第428話 双魔の内心
そんな経緯があって、レーヴァテインは何とか双魔宅の一員となったのだ。相変わらず、ティルフィングには嫌がられているが、初めのうちに見せていた愛の狂気がほんの少しだけなりを潜めてきた。それにティルフィングも絶対拒否では双魔が困ると分かってくれたのか我慢はしようとしてくれている。
しかし、レーヴァテインはというと、先ほどのように嫉妬がてらにすぐ剣気を漏らすので、双魔は火事防止のために気を抜けないでいる。
因みに、ティルフィングが開通させてしまった壁の穴は、開き直って綺麗に整え、双魔の部屋とイサベルの部屋を繋ぐ連絡通路になっている。
「…………私、魔術師さんといると自由に出来ません……不満ですわ!」
「そう言うのは自分で剣気が漏れないように出来るようになってから言ってくれ……ズズズッ」
「きーっ!何ですの!上から目線に!」
味噌汁を啜りながらあしらわれたレーヴァテインは器用に頭から蒼い煙を出している。余りにも剣気を散らされるので腹が立って、熱が発生しない技を編み出したらしい。
「はむっ……むぐむぐむぐ……ごくんっ……我はいい子だからな、剣気を漏らしたりしないぞ。貴様はおむつを着けている赤子と同じようなものだな?ソーマの言う通り、お漏らしは早く治した方がいいぞ?」
「おっ、おも!?お姉様……そんな……お姉様に赤子扱いされるなんて……気遣っていただけて嬉しいはずなのに……不本意ですわ!」
「……別に気遣っているわけではないのだが…………」
「鏡華、醬油とってくれ」
「はいはい、お醬油」
「ん、ありがとさん」
ティルフィングに”お漏らし”呼ばわりされてショックを受けているレーヴァテインを放って双魔は食事を進める。今日は少し早めに家を出なくてはならない。ゆっくりしているわけにはいかないのだ。
「坊ちゃま、今日のお帰りは?」
「ん、そんなに遅くならないと思う。学園祭が終わるまでは魔術科の仕事は休みでいいって言われてるからな」
双魔はこの春から正式にブリタニア王立魔導学園魔術科の講師の地位にあるわけだが、同時に遺物科の学生であるため、魔術科主任講師のケルナーが気を利かせてくれたのだ。と言っても、そちらの仕事がなくても遺物科評議会副議長という立場上忙しいことに変わりはないのだが……。
「………何か御隠しになっていることはありませんか?それこそ……正式に講師になられたのを左文に黙っていた時のように……」
「いや……あれは隠していた訳じゃなくてだな……忘れてただけで……怒らないでくれよ」
「起こってなどおりません!」
左文は怨めし気に双魔を見るとプイッと顔を逸らしてしまった。決まった時にすぐに言わなかったのを根に持っているらしい。
『どうしてそのような一大事を左文に黙っているのですか!ああ!もう!お祝いもできませんでした!そう言うことはしっかりと伝えていただかないと困ります!旦那様と奥様には……報告していない!?坊ちゃま!坊ちゃまは昔から物事の重要度に対する定規がずれています!何かあればすぐ左文に仰って下さいと言っているではないですか!!』
実際、ふと思い出して切り出した時にはかなり怒られた。それ以来、仕事の話が話題になる度に左文はご機嫌斜めだ。そろそろ許して欲しい所ではある。
「そう言えば、お母様に双魔君が正式に講師になったって伝えておいたわ……その……褒めてたわ……凄いって……お父様にも伝えておくって……」
「……そうか」
イサベルは思い出したかのように話しはじめたが、すぐにしどろもどろになってしまった。あの鋭い母親に何か照れるようなことを言われたのだろう。そう思って、双魔は何も聞かなかった。
「おじい様とおじじ様にも知らせといたよ?後でお祝い贈るって」
鏡華もしれっと、野相公と閻魔王に報告していたらしい。例の手紙の件もあったので、少し背筋が寒くなる。
「……別に祝われるようなことでもないだろ……」
「そんなことないわ!七大国の王立魔導学園で教鞭を取れるなんて!本当に一握りの人たちだけなんだから!」
ハッとしたイサベルが身を乗り出して反論した。イサベルの言う通り、ブリタニア、中国、ドイツ、フランス、日本、インド、イタリアの王立魔導学園で教鞭を振るうのは世界神秘連盟(Intergentes Mysterio Foedus )が定めるそれぞれの魔導分野の序列、上位五百人以上の者たちだ。その席に座ることは非常な名誉であり、力の証明だ。
しかし、双魔からすれば煩わしい地位でもあった。ヴォーダンの頼みを断れなかったとはいえ、これで双魔の地位は公のものになってしまった。そのうち、「異例の若さで~」などと注目されるのは目に見えている。
(……”
双魔は自らと師の意向で自らの序列を隠し、魔術協会でも隠蔽するように依頼してある。が、イサベルは双魔の序列に感づいている節がある。イサベルがそうなのだから、その父であるキリル=イブン=ガビロールもそうに違いない。
ロキとの決戦で自分がどのような存在なのかを知った。「龍はいつまでも水中で伏していることはできない」と言ったのは誰だったか。覚悟を決めなくてはならないのかもしれない。
そんなこんなで朝から騒がしくしている間に皆朝食を食べ終えた。
「「「「ごちそうさまでした」」」」
「悪くないお味でしたわ」
「はい、お粗末様でした。それでは、後片付けは左文に任せて、準備を急いでください」
時計を見るとあと二十分で家を出る時間だ。全員席を立つと素早く登校の準備をするのに散らばっていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます