第74話

「アルタ」


「はい。なんでしょうかマスター」


「確かアルタは昔に言っていたよな?俺のスキル『スキルランダム創造』を使って、構成要素を分解するまでの作業を肩代わりするって」


「イエス。すでに行動を開始しております。マスターの魔力回復の余剰分を計算し、余剰分の98%をすでに『スキルランダム創造』に充填を完了させております。現在今までの中で創造できたスキルはおよそ250個。そしてそれらを分解して生成した構成要素はおよそ700となります」


「おお………」




秋は日の静まった宿屋の部屋で一人少しばかりの感動を覚えていた。秋にとって『スキルランダム創造』による構成要素の取得は、仲岡秋本人の生命線だとわかっている。その構成要素の取得作業が自動化されているという事は、実質何もしなくてもアルタによって自身の強化が行われていくことを意味している。




そして、それができることになったのは、秋の役に立ちたいと願ったアルタが、自身の可能性を探し求めた先にあった『アルタ・セラフィム』という進化の果てにあった能力『魂世界の総統者<アルタ・セラフィム>』の能力によって身に着けたものだ。進化により秋の魂世界の権限を少しばかり拝借できたことから出来たことだ。




そして秋は潜り始める。自身を強くするために。















「じゃあリア。少しだけ俺の意識は落ちるだろうが、心配しないで大丈夫だ」


「ん。わかった」


「それじゃあ、行ってくる」




こうして秋が目を閉じて意識を波紋の様に揺らし落とすころには、もうリアの姿は見えなくなってしまっていた。








そうして秋が見た世界は、これまで以上に多く燦然と輝いていた星々、その星々は夜天の空を大きく照らし、もうそこには夜の闇色に染まらない星々の姿がくっきりと映っていた。




(構成要素の数が明らかに増えた証拠だ…)




秋はそれを見るまでもなく感覚でも察していた。そしてそれら星々の詳しい情報までもが、頭の中にスッと浮かんでくるような新しい感覚に襲われる。




(これは……構成要素の内容?)




今まではその構成要素の少なさや秋自身のセンスの問題もあるのかもしれないが、構成要素を色や形や直感で選び、それに見合った効果をしっかりと選んでチョイスしていた。だがこれまでとは違い、秋の頭の中にはこれまで以上の数がある構成要素の内容をしっかりと熟知できている。




(まさか…この夜天の世界も、進化しているというのか…)




そう、秋が気付いた事実。それはこの夜天の世界もまた進化を続けているという事。秋の知らない世界の事実が、いま正に解き明かされた瞬間であった。




そしてその夜天の世界の進化の証が、秋の新しいスキル創造の形として残されていく。これはとても素晴らしいことだ。秋にとっては。




そして秋は新たに分かりやすくなった夜天の世界に浮かぶ星々———構成要素たちを眺め、新しいスキルの形を模索し始める。自分のスキルを見比べ、夜天の星を眺め、こうして格闘を続けてもう体感で何分経っただろうか。だがそこで秋はひらめいた。ある事実に。








「能力が……多すぎる。のか?」








そう、秋の気づいたことは自身のスキルに対しての能力の多さ。事実使い切れていない能力やあるいは封印され使えない能力等も確かに存在している。その中ででたらめに使えそうな構成要素を詰め込みスキルを構築したのでは、それはただの無駄使いと化してしまうのではないのか。こう考えたのだ。




事実それは正解なのだろう。だが仕方がなかった側面ももちろん存在する。なぜなら必要十分な能力を発揮するためのスキルを作るための素材。構成要素が圧倒的に足りなかったのだから。そして今その問題は解決された。『アルタ・セラフィム』として生まれ変わった、新生アルタの能力によって。




そして秋は気づいた。気づけた。自分の持っているスキル、そして能力が無駄であることを。自分の能力の真価を発揮しきれていないのだと。そうしてその事実と向き合うのに、また数十分の時間を要し、頭の中で思考を巡らせる。




するとふと、ゼウスの言葉を思い出した。








————「先に結論を言うならば、『全て分解した方がよい』じゃ」————


———「なら自分好みに、新しく作った方が良い」————








(新しく……作る?変えるのではなく、新しく……作り直す?)




そう、全く新しい発想。自分好みに変えるのではなく、作り直す。スクラップ&ビルド。今の秋のスキルがスクラップ同然なのであれば、新しくビルドしなおしても問題ないのではないか?その発想に行きつくまでに、秋は体感時間で15分ほどを要した。




(いやでも新しく作ったとして、それがこの能力と似た使い方ができるという確証があるのか?)


(だが今のまま進化を続けて、その先で詰まった時、また詰め込んで進化を続けて、それを繰り返すのか?)


(ここでもしスキルを作り直せたのなら、それはこれから先絶対に使える経験へ至れるはずだが…)


(いやだがこれが失敗してもしも弱体化してしまったら?…)




秋は考えた。リスクとリターンを天秤にかけ、これからの事も計算に入れ、自分の生命線ともいえるスキルたちを賭けの対象にするべきかどうか考え抜いた。そして——————決断したのだ。














秋は決断を下した。賽は投げられた。


『運命と次元からの飛翔』『スキルランダム創造』『アルタ・セラフィム』以外のスキルを、全て削除し構成要素へと転化させた。








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