空はあおく
ひのもと
日常の能力
僕はいわゆる能力者である。
空中に見えない壁を作り出すことができる。それは脆く、少し力を入れるだけで崩れてしまうようなものだ。発泡スチロールの強度に近い。目視できる範囲に、ちょうど両手を広げたくらいの長さまで作ることができる。
何に使うのか皆目見当もつかないような能力だ。
だが、最近は僕の能力が大活躍している。国の機関から直々に頼まれた仕事のようなものだ。
それは今、隣を浮いている友人に大いに関係している。
「今日は一段と空が青いな」
地に足をつけて歩く僕とは全く逆の状態で空中を歩いている彼の踏み締めるそれは、共に歩きながら僕が作り続けている壁である。彼が宙を踏み外して怪我でもしてしまうと大変だということで、国から仰せつかった大事な仕事だ。
彼は自分が宙を歩いているという意識がない。人と真逆の体勢でいることにも気付いていない。その希有な能力である、重力を操るという力を得た代償のように、真逆でいる認知が欠落しているのだ。
楽しそうに空を眺める彼の視線に倣って、青空を見上げる。透き通るように青い。雲ひとつない、天晴れ合格点の青空。
保護対象となるほどの人物なのだという。僕に出会う前、彼は度々空を踏み外し重力制御を失敗してしまい、そのままくるくると縦回転しながら壁や物や車に当たってしまっていたという。
彼を失うことは人類にとっての損失であるらしい。そのため、もう二度と怪我をしないよう、空を踏み外さないよう、僕の能力は活かされ続けている。
つまり僕は彼のために、国の意思に従って、自分の時間を犠牲にしているのだ。
「あっち、雲が向かってきてる。雨降るかも」
いかんせん逆さなので指を刺す先も見辛いので、その足を掴んで引っ張り上げ、指の先が見えそうなところに壁を作りそれ以上浮き上がるのを止めてやる。指の先には、なるほど確かに不穏な色をした雲が迫っている。
「雨降る。どうする?釣り行けなくね?」
せっかく背負ってきた釣竿2人分を持って雨雲から逃げるなんてごめんだ、と言うと、彼は笑った。
「追い払おう。これは勇気の決断だ、俺たちの冒険には必要なことなんだ」
二人の釣りスポットだけ、局地的に降水確率0%にしてくれるなら、無駄な時間も時間の犠牲も全てチャラだ。
空中を歩く彼について、その前に壁という名の空中の地面を作りながら、さて今日は何が釣れるかと思いを馳せる。ニヤニヤした顔を見られたようだが、知らんふりをした。
空はあおく ひのもと @yocchama
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