第38話

「はい、到着と」




こうして秋は魔物が生息している森をもう軽々と抜けて迷宮へと到着した。案の定昨日と変わらない光景だが、それでも昨日とは違う事は時間があるかないかという事だろう。




「さてアルタ、始めようか」


『ええ、マスターの作戦の方は理解しております。作戦名なんかはあるのでしょうか?』


「アルタお前乗り気だな……そうだな…無難に『魔剣海戦術』とかでいいんじゃないか?」


『魔剣海戦術』———ネーミングセンスに関してはそのままだが、それでも名前からでもこの世界の住人は贅沢に感じられることだろう。普段一国の宝として保管され来るべきにしか解放されない戦術兵器を、あまつさえ複数用意し、それを使い捨ててもなお良しとするその作戦や、それを可能にする、文字通り海の如き物量の魔剣を用意できる可能性を持つ秋そのものに。


『まあ、久しぶりにマスターの全力が見れるという事ですので』


「お前、俺の全力とか見たことあるの?」


『私はマスターと魂を共有する者。魂と心は違うので思いなどは覗くことができませんが、思考や記憶などは覗く事が出来ます。といっても心の記憶という物も存在しているので一存には語れませんが、それでもマスターが神界にいた時の記憶はもう閲覧済みです』


「なるほど、まあいい。じゃ始めるぞ。今回の迷宮攻略はお前の力も必要なんだからな」


『イエス。マスター』




こうして秋とアルタはいそいそと準備を始めていく。人外が迷宮に挑むその様は、普通ではないことだけは確かだろう。















「アルタ。準備は大丈夫か?」


『はい。大丈夫です』




そして秋はゆっくりと目を瞑り、あのスキルの発動を念じる




「来い。魔剣」




そうして現れたのは二つの魔剣。どちらも柄もその剣の長さも違うが、能力は同じなのだ。そう『魔力回復』と。




この剣の名は『回帰剣:ウィズダム』と『福音刀:ウェルダント』。両者とも刺した地点に結界を構築し、その中にいる生命体に魔力として力を分け与える事を目的に創造された魔剣。




そして迷宮の入り口に立ちその二振りの魔剣を自分の両脇の地面へと突き刺した。




突き刺された魔剣は己が使命を果たそうと結界を構築し、結界内にいる生命体である秋に魔力の供給を始める。微々たるものだがそれでも二重に効果が発動しているために見える結果として表れていく




「おお、なるほどな。微々たるものかもしれないがそれでも悪くはない」


『はい。では次のステップにお進みください』


「分かっている」




そして両脇に剣、中央に秋という陣取りで迷宮の入り口に居座っている秋。そして秋はまた目をつぶる。次の剣が今回の迷宮攻略のカギを握る物になる。




(魔物を見つけたら刺さるような自動追尾。そしてそれを指揮する指揮者。数は複数を一つとした対魔物戦闘用。そして迷宮の全てを食い荒らすような魔剣をっ―――!!)




そうして秋は願い、願いはスキルによって具現化して顕現する。想像から創造へ。そして出来たその魔剣の名は『魔団群刀:イグナローヴ』




秋の目の前に顕現したその刀剣たちは、白と黒のコントラストが美しい一本の刀剣を囲むように、白と黒の単色の刀剣が6本ずつ計13本の群刀となっていた。




『成功ですね。それではリンクを開始します』


「ああ、頼んだ」




そしてアルタのその一言で、白と黒の刀剣に赤の光が迸る。それは刀剣に染みるように流れていく。そして




『リンク完了。この刀剣はすでに私の配下です』




そう言い残すと、まるで刀剣たちが意志を持っているかのように震え始め、そして宙へと浮いていく。そしてゆっくりと上下に左右に動き始めると、まるで統率の取れたような動きを全ての剣がし始めた。




そう、これこそこの迷宮攻略の最大の要。要するに何がしたいかというと、自分の代わりに広大な広さを誇る迷宮を、ある程度の数の魔剣に討伐してもらいクリアを目指すという物。迷宮の広さに数で対抗する。これこそ人海戦術ならぬ魔剣海戦術である。




「さてアルタ。作ったやつから順番に突撃だ。こいつらなら一組でも十分強いんじゃないか?」


『はい。おそらくこの一組だけでも5層までは瞬殺。10層までなら楽勝でしょう』




迷宮というのはある程度レベルが上がるタイミングなどがある。それは迷宮一つ一つにおいてバラバラなのだが、アルタの見立てでは最初の階層は5層ずつ。ある程度の階層に潜ると10階層ずつに上がっていくとのこと。




