第319話 一触即発

 ロザリンは本能的に自分たちに仇為す存在だと瞬時に判断したのだろう。


 双魔の制止は一拍遅かった。その場にいる全員が予想外の出来事の上に更に予想外を被せたロザリンに面食らってしまう。


 それは何も評議会メンバーだけではなかった。


 「……はっ!?ご主人様に無礼をっ!許しませんわ!」


 状況を双魔の制止から更に一拍して飲み込んだレーヴァテインが形のいい眉を怒りに歪ませ、長髪をうねらせてロザリン目掛けて蒼炎の剣気を放出した。


 「ッ!」

 「アイっ!」

 「ええ、分かってる」


 アッシュに応えてアイギスが右の掌をレーヴァテインに向ける。光の壁がロザリンと蒼炎の間に生じ、バックステップで炎から逃げるロザリンを追っていた炎を隔てる。


 「余計なことをっ!小癪ですわ!」

 「小癪?貴女、誰にものを言っているのかしら?」


 不愉快さを隠さず顔に浮かべ、光の障壁を燃え尽そうと火力を強めるレーヴァテインに対してアイギスは余裕たっぷりに障壁を一回り拡大させ、更に形状をレーヴァテインと神霊の方へ反らせて椀型にする。


 「くっ!」


 炎は障壁を破ることなく、逆に障壁の形状によって流れを操作され神霊に向かう。これにはレーヴァテインも悔し気な声を出して蒼炎の噴射をやめざるを得ない。


 「レーヴァ」

 「はっ!申し訳ありません、差し出がましい真似を……」

 「いや、怒っているのではないよ。しかし、話が進まないからね」


 ロザリンに胸を刺し貫かれたはずの神霊は何事もなかったかのように平然と穏やかにレーヴァテインを制止した。


 アイギスのお陰で蒼炎から逃げ延びたロザリンはゲイボルグをくるりと一回転させて首を捻った。


 「……手応えなかった。あ、アイギス、アッシュ君ありがとう」

 「どういうことだ!?ゲイボルグが胸を貫いて仕留め損ねるなんてあるのか!?」

 「もしかして……幻術?」

 『ヒッヒッヒ!いーや、確かに俺もロザリンもアイツの心臓を貫いたはずだ。実体はある、幻術じゃねぇ……ただ、手応えはなかった。こりゃあ、どういうことだ?』


 ゲイボルグは必中必殺の魔槍だ。その一撃をまともに喰らって無事なはずなどないのだが神霊は泰然と浮かんでいた。


 「そちらの魔槍使いも中々いい判断能力だ。でも、私が用があるのはそこの、伏見双魔とその契約遺物ティルフィングだ。私に傷をつけられるのはその二人だけ……」


 ロザリンたちの視線が双魔に集まった。いつもなら可愛らしく首を傾げるはずのティルフィングは宙に浮かぶ神霊とレーヴァテインを警戒して一切双魔の前から動かない。


 「…………」


 (……「私を殺してくれ」、そう言ってたな……)


 神霊と真正面から向かい合う双魔の脳裏には以前、目の前の仮面の神霊が去り際に放った一言が甦っていた。何となくだが、目的はあの言葉に集約する気がする。


 「とは言っても、何も無意味に君たちを招待したわけではないよ……そうだな、私と遊戯をしようと言えばいいのかな?フフフフ……ここにいては色々と分かりにくいだろうからね、先ずはこの建物の屋上まで上がってくるといい。ルールはそこで説明しよう……それでは、待っているよ」

 「それでは、皆様、失礼いたしますわ」

 「あっ!待つのだっ!……くっ!消えてしまったか……双魔、どうする?」


 ティルフィングに笑みを向けると再び宙に現れた黒い裂け目に仮面の神霊とレーヴァテインは消えていった。


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