ボッチでニートな俺は、バイトで〝神のお使い〟始めます。

永遠こころ

ネムリア聖女奪還作戦

第1話『冒険の始まり?』


 色とりどりの花咲き乱れる草原。

 その向こうに、太陽を反射して煌めく大海原。

 空はどこまでも青く澄み渡り、吹く風も心地よい――。


 俺の名前は美空井みそらい れつ

 フリーでボッチの無職である。

 そして、そんな俺の冒険が今ここに始まる……。


「いや、違うだろ! どうしてこうなった!!」



 事の起こりは三日前――。


 俺は職を探しに最寄りの職安に行ってきた。

 前職を人間関係のトラブルで辞めた俺は、自分で借りたアパートで引き籠り同然の生活を送っていた。時折日雇いのバイトを見つけながらも貯金を食いつぶすような生活。しかし、前職の退職金も使い果たし、もうこれ以上自宅警備員を続ける訳にいかなくなったのが理由である。

 正直言って金さえあれば、このまま一人で生きて行くのに何の不満も無い。俺は孤独など感じた事さえなかった。



 そして……。


「役不足なんだよ! 俺に合ういい仕事なんて全然ねーや」


 と検索用のパソコンの前で呟いていた。

 実際には高卒の俺に就ける仕事は限られる。おまけに車の免許も無い。さらに言えば対人関係に難のある俺には接客業は向いてない。それらの条件に合う仕事は全然なかった……。


「ちっ! 世の中腐ってやがる……」


 実際には不貞腐れているのは俺である。


 そう愚痴を言いながら職安を後にした。

 ついでに駅前のコンビニでも行って立ち読みでもして帰ろう……そんな事を考えながら歩き出した。


 丁度、その時――。


「ひーっひっひっ、お兄さんこれ持ってきな」


 振り向くとそこにはもんぺの様な和服を着た体のやけに大きなお婆さんが立っていた。――あれ? この人どっかで会った事あるな……。


「何?」


 俺は見上げる様にそれに答えた。


「こーれ」


 お婆さんが強引に一枚のビラを押し付けて来る。俺はそれを受け取った。


『急募! 登録無料! 貴方に合ったお仕事紹介します。やりたい仕事がきっと見つかる♡

 様々なお手伝いするお仕事です。やりがいのあるお仕事です。

 短期から長期、簡単な手伝いから専門職まで幅広い仕事をご用意しています。

 出張地域は遠隔地が多い為、拘束中の給与が支払われます。

 初めての方でも安心、万全のサポート体制!!


 派遣業ワールドアドベンチャーコーポレーション 日本支部』


 可愛い巫女のイラスト付きで描かれたビラだった。


 ――成る程、登録型の派遣業なら、自分で仕事を探さなくても向こうで勝手に合う仕事を探してくれるかもしれない……。


「なあ、婆さんこれ……」


 しかし、見上げた俺の視線の先にはもう誰も立っていなかった。――どこ行った? まあいいか。

 住所は駅前。丁度コンビニの向かいになっている。


「どうせ暇だしな。話だけでも聞いてみるか」


 俺はそのビラに書かれている住所へと向かった。


 

「……」


 そして見上げた。――何だこれ?


 そこには真新しい大きなオフィスビルが建っていた。


 ――あれ? 確かここにはパン屋があったはず……。先週、焼きカレーパンを買って食べた記憶があるのだが間違いだろうか???


 ガラス張りの自動ドアの向こう側。受付カウンターの上に大きく〝ワールドアドベンチャー〟と書いてあるのが見えた。ここで間違いないようだ。――新興のベンチャー企業なのかな……。



