傷つき続ける心
戦地にたてられたテントの中に一人座る雪那。
音がして、誰かがテントに入ってきたが顔を上げる気力もなかった。報告に来た兵士ならこの姿勢のままでもいい。
「顔が見えなくてもわかるぐらいに、ひどい顔しているな」
声がして、兵士じゃなくて別の青年だと気づく。
「冴橋さん……ですか。
お久しぶりです」
挨拶をするが、まだ顔を上げない。
「あぁ……そう言えば増援、ありがとうございます。非常に助かりましたと、大将さんも言っていましたよ」
ようやく上げた顔はやはり、冴橋明が言ったとおりひどいものだった。
「何度も何度も助けてもらって、近いうちに王様からお礼があるんじゃないですかね」
顔に生気が感じられない。笑顔を浮かべているはずなのに不気味という感想しか浮かんでこない。
「あれ? そういえば今日はエルクさんは一緒じゃないんですか?」
「ん? あぁ。エルクさんは別件でちょっとな」
「そうなんですか。じゃあエルクさん寂しがっているかもしれませんね」
「それより、いいか」
雪那の言葉に被り気味で
「ひとつ、どうしても聞きたいことがあるんだが」
改まった口調。
「はい? なんですか?」
力なく首を傾げる。
冴橋は一旦彼女に背中を向けた。
「いやここまで言っておいてなにを迷っているんだオレは」
雪那には聞こえない程度の小声。首を振って、再度彼女へと向いた。最後に深呼吸。
「なぁ、自分が捨て駒にされているって気づいているか?」
雪那へと問いかけた。
まるでガツンと頭部を殴られたような気分だった。
「捨て駒……ですか?」
意識もようやくはっきりしてきた。
それまでは、まるで霧の中にいるような気分だった。モヤモヤと足元さえも不安定な心情。
「あぁそうだ。捨て駒だ」
復唱した雪那へ向けてもう一度言葉が投げつけられる。
「そうだな……オレたちの活動的に言うのなら、捨てアカウントといえばいいか? ソッチの方がわかりやすいか?
つまりは、好き勝手やっていつでも捨てられる存在なんだ」
息を吸う。
「お前はな」
指を刺された。
「おかしいとは思わないか? もう何週間もこうして最前線の、それも一番戦闘が激しい場所に送られて、そうして精神を擦り切らされて。
今のその扱いはおかしいとは思わないのか?」
「で、でも、それってつまりは私がいないと兵士が死んでしまうから」
「その前に自分がどうにかなるんじゃないのか。それともなにか? 自分はどうなってもいい。誰かを助けられるなら朽ち果ててもいいとか考えているんじゃないだろうな」
だんだんと声が荒がっていく。
「オレはな! そんなバッドエンドなんか認めないぞ」
きびすをかえす。
「オレの知っている配信者の雪那は、いつも明るくてリスナーの言葉をちゃんと聞いて、時に茶化して時に真剣にアドバイスを送って、しゃべっている本人も聞いている側も、なにより楽しいと思わせてくれる配信者主だった。
リアルで会うんじゃなかったよ」
最後の言葉は吐き捨てるようにして、そのままテントから出て行った。
残された雪那はただ一人、吐き捨てられた言葉が頭のなかで鳴り響きながら、また俯いていく。
『でもね、こうしていくしかなかったんだよ』
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