第80話
太陽が昇り、日光が地上をそろそろ温め始めようとしている午前8時ごろを過ぎ、自国は午前9時ごろ。図書館はもうとっくに時間を無駄にしたくない学生や勉強を進めたい者で一定の賑わいを見せており、秋達は9時ごろにその図書館へと到着した。
朝から大通りを見回り、ギルドでの魔石換金など少しながらに用事を済ませると、8時からの入場しようと思っていた秋の思惑は一時間遅れという形で返ってきた。
昨日と全く同じ形で入場を果たす秋。一度見慣れた光景というものも味気ないなと思いながら、二度目の図書館内部へと足を踏み入れたのだった。
「さて、今日は何を調べるか……」
「ん…昨日は勇者関係とあとは昔の伝承とか?あとは地理。今の国々の分布図…あとは、何?」
「まあ経済関係は書物にしては少なさそうだしなぁ…常識とか学ばせてくれる本があったらいいんだがなぁ。生憎そんなものはなかったらしい」
「ん……今日は何を調べるの?」
「そうだな…まずは“どんなジャンルの本があるのか”から調べていこうかとな、異世界の本がどのような種類で存在しているのかとかな。次は魔術関係とかだな。昨日も魔術関係は色々とあったっぽいが、生憎学生なんかと取り合いになってしまうんだよな…」
「ん。ここにいる学生。一生懸命」
「そうだなぁ…受験とかあるのか?この国で、というかこの世界で」
「学園。いけるのは貴族だけ…とか?平民が入るためには、確かものすごい成績を収める必要。ある…私の時もそうだった…」
「貴族ねぇ…この世界は住みづらそうだ。俺の世界では貴族なんていなかったからな」
「…そうなの?」
「ああ、俺の世界は、まあなんというか。紆余曲折を得て世界の国々が協力して平和を築いたんだ。だがその前には、この異世界以上に戦争は起こってたし、人も何十万単位で死んでたからなぁ…」
「…ふうん…けど、秋が帰りたいと願う世界は、私も見てみたい。」
「…ああ、そうだな」
秋とリアは生憎、図書館の中でも二人だけの世界で会話を繰り広げている。その世界はもう図書館の誰もが部外者として捉えられる二人の桃色世界と化しているのだが、皮肉な事にそれに唯一気づいていないのが当の2人なのだというのだから。
もちろん会話も、当初の会話の内容から大きく外れている。図書館の話から、なぜ地球が平和になったのかをざっくり説明し始めるという、流れがほとんど存在しない会話。だがそれでも、リアと秋はいいのだ。ただ二人で話して、穏やかな時間が二人を巡らせ交らわせていく。それがリアと秋が出会ったときから続く、二人の世界、時間そのものなのだ。
「さて、本を探しにいこうか。リア」
「ん。今日はずっと秋についてく」
こうして、図書館にきて数分後、秋とリアは隣を歩みあいながら、図書館の中を探し、目的となりえる本を探すことになった。
◇
ノワールは、ただ身を投げ出すように自分の宿から姿を表すと、まっすぐに図書館へと向かっていた。なぜノワールが図書館に向かうのか、自分でもよくわかっていやしなかった。だがギルドに行き、自分が竜人であり、そして集落に巣食う邪龍を倒してほしい。なんて依頼をこの都市であっても受けてくれる冒険者は絶対にいないだろうと確信していたからだ。それに竜人というのは姿の現さない種族の一つであり、人間からは恐怖の象徴。人の姿をしていながら人という種族よりも明らかに強い種族など、人族は受け入れないのだ。この特徴は人間という物の大きな特徴であり、どこの世界でもどこの時間でも同じなのかもしれない。
そしてノワールは、8時きっかりに図書館へと着く。見慣れた景色、見慣れた光景。だが一途の希望を持ってここに入るということはノワールにとってはいつも変わらない只の希望だったのだ。
ノワールの希望。それはこの図書館にある知識そのものだった。
ノワールは求めている。邪龍を討伐できるほどの希望を。だがその希望の星となりえる人物は、この都市のギルドには存在しないどころか、探そうと自らの身を公開することになったら、自身の身が危ない。それは自身を命がけで送り出してくれた家族に対する裏切りだ。
だが、それでは一向に家族には会えず、平和に暮らすことすらできない。邪龍という明確な脅威は、すぐそこで家族を牙にかけようとしているのだ。
だからこそ探すのだ。強力な力を持つ伝説や伝承。そこから紐解かれる強者のありかを。
そんなものあるのか?と思われるかもしれないが、実は結構あるのだ。この異世界において、知識をため込む書物以外に、その人物をたたえる英雄譚的な物語も結構な数が存在する。その中でも架空の物語や、自分を自慢するための虚飾の物語など。だがごくたまにあるのだ。その伝説的な強者を目撃した何者かが、その強者を書き記した。そのあまりの強さゆえにほかの誰かから書物として記録に残されるほどの伝説の強者が存在することがあるのだ。
そしてこの異世界では本自体が高価で高く売れる。それでここに流れ着くこともあるのだ。それをノワールは漁っているのだ。なぜならそういった本で今でも存命の強者は少なからず存在するからだ。
それをノワールは希望としていた。そこには出生地や、何を倒したのか、どこで倒したのかの情報が記されており、ある程度場所を特定する要素が見つかる可能性もあるのだ。
そしてノワールは何個はその痕跡を見つけている。宗教国の聖騎士や、武蔵野国の伝説の傭兵など。その国への移動は竜形態へと至ることで可能だが、それ以外の不確定な情報が多すぎるのだ。そういった情報を集め、絞り、決断するためにこの図書館をノワールは活用している。
そしてノワールは、今日もまた見慣れた本がちらほらと並び始めるその一角で、ひたすらに強者の知識を貪り始めた。全ては家族のため。そして邪龍を討ち、滅ぼすために————。
◇
そして秋とリアは図書室へと足を運び入れた。時刻は図書館への入場のため銀貨1枚を払った9時から少し経過したころだろうか。
「さてさて、今日は何から調べるか…」
「何から調べる?」
「う~む……」
「…さっき言ってた。“どんなジャンルの本があるか調べる”って」
「ああ…そうだったな」
「秋。うっかり屋さん」
「否定できないな…」
そして秋はやることを思い出してから、少し笑顔なリアと共に図書館を回り始める。
「まずは一階からだな」
そうして今日の図書館は、一階にどんな本があるか確認するところから始めるようだ。
◇
(ない…ない………ない……)
ノワールが本を探し始めてはや1時間ごろ、時刻は午前9時を少し過ぎたぐらいだろうか。そのころノワールは、本を貪っては捨ててを繰り返していた。
ノワールが図書館に通ってはや5回目。日が開けてから日が落ちるまで、ひたすらに文字を読み、頭で考え続けてもう5回目。答えの見えない問いに答えるには、ノワールはあまりにも時間がなさ過ぎた。家族の命がかかっているかもしれないのだ。時間なんてあってないようなものなのだ。少なすぎる時間で、高すぎる壁を乗り越え打ち破ることは、もう今のノワールには不可能だったのだ。
(誰かっ……いないの?…私と家族を救える可能性のある。希望はっ………)
そこで思い出すのは、あの衝撃的な光景。巨大な魔力の爆発。何物にも染まらない白。白色の魔力の持ち主。そこで起こった。感じたあの魔力。向かった先には、急激に生成された森。全てが白色の魔力を使って行われていた。あの光景を。
(そう、いる。いるんだわ…邪龍を倒せる者というのは……だから、探さなくちゃ。家族のためにも。私が折れてちゃいけないのよ……だからっ!!)
もう一度自分に喝を入れ、俺そうな心に添え木を撒いて、もう何回目かもわからない挫折の味。鈍い鉄の味。それを味わいながらなお、立ち上がる。味方はいない。一人砂嵐吹き荒れる荒野の中を、また再び歩き始める。正解というオアシスがどこにあるかもわからない。答えを指し占めるコンパスですら。もうどこかに行ってしまった。
(諦めたら……諦めたら……家族が…家族が……)
————その時、肌がひりついた。
(——————っ何!!!!?)
————白色の光。昔、遠い昔に見たことがあるような光。
(———あれは————)
——————見つけた。
その目に映ったのは、確かにある。ゆらゆらと揺らめく陽炎のような魔力。その色は確かな白。純白の白。見間違えもしないただ全てを包み込むような白色。
それが、一階から吹き荒れていた。ノワールがいるのは二階の角の“偉人”スペースなのだが、そこからでもわかるほどに吹き荒れていた。二回まで立ち込める陽炎は、確かにその人間の強さを表す。
————見つけた。
ノワールはついに、見つけた。仲岡秋という。ある一つの『希望』を。
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