第83話

時間は少し戻り、ノワールによって秋が竜界に拉致された瞬間まで遡る。




秋が拉致された瞬間。リアは動けなかった。そして事態を理解するのに数秒を要した。そして理解したのだ。秋が前から通りかかってきた女に何らかの方法によってどこかに連れ去られただと理解した。




(秋っ!!!—————)




勢いよく辺りを見回し、秋の存在がいないことを確認していく、そして理解したくない事実を理解していく。




(まずは———)




理解したくない事実。確かに秋はいなくなったが、それでも消えたわけではない。必ずどこかにはいるのだ。それさえ分かっていれば必ず見つけだす。リアの決意は確かに、今から放つ魔術に込められていた。




リアもまた、この世界の中においては、特に魔術を操る生命体ではトップクラスに強大な魔術の使い手、秋の隣にいるから霞んでしまっているだけで、過去にこの世界では最強の名を持っていた魔術が今解放された。




「『グラスプ・アーリア』」




『グラスプ・アーリア』———その効果は、魔力を広く拡散させることで自分のイメージする物体・生命体を探知するための探知網を張ることのできる魔術。リアのスキル『魔統者』によって秋と同じく“作られた”スキルの一つ。光魔術の要素も混じっており、その範囲は大きく、光の様に早く探知を行うことが可能なのだ。




ちなみに、今現在のリアのスキル・ステータスはこれだ。








==========




リア




ステータス


筋力:2500


体力:1800


魔力:32500


魔耐:22000


俊敏:1600




スキル


・魔力回復効率20倍


・虹魔導士


・魔統者








・魔力回復効率20倍


魔力の回復速度が20倍になる。




・虹魔導士


全ての属性を操ることが出来るようになる。




・魔統者


魔を統べる者に与えられる最高の魔術スキル。


魔術の式を自分で組み上げる事が出来る。発動する条件と発動させる現象を思い浮かべ、条件を達成されると発動される現象がそのまま発動される。


組み上げの際には魔力を必要としないが、魔術を行使するのと同様に条件を満たし発動させる場合は魔力を必要とする。必要とする魔力はその時思い浮かべた現象によって前後する。魔力量が足りない場合は発動しない。




===========








リアのスキルは魔術の神に愛されたかのようなスキルとなっている。世界でも類を見ない才能。魔術という一分野においては他の追随を許さなかったのがリアという女だ。




そしてそのリアの本気の探知魔術が、ついに秋の魔力を探知した。




(……何かの膜に守られて———結界?)




それは近くにありながらも、確かに次元を隔てるような結界がまるで球体の様に張ってあるようにリアには感じられた。




そしてその結界をより深く解析するべく、リアは新たな魔術を構築する。




「『サイファー・ネオン』」




『サイファー・ネオン』———その効果は、範囲を大きく絞り、かつその範囲のみで自身の魔力を集中させることにより、自身の魔力以外のエネルギーやそれら一切合切を解析する解析魔術。先ほどの『グラスプ・アーリア』とは違い、こちらは深く・小さくを目的に、より深い情報を求める今のリアの願いをかなえる魔術だ。




そしてそれが怪しいであろう結界を全て囲むように働き、結界の周りにリアの魔力が充満する。そしてそれに呼応するように竜界の力が浮き彫りになっていく。




(……魔力じゃ…ない?けど————秋がそこにいることだけは確か。)




リアはこれまで二つの魔術を構築し、そしてこれらの結果から魔力じゃない何かによって秋は捕らわれ、今も秋がそこにいることは100%確実な情報となった。




(そして————これぐらいなら、壊せないわけない)




リアは図書館の中で、今まで使っていた探知魔術2つを解除し、一つ小さな息を吐きだすと、ゆっくりと自分の中から魔力を練りだす。外に漏らさないように、自分の中で力を練り上げ、自身の力を余すことなく全て破壊の力へと充てるために、そして




