第2章 積み上げてみた

つみあげていくもの

 その日は朝から騒がしかった。


 変な目覚めで二度目をしようとした雪那が、王様の命令で叩き起こされるほどに騒がしかった。それなので、今の彼女は少し機嫌が悪い。


 着替えてから王様のいる間に行くことに。着替える間のほんの少しの間も、部屋の外で待機する兵士に何度も急かされて、やはり機嫌はよろしくない。


「すまないね。こんなに朝早く」


 王様の間と彼女は認識しているが、王様としての仕事をする部屋なのだろうと思っている。謁見する場所としてはあまり広くはない。


「おはようございます。それで、なんなんですかこの騒ぎ」


 頭を下げつつ、頭部の寝ぐせが気になって忙しなく直している。


「それがだね。よくわからないことが起きているようでね」


「はぁ」としかリアクションできない。


 寝起きで頭がまわらないということもあるが、なにより王様が言葉をぼやかしている気がする。


「いま、塀の外で青年が叫んでいるようなのだよ。

 頼もう。だったかな」


「はぁ」


 なんだか漫画で見るような道場破りっぽいセリフだなぁという、ぼーっとした感想を浮かべる。


「青年の他にもう一人、メイドのような女性がいるようだが、彼女の服に縫い付けられている紋章から別の国の者のようだということまではわかるのだが、なんの用なのだと思うかな?」


「いやぁ。それを私に聞かれても困ります」


 じっと、王様に見つめられる。気まずくなって少し視線を外す。


「もしかしてこの間みたいに攻めてくる……ってわけではないみたいですね」


「うむ。それであったらこんなにゆっくりは出来ないだろう。

 今のところ、叫んでいるだけなのだよ」


 目の前の机に手を置いて立ち上がる王様。


「それでだ。雪那さんにはこの青年の元へと言ってもらって、話をしてもらいたいのだが」


 1秒。王様の言葉が耳に入ってくる。2秒。言葉を理解する。3秒。けれども頭がぼーっとしているために無反応。4秒。驚きの表情を浮かべた。


「えっ、な、なんで私がなんですか?」


 王様に問い詰める。


「私が行く必要あるんですか?」


「もちろんだとも。だからここに来てもらったんだよ」


「え~……」


 納得がいかないように不満を漏らす。


「もちろん兵士もつけよう。なにがあるかわからないからね」


 安心させるために言ったのだろうが、なにが起こるかわからないというセリフは彼女を不安にさせる以外の効果はなかった。


 一度部屋に戻って身支度をやり直し、何度も何度もため息を吐きながら城を出て、城下町を歩き、やがて塀の外へと出る。そのころには後ろに控えていた兵士たちも緊張の色を見せて、一人は雪那の前へと回って、問題の青年のいるところまで進んでいく。


 今のところ、王様が口にした叫び声は一度も聞こえてこなかった。もしかしたら叫び疲れて帰ってしまったんじゃないか。ようやくここで雪那の表情に安堵の色が戻る。そしてすぐに消えた。まず前を歩く兵士が足を止めて上を見た。つられて雪那も同じ方角を見上げてだらしなく口をひらいた。あまりの光景に驚きの声も漏れてこない。


冴橋さえばし様。お探しの方がお見えになられましたよ」


 ソレの足元にメイドがいた。雪那たちの姿を見つけるなりソレの足元から声をかける。ソレは不思議な形をしていた。四角い箱が斜めに積み上げられている。地面に密着している箱は全体が茶色く、まるで土のような色合い。そこから斜めに積み上げられている、と言っていいのだろうか。角同士がかろうじて接触しているだけで、直接地面に置かれているわけでもなくほとんどが宙に浮いている箱は9割型土のようで、残りの1割が緑色で、まるで土の上に生える草のよう。それらが同じ形で斜めに積み上げられているその先に、下から声をかけられて降りてくる青年がいた。


「おっそいんだよなぁ。どうせならもっと遅くても良かったんだよ。この味気ない壁になにか作ろうかって、考えていたのによ」


 地上から高さにして数メートル。壁よりも高い位置から階段上の箱を降りてきた青年は、地上で驚きに言葉を失っていた少女を見つけると


「おっ!」


 驚きの声を上げて、驚きすぎて足を踏み外しそうになる。


「っとっと」


 箱にしがみついて一安心。胸を撫で下ろすのは地上にいるメイドも一緒。


「いやぁ驚いたね。叫んでいれば誰か来てくれるだろうと思っていたんだけどさ、まさか一番会いたかったアンタが真っ先に会いに来てくれるなんてね、っと! っと!」


 先ほど踏み外しそうになった箱を軽快に降りていく。地上まであと少しのところでジャンプ。地面に着地して雪那へと振り返った。


「直接会うのは初めてになるんだっけか? オレは冴橋明さえばし あきら。よろしくな!」


「冴橋……? もしかしてアナタも?」


「おう!」


 力強く答えてこぶしで胸をどんと叩く。


「オレはゲーム実況者だ!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る