クロちゃんの目的は、メデル《おばちゃん》を立派なビルダーにする事ではく、一人前になる事にゃん!

すみ 小桜

第1話 このおばちゃん疲れるにゃ~

 ――ここはどこかしら?


 五十嵐いがらし愛子あいこ4■歳は、VRゲームにINしたところだ。眼鏡をかけ髪を後ろに一本に結び、紺のエプロンをした彼女は辺りを見渡した。


 『はじめまして、僕は――』


 「きゃ~! 猫だわ!」


 自己紹介をしていたを愛子は、抱き上げてぎゅ~っとした。


 『ふぎゃ……く、苦しい』


 「あら、ごめんなさい。って、この猫しゃべってる」


 『……こほん。改めて、はじめまして。僕はゲームをサポートするクロです』


 「あらご丁寧にどうも。私は五十嵐です」


 愛子は、クロを抱っこしたまま撫でまわし、自己紹介を返す。


 『この世界には、一名が登録しております……』


 「あぁ。悟ね。息子なのよ。買って買ってってせがんだのに飽きただって。何でもリアリティがありすぎるから難しいだの言ってね」


 『あの……』


 「高かったし、家族なら登録してゲーム出来るみたいだし、勿体ないからやろうかしらと思ってね」


 『話を……』


 「夫も誘ったのよ。そうしたらゲームなんかしたら寝る時間がなくなるって言われてね。だから昼間やる事にしたのよ。それでね……」


 『スト~ップ!』


 「いまいち……うん?」


 『話を進めていいですか?』


 「あら、ごめんなさい。どうぞ」


 『このゲームは、リアルを反映しています。あなたの記憶を元にあなたを再現しました』


 ふっと、目の前に姿見が現れ愛子達を映し出した。


 「あら……あなた、羽根があるのね!」


 『ふにゃ!』


 鏡に映ったクロの姿を見た愛子が、クロの羽根を広げた。形はコウモリのようだが、手触りは胴体と一緒で毛で覆われている。


 「かわいいわ! ゲームってすごい。マイホームと思ったけど猫パラダイスもいいわね!」


 『あの……』


 「私ね、マイホームが欲しかったの。このゲームなら自分で好きな様に設計して作れちゃうって聞いたから」


 『だから……』


 「ペット禁止だからペット飼えないでしょう。猫がいる世界ならペットも飼え……」


 『スト~プ!』


 「うん?」


 『その話は後で! 話を進めますよ』


 「あらごめんなさい。で、なんだったかしら?」


 『目の前の鏡に映ったこの姿で、ファンタジーワールドに行くことになります』


 「え? このエプロン姿で?」


 『はい。あなたの記憶で再現されています。ですが、大抵の方は着替え、姿も変えて行きます』


 「そうねぇ。どうせならスーツがいいわね」


 『いえ、そういうのではなくてですね……』


 「あら違うの?」


 『ファンタジー風な感じで……但し、制限があります。ポイントがあってそれを消費します。また初期ステータスなどにもそのポイントを使って調整しますので、まずはそちらの説明もさせて下さい』


 「結構、面倒くさいのね。名前決めたらポンじゃないの?」


 『それで構わないならいいのですが、例えばこのまま何もせずに名前だけ決めて始めますと、ノーマルステータスでヨワヨワになり魔法もスキルも何もない状態からスタートですので、かなり厳しいかと思います』


 「厳しい? あ、お金の面かしらね?」


 『……一つお聞きしますが、このゲームの事をご理解しておりますか?』


 「知っているわよ。VRゲームでしょう? お家を建てられるのよね?」


 『はい。建てられます。釣りだってできちゃいます。それをメインにやっている方も多数おられますが、リアリティがあり税金も存在するのです』


 「そのリアリティは、いらないと思うわ」


 『はい。よく言われます。別に家を建てるのに税金はかかりません。物を売り買いするのに発生します』


 「それでは、家を建てるのにもかかるのでは?」


 『もしかしてお家を買うつもりですか?』


 「うん? 普通はそうでしょう?」


 『現実ではそうですが、この世界では自分で本当に建てられます。材料を自分で確保し、家を建てるスキルを取得し、設計して自分で建てて行く。それが可能になっております。この場合、場所代だけで済みます』


 「なんですって! 土地代だけでいいの? そうならそうするわ!」


 愛子が興奮して、ぶんぶんとクロを上下に振った。


 『にゃ~☆』


 「あら、ごめんなさい。大丈夫?」


 『だ、大丈夫です。ならビルダーを目指すという事で、そういうステータスにしてから旅立ちましょう』


 「そうね。で、それってどうやるの?」


 『そうですね。では、まずはこの世界での呼び名を決めましょう』


 「呼び名? 五十嵐ではだめなの?」


 『あなたは、小説などの主人公になったと思って下さい。イガラシでいいですか?』


 「嫌ですね! うーん、そうね。メデル。これにするわ」


 『では、メデルさん……』


 「メデルでいいわよ。猫ちゃん」


 『ではメデル。これから説明をしていきますので、口を挟まないで下さいね。後は僕は、クロです!』


 「あら、お名前があったのね」


 『最初に自己紹介したのに……』


 「そうだった! ごめんね、クロちゃん」


 『……にゃ~』


 ――やっと、一つ決まった。


 AIなのに、ため息をつくクロであった。

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