クロちゃんの目的は、メデル《おばちゃん》を立派なビルダーにする事ではく、一人前になる事にゃん!
すみ 小桜
第1話 このおばちゃん疲れるにゃ~
――ここはどこかしら?
『はじめまして、僕は――』
「きゃ~! 猫だわ!」
自己紹介をしていた
『ふぎゃ……く、苦しい』
「あら、ごめんなさい。って、この猫しゃべってる」
『……こほん。改めて、はじめまして。僕はゲームをサポートするクロです』
「あらご丁寧にどうも。私は五十嵐です」
愛子は、クロを抱っこしたまま撫でまわし、自己紹介を返す。
『この世界には、一名が登録しております……』
「あぁ。悟ね。息子なのよ。買って買ってってせがんだのに飽きただって。何でもリアリティがありすぎるから難しいだの言ってね」
『あの……』
「高かったし、家族なら登録してゲーム出来るみたいだし、勿体ないからやろうかしらと思ってね」
『話を……』
「夫も誘ったのよ。そうしたらゲームなんかしたら寝る時間がなくなるって言われてね。だから昼間やる事にしたのよ。それでね……」
『スト~ップ!』
「いまいち……うん?」
『話を進めていいですか?』
「あら、ごめんなさい。どうぞ」
『このゲームは、リアルを反映しています。あなたの記憶を元にあなたを再現しました』
ふっと、目の前に姿見が現れ愛子達を映し出した。
「あら……あなた、羽根があるのね!」
『ふにゃ!』
鏡に映ったクロの姿を見た愛子が、クロの羽根を広げた。形はコウモリのようだが、手触りは胴体と一緒で毛で覆われている。
「かわいいわ! ゲームってすごい。マイホームと思ったけど猫パラダイスもいいわね!」
『あの……』
「私ね、マイホームが欲しかったの。このゲームなら自分で好きな様に設計して作れちゃうって聞いたから」
『だから……』
「ペット禁止だからペット飼えないでしょう。猫がいる世界ならペットも飼え……」
『スト~プ!』
「うん?」
『その話は後で! 話を進めますよ』
「あらごめんなさい。で、なんだったかしら?」
『目の前の鏡に映ったこの姿で、ファンタジーワールドに行くことになります』
「え? このエプロン姿で?」
『はい。あなたの記憶で再現されています。ですが、大抵の方は着替え、姿も変えて行きます』
「そうねぇ。どうせならスーツがいいわね」
『いえ、そういうのではなくてですね……』
「あら違うの?」
『ファンタジー風な感じで……但し、制限があります。ポイントがあってそれを消費します。また初期ステータスなどにもそのポイントを使って調整しますので、まずはそちらの説明もさせて下さい』
「結構、面倒くさいのね。名前決めたらポンじゃないの?」
『それで構わないならいいのですが、例えばこのまま何もせずに名前だけ決めて始めますと、ノーマルステータスでヨワヨワになり魔法もスキルも何もない状態からスタートですので、かなり厳しいかと思います』
「厳しい? あ、お金の面かしらね?」
『……一つお聞きしますが、このゲームの事をご理解しておりますか?』
「知っているわよ。VRゲームでしょう? お家を建てられるのよね?」
『はい。建てられます。釣りだってできちゃいます。それをメインにやっている方も多数おられますが、リアリティがあり税金も存在するのです』
「そのリアリティは、いらないと思うわ」
『はい。よく言われます。別に家を建てるのに税金はかかりません。物を売り買いするのに発生します』
「それでは、家を建てるのにもかかるのでは?」
『もしかしてお家を買うつもりですか?』
「うん? 普通はそうでしょう?」
『現実ではそうですが、この世界では自分で本当に建てられます。材料を自分で確保し、家を建てるスキルを取得し、設計して自分で建てて行く。それが可能になっております。この場合、場所代だけで済みます』
「なんですって! 土地代だけでいいの? そうならそうするわ!」
愛子が興奮して、ぶんぶんとクロを上下に振った。
『にゃ~☆』
「あら、ごめんなさい。大丈夫?」
『だ、大丈夫です。ならビルダーを目指すという事で、そういうステータスにしてから旅立ちましょう』
「そうね。で、それってどうやるの?」
『そうですね。では、まずはこの世界での呼び名を決めましょう』
「呼び名? 五十嵐ではだめなの?」
『あなたは、小説などの主人公になったと思って下さい。イガラシでいいですか?』
「嫌ですね! うーん、そうね。メデル。これにするわ」
『では、メデルさん……』
「メデルでいいわよ。猫ちゃん」
『ではメデル。これから説明をしていきますので、口を挟まないで下さいね。後は僕は、クロです!』
「あら、お名前があったのね」
『最初に自己紹介したのに……』
「そうだった! ごめんね、クロちゃん」
『……にゃ~』
――やっと、一つ決まった。
AIなのに、ため息をつくクロであった。
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