第85話




「ノワール」


「————はい」


「この話。受けさせてもらおう」


「………はいっ……よろしく、お願いいたします……」


時刻は昼過ぎ、いつもの街に過ぎる昼頃の熱気は過ぎ去り、都市の住人達は午後の仕事へと精を出し始めている時間。レストランにも続々と人が減っていき、空いている席の方が多くなっていたその頃。秋達も席を立とうとしていた間際に秋が最後の決断を下したのだ。


「秋。これでいいの?」


「ああ、どのみちたかが情報収集だけで時間を食うわけにもいかない。ならここはひとつ全てを知る龍に全てを聞いてみるのも悪くないと思った」


「ん。秋がそれでいいなら。それでいい」


それを傍らで聞いていたノワールは、あまりにも突拍子もない。だが確かに悲願が叶ったことを受けて、あふれる涙を抑えることが出来なかった。


「……ありがとうございます……ありがとう…ございます…」


「まあ、なんだノワール。まだ勝てると決まったわけでもないんだ。やめてくれ…それに、これは契約でもある。内容はしっかりとしないといけない。わかっているよな?」


「うう……は、はい……」


「で契約内容に関してだが、俺の方は『ノワールの集落を根城にする邪龍の討伐』だ。そしてそれを達成したときにノワールが行う契約内容は『俺とリアを星王龍の元まで案内し、可能な限り星王龍とのコンタクトの手助け』だ。わかったか?」


「—————はい。了解しました」


最後には凛とした顔に戻ったノワールが、改めて契約の確認をする。


「そして最後だ。もし俺らが邪龍に勝てないと判断した場合。俺らはお前ら竜人の集落を見捨てて撤退する————そのために契約の中に俺たちの契約である『邪龍を討伐した後』にノワールの契約が行使されるようになってある。これはそのためだ。逆に言えばお前の契約は俺らが邪龍を討伐した後に行われる物だという事だ。理解したか?」


ノワールが少し苦い顔をしたのが秋にも理解できた。だが秋にとっては譲れない一線だった。命を張るのはこっちだという至極単純な理由。それでも契約を盾に特攻を仕掛けられるなどといった最悪の可能性を考慮してのある程度の自由権の確保が目的だ。


「…………承知しました」


そしてここまで秋が契約内容についての事細かな確認を行っていく。裏ではアルタに契約書に変わるスキルを創造させようとしていたのだから。


(アルタ。互いの契約で相手を縛るスキルを開発しておいてくれ)

(イエス・マイマスター)


こうしてアルタのスキル『魂世界の総統者』が発動し、秋の代わりに秋の世界へと潜り、構成要素を支配してスキルを創造する。こうして生まれたスキルがこれだ。




=================================


外典契約書

この外典とも呼べるスキルを発動した際。契約者複数名の宣誓・スキル発動者の魔力・契約内容の三つを以て契約とする。


契約が行われた後は全ての契約内容が履行または条件不一致により破棄されるまでこの契約は続き、またもし契約を破るとペナルティを課す事ができる。


ペナルティはスキル発動者が自由に決定できるが、ペナルティの大きさに伴い莫大な魔力を必要とする。


=================================




(マスター。完成いたしました)

(ありがとうアルタ)


こうして心の中でアルタと会話を繰り広げながら、ノワールと契約の最後の大詰めに入る。


「って事でだノワール。さっきからの契約内容を、俺の持つ契約のスキルの前で宣誓してもらう。だから細かい詰めを行っていたんだが、問題ないか?」


「…ええ、問題ありません。ですが珍しいスキルをお持ちなのですね。ちなみにペナルティの設定はどうなさるのですか?」


「ああ、ペナルティは意識を一定時間剥奪し、お互いの位置を知らせる。これで契約を怠った相手は意識のない相手を売るも、殺すも、好き勝手にできるだろう。これでどうだ?」


秋は最初心肺停止を考えていたが、それだとノワールが何らかのアクシデントで星王龍の前に俺たちを連れていけなくなった瞬間に死んでしまうのが確定してしまうため、やむを得ずこの処置にしたのだ。


「そんな大きなペナルティを……相当の契約系に相当するスキルなのですね…」


「まあそんなところだ。所で宣誓を行うが、何かあれば先に聞いておくが?」


「———いえ、こちらからは、契約内容のほとんどは理解いたしました。私も相違ありません」


「了解した。それでは宣誓を始める」


秋がアルタを通じてスキル『外典契約書』を発動させる。最も意識剥奪は大きめのペナルティに相当するため相当な魔力を使うが、秋にとってはどうということはない。おおよそ1万程度。それだけなら秋は息をするように支払うことが出来る。


そして支払いに応じた契約書が秋とノワールの眼前に広がり、そこには先ほどと同じ契約内容が記されていた。秋もそうだがノワールもその中身を一言一句読み終え、先に秋が一言。


『仲岡秋の名の元に。』


そう言い残すと、残光と共に契約書が光となって消えていき、その光の残滓は秋の心臓付近に吸い込まれた。おそらくこれで契約完了なのだろう。


『ノワール=アル=ラークの名の元に。』


秋と同じ様に宣誓すると、秋と同じような残光が心臓付近へと吸収された。


「これでお互いに契約を交わしたパートナーだ。よろしく頼む。ノワール」


「はい。よろしくお願いします。秋様」


こうして互いの契約を終えた二人は、リアを連れて改めて店を出た。秋が出たころには、レストランに座っていた客は2割を切っていた。




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