退却
†ダンテ†は「わからない」と答え、おぼつかない足取りでこの場を離れだした。
「忘れ物を、探しに行く」
そう告げて振り返ることなくどこかへと消えていった。
誰も追おうとはしない。
姿が完全に消えるまで、誰もが声をかけることすら忘れていた。なにがどうなったのか。†ダンテ†はどこに行ってしまうのか。そもそも勝負はどうなるのか。
いま起きていることを理解してユーツの国王が声を上げるころにはどうにもならなくなっていた。
「おい待て! 優遇してやった恩はどうした!
戻って来い!」
姿も見えない†ダンテ†へと声を張る国王。もちろん答える当人の姿はどこにもない。
ひと通り叫んで息を吐く国王。辺りを見回す余裕もようやく生まれたようだ。
相手の軍隊がゆっくりと迫っていることにも気がついた。一方の自分のところの軍は、なんの命令もないのにゆっくりと下がっている。
どうするおつもりです国王様。誰も声には出さないがそんな空気が充満している。
あと一言。一言だけでいい。国王がその一言を発声すれば誰も文句なく行動に移れるだろう。迫り来る相手の軍隊。まだ距離はある。しかし限界の距離もそう遠くはない。
唇の端を噛む。苦虫でも噛み潰したような顔で、イヤイヤと声を振り絞る。
「退却だ」
相手の軍とその国王が踵を返して退却を始めた。
いまこそチャンスだと距離を詰めようとするが
「全軍停止!」
その一言で足を止められる。
「深追いすることは許さない! 我々もここで退却をする!」
意味がわからない。そんな表情を浮かべる兵士もいたが、いまここでの最高指揮官である国王の言葉に逆らう者はいない。
雪那と冴橋を保護してやがて、あれだけ人がいた草原には誰もいなくなった。
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