おさななじみ

うにどん

本編

「昔、大学生の頃、好きな人が居ました」


 そうAさんは切り出すと忘れたくても忘れられないという話をしてくれた。


――好きな人、仮にBとしよう、Bが好きだったAさんは友人の恋人がBと友達同士だと知り相談もといBと親しくなりたいと頼み込み、休みの日にAさん、B、友人カップルの四人で遊園地に遊びに行く事になった。

 Aさんは緊張していたものの、Bは初対面であるAさんにフレンドリーに接してくれたお陰で楽しい一時を過ごしたという、帰る前に友人カップルの計らいでAさんはBとマスコット像の前でツーショットで写真を撮った。

 この時のAさんはBとの写真は大切な宝物になるだろうと思っていた。


「遊園地の写真、現像したんだけどさ・・・・・・」


 そう歯切れ悪く友人はAさんに写真――マスコット像前で撮ったBとのツーショット写真を見せるまでは。


「ひっ・・・・・・!」


 AさんとBの間、まるでBに寄り添うように赤い服の女が写っていた。

 余りにも鮮明な心霊写真に思わず軽い悲鳴を上げた。


「な、なにこれ・・・・・・?」

「私もなにこれだよ。遊びに行った遊園地には心霊写真がよく撮れるなんて噂ないし・・・・・・、それにこの女の人、A、アンタの事、見てるような気がしてさ」

「やだ! 怖い事言わないで!!」

「ごめん、怖がらせるつもりはなかった。ただ、そう思っただけだから」


 Aさんは友人にそう言われて気になってもう一度、写真を見る。

 友人の言うとおり、赤い服の女は寄り添ってるBではなくAさんの方を見ていた、ハッキリと敵意があるという目で。

 敵意を持ったその目が写真の自分ではなく此方を見ているようで更に気味悪く感じ、処分してほしいと言いその日はそれで終わった。


 それからだ、Bと一緒に居るときだけ視線を感じるようになったのは。


 最初はあの心霊写真を気にしすぎるせいだと思っていたが、赤い服の女が見ているという感覚が日に日に強くなっていき、Bとの楽しい時間なのに怖くてたまらなかった。

 それならBに会わなければいいじゃないかと思うが、折角、友人が接点を作ってくれたのに申し訳なかったのと、Bへの想いを諦めたくなかったAさんはBと会い続けた。


 ある日、Bから誘われ映画を見に行ったときだ。


「あら、Bじゃない」


 映画が終わって出て行く時に声を掛けられた。

 赤い服を着た女に。


 Aさんは思わず凝視した、あの心霊写真に写っている赤い服の女が其処に居た。

 固まっているAさんに気付かないまま、Bは親しげに女と話し始めた。

 聞けば幼馴染だと言う。

 何も話さないままもどうかと思い軽く挨拶をすると女も軽く笑顔で返したが、その目は全く笑っていなかった。

 数分話した程度で女と別れた後、Bに女のことを詳しく聞いた。


「幼い頃から居すぎて家族みたいなもんだから異性として見てないよ、お互いにね。彼奴、彼氏いるし」


 そう話すBは嘘をついている様子はなく、Aさんはそうなんだと返すしかなく軽い食事をして帰路についた。

 

 その日の夜、Aさんは息苦しさを感じ目を覚ました。

 薄らと目を開けたAさんの目に飛び込んだのは昼間に出会ったBの幼馴染である赤い服の女だった、女はAさんを血走った目で見下ろしていた。

 Aさんは女の存在に気がつき逃げようとしたが体が上手く動くことが出来ず、女を見ていることしか出来なかった。

 女はやがてゆっくりと口を開き、


『Bは私のモノBは私のモノBは私のモノBは私のモノBは私のモノBは私のモノ

Bは私のモノBは私のモノBは私のモノBは私のモノBは私のモノBは私のモノ

Bは私のモノBは私のモノBは私のモノBは私のモノBは私のモノBは私のモノ

Bは私のモノBは私のモノBは私のモノBは私のモノBは私のモノBは私のモノ

Bは私のモノBは私のモノBは私のモノBは私のモノBは私のモノBは私のモノ』


 そう言い続けた。



「その日以来、私は体調が優れないと言って彼の誘いを断るようになりました。

暫くして、友人カップルが別れたのを切っ掛けに彼とは疎遠になり、人伝で彼が別の女性と付き合ったけど直ぐに別れたという話を聞きました。

 なんでも、彼と付き合い始めたら怖い形相の赤い服の女が毎晩夢に現れたからだとか」


 Aさんは話し終えると冷めた紅茶を飲み、一息つくと再び口を開いた。


「どうして、この話をしたかと言うと数週間前に彼と再会しました。職場で。

私、ウェディングプランナーをしてまして、結婚の下見をしている彼と再会しました。

 彼、結婚するそうです、幼馴染の彼女と、幸せそうに話す彼を見て私はいつまでも抱え込んでいるこの記憶を吐き出したくて話しました。

 彼には未練はありません、私は二年前に結婚しているので、ただ、彼女の執着が実を結んだのだと想うと、どうしても気持ちが曇りかがってしまって・・・・・・」


 そう話すとAさんは話を聞いて下さりありがとうございますと去って行った。

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