「————食らえ。『アガルタ・ベルグ』」




その破壊の力を、獣の様に具現化させて竜界を食らわんと放った。















—————ッゴゴゴゴ……。




竜界にそんな音が犇めいたのはその魔術が打たれてから数秒後。そして秋とノワールの勝負が終わってから約3秒の時間の後だ。




「そろそろ、時間のようだな」


「今の音は…この竜界を揺らすなど、相当の腕がないと———」


「まあ、そういう事だ。この竜界とやらはそろそろ崩れるぞ」




そう言い残すと、秋は刀を首筋からそっと離して収め、竜界の様子を『皇帝の隻眼』で確認していく。竜界は先ほどの衝撃——リアの魔術によって既にボロボロの状態だった。そしてそれは魔眼を使わずとも目視できるまでに広がっていく。




ビキビキと音を立てて広がっていく傷、こうして竜界がバリンと音を立て崩壊するまで。そう時間はかからなかった。




しばしの光に目を閉じながら、秋は完全な竜界の崩壊を目の当たりにして後を去った。















そして竜界から帰ってきた秋が最初に見た景色は、本が大量に並んでいる光景と、中央には懸命に本を開いて学びを続けている学者や学生。そして隣にはリアの太陽のような笑顔だった。




「———おかえり?」


「ああ、確かにただいまだ」


「……で。そいつが秋を攫って行った」


「まあ、そうなるなぁ…」




そして秋の背中には、今だ竜界で食らった麻痺が完全には溶けておらず、何とかして膝を動かし地面を足をつけ立とうとしているがまだうまく動かせないようだ。そんなノワールがいた。




「はぁ……『毒素分解』」




『毒素分解』は読んで字のごとくではあるが、体の中の毒を浄化するという物。だが秋が指定した体に有害な物なら分解が行えるという優れモノだ。




「え。ああ、ありがとうございます…」


「ああ、秋でいい」


「え、ああ。ではシュウ様と」




こうしてノワールとリアの初めての邂逅は、分かっていたことではあるが、何とも険悪は雰囲気から始まっていった。















「リア、まあそういう事があったから、ノワールが竜界まで使って俺にわざわざ頼み事をしてきたと」


「ん。状況は理解した」


「案の定。断られてしまいましたが…。ですが、確かにシュウ様とリア様に迷惑をこうむったのは私です。お詫び申し上げます」


「ん。謝罪は受け取った」


「ああ、俺もその件に関しては大丈夫だ。だがもちろんノワールの持ってきた話に関しては断らせてもらった」


「…………はい。承知しております」


「ん。秋の決定。別に私も異を唱えるつもりはない…。ノワールにはもしかしたら不都合かもしれないけど、それが秋の決定なら、私も従う————けど、ノワール」


「————?はい。なんでしょうか」


「ノワールの竜人の集落。もしかして『星王龍』を祭る一族の集落…違う?」


「———はい。確かに私たちは1000年前ほどから『星王龍』を祭る神殿と共に暮らしをしてきた竜人の一族ですが…よく私たちのことを知っておりましたね」


「………秋。話が変わってきたかもしれない」


「ん?どういう事だ?リア————と思ったが、少し場所を変えないか?ここでは少しはしゃぎすぎたかもしれない」


「————ん。了解。ノワールも付き合う」


「え?あ、ああ…はい。了解しました」




秋の場所を変えようという提案に3人が了承して、3人は少し場所を変える。先ほどのトリス図書館では魔力や竜界やといった力を使いすぎた。特に極めつけは最後のリアの魔術。いかにリアが魔力を内側にとどめ全てを破壊力に変換したからと言って、解放された魔力などを探知できる人間もあの場にいなかったわけではない。そういった者たちが仕切りにキョロキョロしだしたので秋は場所を変えようと提案したのだ。




だがもちろんリアはそこらへんもケアをしていた。本来なら魔術師であれば探知魔術で自分が探知されていることに気づくものだ。だがしかし実際には探知に気づいた人間はいなかったであろう。

竜界を砕く程の強力なエネルギーを放ちながらも、感づかれたのは図書館にいた魔力感知に長けた人間。それも確信を持つには至らずといった感じにまで抑え込めたのだ。改めてリアの技量が見れる場面であったのは間違いないだろう。




そして秋達は近くのレストランへと足を運んだ。


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