第78話
時刻はすっかり夜。本を読んでは探し読んでは探しの繰り返し。その中でもちろん有益な情報も数多くあったが、基本的には探す時間の方が大きかった。何本かまとめて取って座って読んでの繰り返しは想像以上にハードな作業になったようだ。最も秋はあまり疲れを見せてはおらず、リアも秋との作業に少し楽しみを覚えていたことから、そこまで疲れを感じさせない顔のまま宿へと帰ることにはなっていたが。
「ん、いっぱい知れた…」
「でも、正直言って、内容が微妙だったり、中身が薄かったり、同じことを繰り返していたりとか、あまり深い内容には至れなかったなぁ…けど魔人族の話は興味深かった。種族とか特徴とか、割と細かいことが書かれていたな」
「ん…やっぱり人間は敵の事よく調べる」
「後他には……伝説とか伝記とか、そういうのか?」
「ん……特に、精霊とか龍とか…私が聞いたことのある名前も中にはあった」
「————『四皇龍』。ねぇ……」
「ん。そのうちの一人。「星王龍」に関しては、私も知ってる。『竜人』と私たちとの国との交流があったから……」
「そこに関してはマジで助かった。ありがとうな、リア」
「ん。秋の役に立てるなら、私も満足……」
————『四皇龍』
それは世界を見守り、世界を司る4体の龍。
海の全てを司る『群青海龍<スフィア・ドラゴン>』
あらゆる大地と炎を司る『灼熱地龍<ドレッドノート・ドラゴン>』
全てを包む天空を司る『天漸真龍<クリアエイト・ドラゴン>』
星と生命の全てを司る『星王龍<スターリング・ドラゴン>』
この四体の龍が、海・大地・天空。そして星を見守るとされている龍の中の龍。龍皇としての龍なのだ。
そしてその中でも、竜人と呼ばれる竜と人間のハーフとされている種族は、「星王龍」と交信する術があると、リアは言っていたのだ。星王龍は星と生命を司るとされているが、とてつもない知識量を誇るとされており、その知識は150年前の王国でも一目を置かれるほどだとされていた。
(———星を司る龍なら、星の外からやってきた勇者の事なんかも詳しそうだ。ぜひ、話を聞いてみたいが……竜人は数が少ないと聞くし、それに星王龍と交信ができる竜人というのも一握りの集落の一族だけだという事だ。望みは薄いだろう……)
そして夕方。もう夜の闇がやってくる中、大通りを帰りながら宿屋へと到着。その後まもなく就寝と相成った。
◇
夜の闇が商業都市トリスを包む中、真っ暗な宵闇しか見えない窓を、夜の闇以上の虚ろを持って眺めている女性がいた。
その人の名前は、ノワール=アル=ラーク。
身長は丁度165cmぐらいで、顔つきは若く美しい。紙は少し亜麻色のような、少なくとも黒とは言えない髪形だが、その色がまた落ち着いた大人の女性というイメージを加速させている節まである。顔にはシワ一つない正に美少女なのだが、それでも今ノワールの顔にはシワがより、目が虚ろになり、そして髪もセットされておらずボサボサだ。この状況を一言で表すなら、荒んでいるという一言が最もこの状況を表せるだろう。
(はぁ……お父様は今、どうしているのかしら…生きて、いるのかしら…)
いざ夜の闇を見て、何も見えない黒を見て思い返すのは、自身の同族。家族や友人。知り合いや隣人などの事。
眼を閉じていても、開けていても、朝でも昼でも思ってしまう。考えてしまう。けど会いに行くことはできない。なぜなら、今里には危機が迫っているのだ。そんな中。ノワールの想うその同郷の人たちは、自分を逃がすために命を賭してくれたのだ。
それが分かってるからこそ、無暗に皆の元へと戻ることはできないのだ。生きなければならないのだ。だが、同時にノワールもまた、家族や同郷の事を思っているのだ。
そう、ノワールの里を襲っている脅威。その者の名を————【邪龍】
ノワール=アル=ラークは、この世界でも珍しい【竜人】なのだ。
◇
(いや…まだ、まだ希望はある!!…邪龍を、邪龍を討伐してくれる。そんな人間が……あの、スタンビートを沈めた。それほどの力の使い手ならっ!!!)
