トークスキル
どこか子供っぽくてテンションの高い青年。それは相手が一国の王でも変わりはしなかった。
「というわけで。以上がうちの国王様からのご伝言です」
ひょうひょうと言い切った。
「こちらとしては事を荒立てるつもりは一切ない。異世界からの客人を護衛もつけずに行かせるのがなによりの証しってことなんだそうですけど、これってつまりオレはいいように使われているってことなのか?」
振り返って聞かれても答えられないと、冴橋の後方に立つ雪那は無言で首を振った。
「ひとつ、聞いてもいいかな?」
「オレなんかで答えられるならなんでも」
直立不動の雪那と違い、冴橋は膝を少し曲げてラフな姿勢。
「先日のこの国を襲った原因の事を、キミとキミのいる国はなにか知っているのかな?」
あれ? なんだか空気が重たくなったような。気を抜くと足が後ろに下がってしまいそうな。そんな流れを感じる。
「私もね、一応は一国の王なんだよ。
王様ってのはいつもイスに座って書類を眺めているだけのように思われることもあるんだけどね、実際その時間は多いけど。そうしていられるために、自分は座っていられるように、ありとあらゆる場所から情報が来るようなシステムは構築しているんだよ」
ひょうひょうとしてどこかとらえどころのない、それが今まで雪那の前に立っていた王様だった。どこか王様らしくない印象が今は消えていた。
「私の仕入れた情報の限りだと、この世界へとやってきた配信者はキミたち2人だけではない。ある程度まではどこの国かまで絞れてもいる。でも詳しいことまではまだわかってはいない。で、だ」
この部屋から出て行きたい気持ちを抑えつつ彼女は足に力を入れる。
「キミとキミの国はどこまでのことを知っているのかな?」
「さぁ?」
冴橋は薄く笑って流した。
「オレは単なるお客にすぎないからさ、もしうちの王様が知っていたとしても知らされない可能性はある」
部屋の中の空気がだんだんと軽くなっていく。
「オレに与えられた仕事は、ここにいるっていうオレと同じ異世界から来た人間に会えって言うことと、もう一つここの王様に言葉を伝えて欲しいってことだけ」
「もう一つ?」
「あぁ。ここと事を荒立てるつもりはないってのはさっき言ったと思うけど、協力関係にはなる。
この世界の停滞からの脱出への協力は出し惜しみするつもりはないそうです」
王様の目が見開いた。
「……それってもっと先に言うべきだったんじゃないのかな」
ポツリと呟いたつもりだったが、彼女の言葉を冴橋は拾っていた。
「うちの王様からはそう言われていたんだけどね。オレとしてはその前に、ここの王様の腹の中を探ってみようかなっていう、ちょっとしたおせっかいがあってね」
「ふむ……で、私がなにを考えているのか、それはわかったのかな?」
また空気が重くなる。腹痛というわけでもないのにお腹を押さえてしまう。
「わからなかったらうちの王様からの言葉を最後まで伝えていませんよ」
笑顔で言い切った。
「冴橋さんはどうしてあんなに堂々としていられるんですか?」
ようやくあの空気から開放された。
お気に入りになった、城内から街を見下ろせる場所で雪那の精神は限界から回復中。
「ん? オレはいつもあんな感じだぜ。
それが公式イベントから国王様の前になっただけだ」
冴橋は城下に背を向けるように腰ほどまでの壁に体重を預ける。
「オレは別にラノベの主人公になりたいわけじゃない。いきなりなんでか異世界へと連れて来られて、なにがどうなってかオレの放送を見ていたっていう国王に頼まれて、この国との中継役になって欲しいって言われて、なにもかも無条件で納得したわけじゃあない。それはアンタも一緒だろう?」
「は、はい」
「だろ? オレだって混乱するよ。こんな力があるって言われてもよ」
そう言うと冴橋は腕を伸ばして手のひらを上へと向けて、そこに茶色いボックスを生み出した。
「ったくなんの冗談だよ。このボックス、オレが元の世界でよく実況していたゲームのブロックそのまんまなんだぜ」
困ったように笑う。
「アンタにもあるんだろう?」
伸ばしていた腕を引き戻すと、重力に従って茶色いブロックは地面へ落下する。重さがあるのかどうか。地面へと激突したはずのブロックはなんの音も発しなかった。
「私は声、みたいです」
「声? あ、……そういうことか」
もう一度、今度はグレーのボックスを生み出して先ほどの茶色のブロックの上に積み重ねる。
「オレはゲーム実況者であのゲームをずっと実況していたからこんな力があって、アンタは雑談配信でトークしていたから声の力があるわけか。
はっ。ますますわけわかんねーわ。じゃあなんだ。他には踊る奴がいて歌う奴がいてあとはなんだ? MAD製作者でもいるのか?」
深呼吸をして心を落ち着かせる。
「アンタさっき言ったよな。よく堂々としていられるって。オレは答えたよな。いつもあんな感じだって。ちょっと付け加えるわ。オレは、オレをこんなところにこさせた奴を一発殴るまでは、調子を崩すわけにはいかないんだ」
開いた手のひらにこぶしを打ち込む。
「あの日から三日後に新作ゲームの発表生放送に呼ばれていたっていうのに、もうとっくに過ぎてしまっているじゃないか。オレがどれだけ楽しみにしていたか……!」
何度も何度もこぶしを打ち込む。
「……わらったなぁ」
自身も笑いながら。冴橋に言われて雪那はいま自分の表情に気がつく。
「笑顔でいなよ。
配信者だったらさ。リスナーが心配するぜ」
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