 俺は戸惑いながら自動ドアを開き受付の前に立った。


「本日はどういった御用件でしょう」


 素敵な笑顔の若い受付嬢が問うてきた。素敵な笑顔は直視できないのでやや伏目がちにビラを見せる。


「すみません、これ」

「ああ、そちらでしたら、現在説明会をやっております。お受けになりますか」

「はい……」

「でしたら、このプレートを持って、そこの階段を上がってすぐの会議室にお越しください」


 そう言って渡されたのは、何も書かれていない銀色の名刺サイズの金属板だった。



 階段を上がり、説明会と案内の貼られた会議室の扉を開ける。

 沢山並んだ机に五人程の男女が座っている。会議室の前の方には二人の外国人男性と一人の女性がホワイトボードの前に立ち、熱心に何かの説明をしている。

 俺は入ってすぐ近くの机の椅子を引き座った。


 金髪のイケメン外国人が流暢な日本語でホワイトボードに略図を書きながら説明している。

 もう一人のいかつい金髪はこちらを睨みつけるようにその背後に控えてる。

 巨乳のお姉さんが書類を抱え立っている。


「……という訳で今回の作戦は、一.通行書を使って王都に潜入。後に情報収集。二.王城に潜入。三.どこかに匿われている聖女を探し出し奪還するという流れになります」


 ――ん? 何だ、ゲームの話か……。一体何の仕事なんだろう。デバッグとかいう奴だろうか、それともテストプレイという奴か?


「はい、これ」

「え?」


 突然の声に驚き振り向くと、そこには先程まで前に居たお姉さんがいつの間にか横に立っていた。


「あ、どうも」


 眼鏡をかけた黒髪ロングで黒スーツ姿の巨乳な女性。たれ目で理知的で優しい表情が印象的だ。俺はその書類を受け取った。


「貴方、新人さん?」


 巨乳なお姉さんが聞いて来る。


「あ、はい……」


 顔が赤面してる。直接目を合わせられない。取り敢えず胸を凝視する。


「ちょっと、登録証を見せてくれる」


 ――登録証? これのことかな。俺は受付で貰った金属プレートを差し出した。


「お名前は?」

美空井みそらい れつです」


 俯いたままそれに答える。さらに胸を凝視する。


「はい、これ。無くさないでね」


 戻された金属プレートには美空井烈Misorai Retuと刻印されていた。――え? いつの間に?


「この会社は習うより慣れろが基本よ。貴方にはこの仕事が同時に採用試験になるわ」


 続けて巨乳のお姉さんが説明を始めた。


「え? あの まだ何の説明も聞いてませんけど」

「ん~、そうね。ここの時給は千五十円。必要経費はこちら持ち。別途、成功報酬が出るわよ」

「いえ、その仕事の内容がまだ……」

「仕事の内容はその書類に書いてある通り。もし、わからない事があれば連絡をくれればウチのサポート課が全力で支援してくれるから、取り敢えずやってみなさい」

「はあ……」


 そう言い残すと巨乳でたれ目のお姉さんは大きな胸を揺らしながら前の方へと去って行った。揺れるお乳は無条件に素晴らしい。

 ホワイトボードではまだイケメン外国人の説明が続いている――。


「……拘束時間は百二十時間で五日間。延長はありません。達成成功報酬は十万円となります。何か質問はありますか」


 それに、座っていたごつい筋肉質のおじさんが手を上げる。


「今回のデスペナルティーは」

「デスペナルティーはありませんがワンキルで退場です。再投入はありません」

「うむ」

「他に質問のある方は居ませんか」


 イケメン外国人が声を張り上げる。今度は誰も手を上げなかった。


「では、開始は三日後の正午。五階のゲート前に集合です。参加される方はこちらにてプレートの登録をお願いします」


 ――どうするかな……。


 そう言えば以前に発売直前のゲームのテストプレイの話をテレビで見たことがある。それでゲームバランスの最終調整や最短攻略時間を計測するという話だった。渡された書類にも装備品やアイテムといった文字が並んでいる。


 ――これは当たりではなかろうか。確かにこの仕事は面白そうだ。いまいち内容はわからないが、まあ良いだろう。善は急げと言うしな。


 気が付けば俺はイケメン外国人の前に立っていた。

 プレートを差し出す。続けて、はっきりとこう言った。


「お願いします!」



 それから、三日後……。


 書類に書いてあった五日分の着替えと宿泊道具をバッグに詰めて、再度ワールドアドベンチャーに訪れた。受付でプレートを見せるとすぐに五階へと案内された。



 五階ゲートルーム――。


 俺はゲートの前に立った。見事な彫刻の施された立派な門が置いてある。――何これ……地獄門?

 門の上のガーゴイルぽい石像が動いている。ちょっと気味悪い。


 その時、重厚な音を響かせて門が開き始めた。


「え? あの、まだ何の説明も……」


 眩い光が溢れた。



 そして、冒頭へと戻る。


「どうしてこうなった!!」

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