ノワールはここに逃げ込んで10日。同郷の竜人たちに連れられ一人逃げ出したノワールは、逃げ出した先で誰か、邪龍を討伐できる人間を探して連れてくることを決意する。
そして知識を求めて向かった先は商業都市トリス。その道中。ノワールは膨大な魔力の爆発と共に、何千もの魔物が死に絶えるさまを、空から目撃したのだ。
そして、スタンビートを一人で、一撃で絶滅させた人間。それが高確率で商業都市トリスに足を運びに来ている。もしくは商業都市トリスにいるとして、ノワールはそれに一図の希望を求めて10日探しているのだ。
だが結果は思わしくない。まさに今その希望すらも閉ざされようとしていた。
(でも、あの時、確かにあの魔力の色を覚えたわ!!いつかは…いつかは…)
竜人は、人間よりも生物として強い。そして竜人の能力として、人間を超えた身体能力の他に、何個か竜人だからできることが存在している。
一つ目は竜化。これは字のごとく、竜に変身できる能力だ。
二つ目は竜眼。これは魔眼の竜人バージョン。魔眼の様にとはいかないが、その人の魔力や自然に揺蕩う魔力を見ることができるというもの。
そして三つ目。<竜界>だ。それは竜限定の結界のようなもので、自身を中心として強固な結界を張り、外界との間をシャットアウトできる。これは竜人たちでの『決闘』を行う際に使用し、どれだけ激しい戦いになったとしても外界にその衝撃を伝わらないようにできるというものだ
これだけの能力が竜人には備わっており、それを脅威に見た人間が、竜人を積極的に狩ったことが、竜人としての種が少ない証ともいえる。逆に言えば、それだけ竜人は人間に脅威だと思われているという事。強いということだ。
そして、今回は“竜眼”を使用して、スタンビートの消滅が一人の人間の一撃の力で成し遂げられたことを知ったのだ。
————うん……な、何!この魔力の大きさ、それにこの爆発はっ……!?
—————どうやらあっちみたいね……仕方ない。行ってみようかしら……
——————何。あれ…?しょ、植物…いや、森なの…というか、あそこに森なんて…あったかしら…?
自身の言葉は、鮮明とは言わないが覚えている。自分の眼が何か強大なものの力を伝えていると、その瞬間に何かが吹き飛んだ。そして吹き飛んだ先にまで向かってみると、そこには見たこともないような森が生成されていた。最初は見間違いかと思った。そこに森がもともとあるのかと考えた。だが竜眼を凝らしてみてみると、それが同一の魔力で生成されており、更にいまだに生成が、爆発的なスピードで行われていることが分かった。まるで今生まれて成人まで育て上げられてるような、不思議な違和感。そしてそれが人為的なものだとわかるまで、数分を要した記憶がある。
同時に希望もできたのだ。これだけのことを成せる人間が、この近くにいる。それだけでノワールには希望になった。それだけが唯一の希望だった。
(確か、あの時の魔力の色は———白。珍しい色。魔力には人の個性や感情などがにじみ出るから、基本的に魔力には何かしらの色がつく。でも、その時の魔力の色は、珍しい。何者にも染まっていない純白。そんな珍しい魔力の持ち主がもしいたなら、簡単に見つけられるはずなのよ……まだ、諦めちゃいけない。きっといる。きっといるわ。大丈夫。お父様も、家族も、友達も、同郷の人たちはまだ生きてる…だから……)
———ノワール!!逃げるんだ!!狙いは———!!
————ノワールちゃん!!お行き!!今ならまだ間に合う!!
—————行くんだノワールちゃん!!さあ早く!!俺らの事は気にしなくていい!!
—————ノワール。行きなさい。私たちは大丈夫だ。必ず、生きてあおう———。
思い出す。みんなの声、自分の命が危ない中で、自分を逃がすために頑張ってくれた。その時の情景がフラッシュバックして、そしてそれに、どんどんと色が亡くなっていく。そして————
(————大丈夫!!皆は、みんなはまだ生きてるっ!!!あの時、約束もした!!!だから、早く———見つけないと。白い魔力を持つ、邪龍を倒せる人間を———)
こうしてノワールの夜は、夜の闇から連想させられる同郷人の死の可能性から逃げる。否定する心と、もしかしたらという本能の狭間に捕らわれ、永久の牢獄へと変わり果ててしまう。
———ノワールには、闇ではなく、黒ではなく白が必要だ。黒い闇を吹き飛ばし、夜を超え宵闇を照らす白い光が必要なのだ。
(よし、そうと決まれば、明日はもう一度トリス図書館へ行こう、何をしてでも————必ず、白い魔力を持つ人間———邪龍を倒せる可能性のある人間を、探すわ)
決意と覚悟を持ち、だがその心の奥底では、暗く険しい永久の牢獄に捕らわれているノワール=アル=ラーク。その竜人の心は、いずれ晴れ渡る日は来るのか。
だが明日。もう一度太陽が昇るその時。ノワールは運命の出会いをすることになるとは、夢にも思っていなかったのである————。
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