第513話 蜀都、成都城
──中華大帝国、蜀国王都、成都。
国主である蜀王の居城、国家の運営を司る成都城、そこに置かれた宮殿の一室で只者ならぬ雰囲気を持つ者たち数人が卓を囲み、膝を突き合わせていた。
一人は冠を被り、穏やかな表情を浮かべた妙齢の美女。肩の辺りで切り揃えた美しい髪から大きな耳が覗いている。耳朶を手で摘まんで持ち上げれば自分の目でも見えてしまうくらい大きな耳だ。
その後ろには顔が瓜二つで全く同じ意匠の鎧を纏った若い男女が恭しく控えている。因みに身長は異なり、女の方は男性の三分の二ほどの背丈だ。
一人は見上げるほど大きな男。禿頭に立派な虎髭をもじゃもじゃ生やしている逞しい偉丈夫だ。そこにいるだけで他者に威圧感を与えそうな迫力……なのだが、身に纏っているのは桃と白の美しい女物の衣と
彼(彼女?)の後ろには蛇の鱗模様の戦装束を着た禿頭の男と同じほどの背丈の女が立っている。舌が長く口の中に納まらないらしく、だらりと真っ赤な舌をちろちろと揺らしている。
最後に切れ長の目に強い意志を感じる精悍な顔つきの青年。ブリタニア王立魔導学園遺物科の制服を身に纏っている。彼だけは後ろに誰も控えていなかった。
「さてさて、困ったことになったねぇ?呉の国が乗っ取られてしまったらしいよ?」
「全くもう!なんて軟弱なのかしら!!反乱軍如きに負けるなんて!!」
大耳の女の言葉に禿頭で虎髭を生やした男が野太い声の女言葉で同調する。
「我が国にも亡命される方々が……官吏の方々が上手くやってくれているようですが……」
制服の青年もため息をついて困った様子だ。
「まあ、困った人たちを捨て置いてはこの劉具の名が廃るからね!良くしてあげるように改めてみんなには伝えておこう。反乱軍の鎮圧にも力を貸さなくちゃ!
「ええ!姉上!俺と蛇矛にお任せになって!!」
劉具と名乗った大耳の女性の名は劉具、字は白徳。蜀漢の初代皇帝劉備の末裔にして現蜀王である。彼女の後ろにいるのは契約遺物の雌雄一対剣だ。
そして、白徳に翼桓と呼ばれた率直に言ってオカマの大男の名は
ブリタニア王立魔導学園の制服を着ているのは
「しかし、翼桓殿……一筋縄ではいかないようですよ?」
「あら?子虎……俺の腕を疑っているのかしら?」
「翼桓、子虎はそう言いたいのではない」
「うん?」
子虎を睨んだ翼桓の肩を蛇矛が肩を叩いて止めた。翼桓は蛇矛の顔を見る。
「賊徒の親玉に手を貸す宝貝が出ているらしい」
「何ですって!?」
「あちゃー……これは面倒なことになりそうだねぇ?」
「それは慎重さが重要となってきますね……」
蛇矛が放った衝撃の事実に翼桓と白徳の表情は一変した。宝貝とは中華における神話級遺物の別称だ。それが敵に回ったとなれば厄介至極。子虎も渋い顔だ。
「まあ、それは後で考えればいいよ!太公望様が来て下さると報せもあったしね!」
「太公望様が!?」
「それならば……状況はよくなりそうですね!」
白徳の朗報に翼桓と子虎の表情は少し和らいだ。白徳はさらに畳みかける。
「それに、朱雲ちゃんも帰って来るって!」
「朱雲ちゃんが!?ということは……」
「うん!この子の引き取り手が見つかったってことよ!この子を託せたら私も闘えるわ!」
白徳は首から掛けていたバスケットボール程の大きさで黒曜石のように煌めく、美しい桑の実のような物を優しく撫でた。
これこそが太公望と玉璽が司隷の宮殿で話していた“扶桑”である。とある強大な力を秘め、自分の認めた者にしか懐かないという意思を持った神樹の実だ。
朱雲は「遠くブリタニアの地に扶桑を託すべき者がいる」という占術の結果をもとにしてその者を探しに行っていたのだが、数日前に「見つかったので帰国する」との方があったのだ。
「お姉様と戦場に立てるなんて!俺、ワクワクしちゃうわ!」
「そうよね!大変そうだけど何とか乗り越えましょう!えいえいおーーー!!」
「「おーーー!!」」
明るい白徳の声に翼桓と子虎も拳を上に突き出して答える。それを遺物たちも笑みを浮かべて見ていた。この時から丁度一週間後、蜀と反乱軍が起こした国、上帝天国の戦争はその火蓋が切って落とされることとなる。
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