第313話 イサベルにおまかせ!

 「いただきます……はむっ……むぐむぐむぐ……ごくんっ……あむっ……もぐもぐもぐ……はむっ……むぐむぐむぐ……ごくんっ……はむっ……」


 よほどお腹が空いていたのか食前の挨拶が終わると同時にロザリンが目にも止まらぬ速さで自分の皿に重箱からおかずをとおにぎりを取って口に運びはじめた。


 「ぼっ、僕たちも食べよう!」

 「ああ、そうだな!いただこう!……ボーっとしていてはロザリンに食い尽くされてしまうからな……」


 またまた呆気にとられたアッシュとフェルゼンもフォークと取り皿を手に重箱へと手を伸ばした。ロザリンは手前にある鏡華の重箱から食べているのでこちらの方が無くなるのが早いと思ったのだろう。


 双魔もどうするか迷ったのだがその必要は次の瞬間不要なものへと変わっていた。


 「はい、双魔の分は一式取っておいたさかい……いとこ煮、好きやろ?」

 「ん、ありがとさん」


 既にロザリンの行動はお見通しとばかりに悪戯っぽい笑みを浮かべた鏡華が料理を乗せた皿を双魔の前においてくれた。皿の上にはすべての料理が乗っており、双魔の好物は他の料理より量が多い。やはり鏡華には頭が上がりそうにない双魔であった。


 (……さて、鏡華の料理は確保済み、ならイサベルの方から食べてみるか)


 そう思いイサベルの方を見ると丁度イサベルと目が合った。


 「双魔君、具は何にする?」


 どうやら双魔が声を掛けるのを待っていてくれたらしく、イサベルは手元にバゲットを用意していた。


 「ん……そうだな……じゃあ、おまかせで頼む」

 「おまかせ?……分かったわ、少し待ってね……えーと……まずはこれかしら?はいどうぞ」


 イサベルが作ったピンチョスを皿に乗せてくれた。


 「これは、タコと茄子か?」

 「そう、タマネギと一緒にレモン汁で仕上げたの」

 「ん、いただきます……あむっ……むぐむぐむぐ……」

 「……どうかしら?」


 ピンチョスを口に入れる。コリコリとした歯ごたえのいいタコ、シャキシャキとしたタマネギ、外はザクザクで中はふんわりと絶妙な加減にトーストされたバケット、三つの食感が重なって楽しい。そこにタコの旨味とそれを吸った茄子、丁度いい塩気と檸檬の爽やかな酸味が口一杯に広がる。


 (……美味いな、これは)


 「……ごくんっ……あむっ……むぐむぐむぐ……」


 驚いたことにかなり双魔好みの味だった。自然と顔が綻んでしまう。一口目を飲み込んで手に持っていた残りも頬張る。


 「……ごくんっ……うん、美味い。タコも茄子も好物だし、凄い美味いぞ」

 「フフフフ、口に合ったみたいでよかったわ」


 少し緊張した面持ちだったイサベルの表情も双魔の顔と言葉に綻んだ。


 「もう一個作ってくれ、おまかせで」

 「また、おまかせ?フフッ……次はどれがいいかしら……じゃあ、これかしら?はい!」


 今度のピンチョスは生ハムとオムレツと一見変わった組み合わせだ。


 「ん、ありがとさん……あむっ……もぐもぐもぐ……ごくんっ……美味い……このオムレツが良いな……普通のオムレツじゃないだろ?」


 口の中に入れたオムレツはただフワフワなだけではなく微かな歯ごたえと卵以外の旨味を感じさせた。それに生ハムの塩辛さとバケットの甘さがまた絶妙に合う。


 「正解、ただのオムレツじゃなくてイスパニア風オムレツなの、トルティージャっていうの。本当はもっと具材を入れるんだけど……今回はシンプルにタマネギとニンニクだけよ」

 「いや、具が少ない分シンプルでいい……あむっ……むぐむぐむぐ……」

 「気に入ってくれたみたいでよかった」

 「むう、イサベル、我も食べたいぞ!」

 「はい、ティルフィングさんは何がいいかしら?」

 「我も”おまかせ”だ!」


 鏡華の作った稲荷寿司をぱくつきながら双魔の注文をしっかり聞いていたらしいティルフィングは得意げな顔でイサベルに注文した。


 「フフッ、わかりました。ちょっと待ってくださいね」

 「うむ!」

 「ティルフィングさんは何がいいかしら……」


 イサベルは楽しそうに微笑むとたくさんの具材の中からティルフィングが好きそうなものを吟味するのだった。

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