第35話

「なんだ。案外魔物のレベル自体は、平均してそこまでだな」




そんなことを言いながら、魔眼で敵を補足しては魔剣を打ち付けるという作業を繰り返しながらひたすらに前に進んでいく秋。




もちろん弱いわけなんてない。今秋がいるこの西の森の魔物は、冒険者のレベルでいうとBランクからのレベル分けがされるぐらいには強いのだ。基本的に冒険者のレベルはCかそれ以下。Bランクは凡人が努力をしてようやくたどり着ける場所なのだ。そしてこの森はそのような努力をした人間ですら容赦なく食い殺せるほどのレベルを持つ魔物が育っている場所ということになる。つまり秋がおかしいだけなのだ。




「今倒したやつも『空間の異箱』にしまって、あとで村人に捌いてもらうとして…だ。…ああ?また来たのか―――今度は集団だな」




先ほどの魔物は村を襲った魔物と同種だったためにスキルを発動して死体をスキルの中に収納する。だが、ここは森、様々な遮蔽物が存在するフィールド。そしてこのフィールドを巧みに扱う敵がいても、おかしくない。




だが同時に、それは秋には無意味なのだ。何故なら秋には、全てを見通すことのできる『真血の魔眼』が存在するのだから。




「数は……5、8、12……これは15体はいるな…群れか」




秋は冷静にそう判断すると警戒を見せる。そしてその警戒を見せた瞬間。まるで警戒される前に獲物を狩ろうとするハンターのように反応を見せた。群れの一体。おそらくリーダー格の魔物が一匹鳴き声を上げたのだ。おそらく指示の鳴き声だろう




―――だが、もう遅い。




秋は瞬間のイメージでその左手に昔に“不死の王<ノーライフ・キング>”を滅ぼした際に創造し、今でも『空間の異箱』に入っている武具シリーズ『創銃:グラハムザード』を顕現させ、そのボス格の頭を容赦なく吹き飛ばした。




恐らく木々を自由に移動するその群れの魔物は、魔眼で見ると猿の様な見ためをしていた。だがもう秋には関係のない事だ。




(来い。『創刀:百忌』)




秋は片手に銃。片手に刀を携え、そして残りの10何頭かいる猿型の魔物が360度を包囲する様に襲ってくる光景を魔眼で確認しながら、そして自分も360度に回った。




刀を振るう音が六回と、その弾丸を打ち出す音が八発。これで掃討は完了した。




勿論こんな神業的な銃剣スタイルを扱えるほど秋は強くない。全ては『完全武装術』の効果あっての物だ。




「ふう。さて、行くか。こいつらは食えなさそうだが……一応燃やしておくか」




こうして秋は死体に向けて光属性の魔術で光線を浴びせて死体を灰まで燃やした。こうして秋はまるで庭を歩くかの様にこの魔物犇めく西の森を進んでいった。















「そこそこに近くなってきたか…迷宮」




秋はただ闇雲に進んでいたわけでない。『真血の魔眼』で見える空気中に漂う魔力の濃度が濃い方を選んで進んでいたのだ。するとこの西の森は中央に向かうにつれて魔力濃度は濃くなっていっているのが分かったため、こうしてまっすぐ向かっていたという訳だ。




そしてやはりと言っては何だが、空気中の魔力が高い程魔物の強さも上がっていった。魔物にとって餌は魔力。人間・生物を食べるのも人間に魔力が含まれているためだ。もちろん好みも、種族の個性なども、その魔物が持つ残虐性なんかも含まれての結果なのだろうが。




そしてついに、この西の森に潜ってから一時間弱。過去最高に魔力濃度が高いと思われる場所に近づいているのだ。




そしてついに見つけたのだ。明らかに森とはマッチしていない風貌の人工物らしき何か。それも時間の経過を感じさせない真新しい美しさのある建物が。




「ああ、これか…」




秋は理解した。これが異世界に存在する。これが『迷宮』なのかと




「一応聞いておくが、迷宮の様子を調べる事は、今のお前になら出来るのか?今は何でも情報が欲しい」


『はい。私はスキルですので魔力を感知しやすく、また能力である演算を用いる事が出来れば、内部の情報を予測する事が出来ます。実行するのであれば、迷宮の岸壁なんかに手をかけご自身の魔力を流していただければ、あとはこちらで演算を開始いたします。


「了解した。やってみる」




こうして秋は魔眼を起動しながら迷宮へと近づいていく。周りに魔物がいる様子はない。それに迷宮の周りにだけ木々が生えておらず開けた土地になっている。その中でも一際目立つのはやはり壮言な白で囲まれたこの迷宮の建物だろう。




秋は何となくではあるが、地球にいたころのイメージから地下に階層が伸びている物だと推測している。そしてそれの入り口がこの建物なのだろうと。




そして秋は迷宮の外壁にそって一周してみる。一切の切れ目もない、人が作れるという次元を超えた美しさを放っている。形的にはかまくらと寺院のゴテゴテした建物を足して二で割ったような、入り口は丸く開いているが、上には突起物の様な物がゴテゴテと張り付いている。




「じゃ、アルタ。始めるぞ」


『イエス。マスター』




そして秋は、入り口からみて右側の壁に手をかけ、ゆっくりと手から魔力を流し始めた。迷宮という大層な名前だけあって、最初は魔力に対する抵抗が秋からも感じられたが、徐々に魔力が岸壁を流れるようになっていった。




やはり予想通り、岸壁に沿われた魔力は上ではなく下に流れていく。こうして秋の体から魔力を徐々に流していく。




『魔力の移動を観測しました。これより魔力動作からの演算・予測を開始します』




いつもの少し人間味のある声から完全に無機質の声になったスキル:或多アルタが、そのスキルの力をフルに使って未知の迷宮の内部構造をほぼ確実といえるまでに演算し予測する。




秋の魔力は魔眼で消費していたとはいえ17万ほどはあったため、何かあった時のために10万は残し残り7万を全て流す。




『流動魔力の操作を或多に移行します…成功しました。続いて魔力のパスから命令を流します…成功しました。続けて観測を実行します』




こうして魔力の流れが止まると、魔力をアルタ自身が操作し始める。秋はそのまま壁について1分と少し。ようやくアルタが反応を示した。




『魔力の観測による演算・予測の工程は全て完了いたしました。データを改めて解析して能力:人道案内ナビゲーション・システムに移行します……マスター。工程が全て完了いたしました』


「よくやったアルタ。それ、何か分かったのか?」


「はい。最深部には深い魔力のバリアがあり観測する事は不可能だったのですが、50階層と少しまではおおよその観測に成功いたしました。ですが深さの部分を考えると、やはり70階層はあると思われます。魔物の強さは40階層から劇的に上昇しておりますが、マスターのレベル・スキル等考慮しましても特に影響はないかと思われます」


「了解した……今日は帰るか。今から帰るとすると、日没を少し超える気もしないでもないが……まあ、大丈夫だろう。多分だがな」




こうして秋達は迷宮の発見に成功した。迷宮以上の人外に目をつけられたあの迷宮がどうなるのかは、明日から攻略を開始する秋のみにしか知りえないことなのだろう…。






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