「じゃあ行け。突撃させろ」


『了解しました。マスター』




その言葉に導かれて、ゆっくりと動き始めて迷宮の入り口ヘと潜り始めた刀剣たち、そしてそれを見届けると秋は再び同じ刀剣群を創造し始めた。




「じゃあ作り続けるか、大丈夫かアルタ?」


『イエス。私を舐めてもらっては困ります。この程度の演算であれば刀剣群150を操ったとしても余裕を保てます』


「そうか。それじゃ作るぞ」




(俺はゲームでもまずは裏道を探すタイプなんだよ。残念だったな迷宮)




秋はゲームが好きな人種。『迷宮』というロマン溢れる言葉に惹かれてしまう人種なのだ。そしてそんな人種の中でも秋は、まずはゲームの抜け穴を探して楽してゲームを攻略しようとするゲームブレイカー。そんな秋に『迷宮』という玩具を渡してしまったこの世界は、少しばかり涙を流しているのかもしれない。









「ゴブリン型の魔物討伐1」


「コボルト型の魔物討伐1」


「カエル型魔物の討伐1」


「ヘビ型魔物の討伐1」


「昆虫型魔物の討伐1」


「―――階層に到達」


「魔物のパターン変化。解析開始」


「フェアリー型魔物の討伐1」


「フェアリー型魔物の討伐1。魔力を感知。魔術を使う恐れあり」


「ゴブリン型魔物の討伐1」


「四足歩行型魔物の討伐―――」




こうして今、魔剣の群れが迷宮内を荒らしまわっている状況が何よりも分かる報告を、アルタは情報として理解し、整理し、そっして一つずつの群体を操り迷宮を完膚なきまでに叩き潰している。




「よし。とりあえず魔力が空になるまで作ったぞ」


『それではリンクを開始します』




こうして一群辺りに1万5千の魔力を投じる群刀の最後の一振りが完成した。その数その時間内に回復した魔力を投入しておよそ21本。そして今21本目の群刀が完成した。




『投入させます』




アルタの声により動き始める群刀。そして今迷宮内に突入していった。




「状況は———」


『現在19階層を攻略中。現在20本目までは19階層に到着しました。これより20階層のボス戦に入ります。21本目は今回のボス戦には参加させません』


「了解した。俺も少し観察しておこう」


『了解しました』




アルタとあの一本しか一本しかない指揮官の役割を果たす指揮官魔剣は、アルタとリンクしているためアルタに迷宮の内部情報が送られてくるのだ。そしてそれをアルタは秋に脳内映像として転写しているのである。




そして迷宮にはお馴染みのボスというのも存在している。10階層ごとに存在しているボスだが、10階層のボス『グレートホブ』は魔剣の3組で瞬殺された。一組だけでも殺せたことには殺せたのだが、大事をとってという事だ。




そして今から20階層のボスへと挑む。ボスへの扉は、扉の近くに存在する魔力を感知して自動で開く仕組みの為魔剣でも開いたようだ。




そしてついに魔剣たちおよそ20組は、その20階層のボス―――名を『グレードミノタウロス』の姿を垣間見たのだ。















「ブモォォォォォォ!!!」




決まったように咆哮を上げるミノタウロス。迷宮第20層の貫禄を見せる叫び。だがそんなもの意志のない刀剣には意味などこれっぽっちもない。命令に従いただただ目の前の敵を肉塊に帰るのみ。




刀剣群は一気に左右に分かれる。そもそもミロタウロスの持っている鉄の塊のような大剣。切れ味も悪く切るというより叩くに近い攻撃を生み出すその大剣だが、そんなものが当たったところで秋に創造された刀剣群たちが折れるはずもない。結果的に言えば―――敵ではない。という事。




「ブモォォォォォォォォォォォォ!!!」




ミノタウロス再び叫ぶ。だがそれは痛みからくる叫び。刀剣群たちの剣が固いミノタウロスの皮膚を貫通し刺さり続けている。




我を忘れて必死で大剣を振り切る。だがそんなもので刺さった剣は抜けない。結果もう叫ばなくなったミノタウロスは、そのまま地面にガクッと倒れた。




刀剣たちはその死体から剣を引き抜き、次の階層を蹂躙せんとする。まるでこの迷宮全てを殺そうとしているその剣は、まさしく英語で“死神”を意味する『グリム・リーパー』の様だった。






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