学者で共同研究者にして友人の大学准教授小林氏と何かの実験中に爆発事故を起こし忽然こつぜんと消えた。

 大事故になった真夏のあの日から十年、2020年になった今も虎太郎さんの姿は行方不明のままだ。

 大爆発で小林氏は奇跡的に軽症を負っただけで虎太郎さんは絶望的とされた。しかし遺体はなく痕跡もない。

 実はあの日渉ちゃんと僕は部活帰りに虎太郎さんの実験施設に来ていた。僕達が偶然目にした事が幾つかある。一つは虎太郎さんは突如開いたブラックホールの様な穴に吸い込まれた事。一つは何人かの怪しげなスーツ姿の男達が虎太郎さんを追っていた事。虎太郎さんは死んでいない。渉ちゃんはずっと彼を助けたいと苦しんできた。


「兄キの友達って」

 渉ちゃんからたちまち血の気がひいていく。手に微かな震え。

「小林教授だよ」

 小林氏は教授になっていて彼は渉ちゃんに至急大学の施設に来るよう連絡を寄越してきた。

「渉ちゃん大丈夫?」

 渉ちゃんがうつむきがちになる。マリカさんが持ってきたモーニングセットを僕等は急いで食べ終えた。渉ちゃんは僕の分も頼んでいてくれていた。

「ごめん考え事してた。しんちゃんこれって兄キ絡みだよね?」

「要件は盗聴される可能性があるから会って話すそうだよ」

「分かった。急ごう」

 渉ちゃんは虎太郎さんの残したノートやPCなどの入ったジェラルミンケースを手に取り地下駐車場へ急ぐ。


 蝉時雨が耳にうるさく夏の逃げ場のない暑さが地下空間に閉じ籠ってる。

 熱気に息苦しさを覚えた。


 僕等は虎太郎さんの愛車日産GT-Rに乗り込み渉ちゃんの運転で小林教授の待つ国立大学に向かった。







  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る