三日目夜・投票のお時間デス

 そして、投票の時間になって。

 俺たちが投票室についたころには、ほかの全員がすでに着席していた。全員が押し黙ったままだったが、これまでの二日間と同じ席に同じように腰かけて。


 一つだけ違うとすれば、昨日の「」だろうか。


 裕也は……ユウは、昨日までの学ラン姿ではない。ウチの女子制服、紺のセーラーに、学年指定の赤いスカーフを巻いて、なれないスカートが気になるのか――あるいは、百瀬とのを思い出しているのか――もじもじと落ち着かない様子で座っている。ちらりと俺の方を見て、またあの辛そうな表情を浮かべた気もするが……俺はユウの席を極力見ないようにして、自分の席に着いた。


 ――心の中で、より一段とが深まる。昨日までは見えていなかった、そして、今、はっきりと見えてきたこのゲームのについて。


『それでは、ルールの再確認デス――』


 三度みたび、無機質な声がルールの再確認を行う。俺はその鬱陶しい声を聞き流すようにして、正面の席を見据えた。

 黒い、艶やかな髪の女が、もはや本性を隠すこともせずに笑っている。値踏みをするようにほかのプレイヤーを見下しながら、蛇のように笑っている。


 このゲームのを。百瀬だけを俺はゆっくりと見据えて。


『――それでは、投票のお時間デス。10分以内に投票先を決定してくだサイ。』


 投票の時間になっても、結局口を開く者はいなかった。パネルの操作音だけが空しく響いて、長い、長い10分間が過ぎていく。


 その間に、俺は少しだけ、ほかのプレイヤーの様子をちらりと見やる。不安そうにそわそわと身じろいでいる者。どこかリラックスした表情を浮かべる者。そのどちらにも平等に時間は流れて。


 そして、開票の時は来る。


『全員の投票を確認。開票を行いマス。』


 パネルの表示が、切り替わる。


『岬 治樹:2


『柄本 弓彦:1票』


『広井 智成:1票』


『百瀬 恭一:2票』


『太田 弘道:0


「……また、ッスか。」


 二日続けての脱落者に、柄本と広井が、ほんの少し動揺する。それでも昨日のような混乱を起こさないのは、きっと俺たちが並んで入ってきた時から、ある程度この結果を予想していたからだろう。


「ヒロ、おいで。」


「うんっ。」


 開票してから、どこかそわそわとしていた弘道……ヒロに、俺がそう声をかけると、少女は、麗らかに笑いながら私に駆け寄ってきた。

 胸元に飛び込んできて甘える少女を優しくなでながら、俺はまた、正面の席を……百瀬を見据えて、眉根に力を込めた。


 こういうゲームなんだろう? 心の中ではつぶやく。これは、プレイヤー同士の知恵比べでも、「仕掛け人」との戦いでもない。


 「投票」なんてシステムに、最初からゲームとしての意味はない。これは、「儀式」だ。少女の体を得た少年たちが、自ら「男」を捨てて、誰かのメスに堕ちる、その瞬間を見てための儀式だ。ユウの制服も、つまりはそういうことなのだろう。


 本当の意味でのプレイヤーは、「狼」なのだ。責任ある立場に疲弊したユウや、自分を守るための「男」に傷ついているヒロを、奪い合う「狼」こそが。


 ――つまり、私と、百瀬だ。

 狩場に放たれた狼の、エモノの奪い合い。そして最後に待つのは、狼同士の一騎討ち。

 これは、それを見て楽しむためのゲームだ。


 百瀬は俺たちの様子を見て、また静かに笑っている。まるで、ゲームの盛り上がりをただただ楽しんでいるかのように。


「ねぇ、今日は、の部屋で一緒に寝てくれる? 」


 私の胸元にぐりぐりと額を押し付けながら、ヒロが甘えた声でそう尋ねる。愛らしいその様子に、ほんの一時だけ眉間の力を緩めながら、私はもちろん、と彼女の額に口づけをした。

 頬を赤く染めながらうれしそうに笑うヒロを見て、きっと彼女にセーラー服はよく似合うだろう、と、心の中でほくそ笑んだ。


 そうだ。彼女たちに必要なのは、愛される実感だ。百瀬のような狡猾なやり方では、決してない。

 心の中で強く、強く叫ぶ。あの蛇のような女への宣戦布告を。

 渡してやるものか。お前のような女に、を。これがならば、私は必ず勝つ。


 そうだ。他の二人も、ユウも、百瀬も。一人残らず、私が狩る。

 ――全員、わたし母性おっぱいで、脱落メス堕ちさせてやるッ!!

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TSメス堕ち人狼!!!!!!!! 加湿器 @the_TFM-siva

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