第312話 お弁当御開帳!

 「おおー!キョーカもイサベルも大きな弁当箱だな!」

 「ほ、本当に大きいね……ガビロールさんのはどっちかっていうと沢山って言った方がいいかな?」


 包みから出てきた二人の弁当箱を見たティルフィングが歓声を上げ、それに続いてアッシュが呆気に取られていた。


 ティルフィングの言う通り鏡華の風呂敷包みから出てきた五段重ねの漆塗り重箱はかなりの大きさだ。双魔も何とか抱えられるかというレベルなので鏡華には絶対に持てなかっただろう。


 「……こんなにでかい重箱どこから出してきたんだよ……」

 「?左文はんに大きな重箱ない?言うたら棚の奥から出してくれたよ?」

 「……そうか」


 如何やら台所の棚は双魔の知らないものがたくさん入っているようだ。


 「イサベルは……確かに大きいというより多いって言った方がいいのか?」

 「梓織しおりがお弁当箱を持っていたのだけれど……普通のお弁当箱だったから一人分だったの。だから、こうして小分けにして持ってきたの」


 カラドボルグがついさっきまで持っていた大きなバスケットからは大きめのプラスチック容器が次々と出てくる。


 二人ともこの場にティルフィングとロザリンがいることを重々理解してくれているようだ。


 「双魔、これ、お皿用意したからみんなに配って」

 「ん、分かった」


 鏡華から渡された紙皿を各々に配っていく。


 「フォークとスプーンも用意したから使って」

 「ああ、うちお箸しか用意せぇへんかったから助かるわ、イサベルはんおおきに」

 「いえいえ」


 イサベルが持ってきたらしいプラスチックの食器を配る。二人とも大分息が合ってきたようで微笑ましい。


 「そしたらうちのお弁当から開けようか。よいしょっ……と」


 鏡華は重箱の蓋を開けると四つの段を正方形になるように並べた。


 「おおー!」

 「ご飯!美味しそう!」

 「これが本場のお弁当……」

 「流石、六道さんって感じだね!」

 「ああ、見事だ」

 「ほほほ、そんな褒めんといて」


 中身を見た面々からの感嘆を聞いて鏡華は口元に手を当てて笑って見せた。


 双魔も中身を覗き込む。準備している姿や料理をしている様子は見たが何を作っていたのかは知らない。わざわざ口にはしないが鏡華の弁当は双魔も楽しみにしていた。一段目から見ていくことにする。


 一段目は肉料理。二段目に魚、三段目には煮物などの野菜類、そして残りの段はご飯もの、四段目におにぎり、五段目には稲荷寿司がそれぞれぎっしり詰まっていた。


 「……ん、美味そうだな……一応一品ずつ説明するのか?」

 「せやね、そしたら一段目から。一段目はお肉やね。豚肉の味噌漬け、部位はロースとヒレ、それと牛肉のしぐれ煮、鶏の唐揚げに卵焼き。二段目はお魚、鰤の照り焼きと塩鮭」

 「…………」

 「おい、ロザリン……流石に涎垂らすのはだらしないから止めとけって……聞いちゃいねぇ……」


 食い入るように重箱の中を覗き込んでいるロザリンをゲイボルグが嗜めるが空腹モードのロザリンの耳には聞こえていないようだ。


 それを見て思わず苦笑した双魔の隣で鏡華は説明を続ける。


 「三段目はお野菜、筑前煮といとこ煮、菜の花の胡麻和えに大根と烏賊の煮物。四段目はお稲荷さん、最後に五段目はおむすび、味が濃いおかずが多なってしまったから特に味付けしてない白米のおむすび。量を優先したからあんまり洒落たものは作れへんかったけど……味は間違いないさかい、安心してええよ?」

 「洒落たものって……十分なんじゃないかな?」

 「そうね、アッシュなんて料理できないもの」

 「アイっ!余計なこと言わなくていいの!」

 「へー、極東の料理はっこんな感じなのね!イサベルは何作ってきたの?」

 「……鏡華さんの後で少し紹介しづらいけど……私も説明しますね……」

 「そないに恐縮せえへんでも、うちと腕はほとんど同じなんやから大丈夫、な?双魔」

 「ん」

 「……わ、わかりました……それじゃあ……」


 カラドボルグに突然振られて少し自信なさげなイサベルも鏡華と双魔に背中を押されてプラスチック容器の蓋を開けていく。


 「鏡華さんが和食を作ってくると思ったから私もイスパニアらしいものにしました」


 プラスチック容器の蓋を全て開き終えるとイサベルは最後にバスケットの中から厚めにスライスしてトーストしたらしきバゲットを大量に取り出した。


 「ピンチョス風のオーブンサンドです!具材はスモークサーモンとかピクルスとか色々用意したので好きなものを好きな組み合わせでパンに乗せて食べてください!」

 「あら、随分華やかやねぇ!ほほほ、楽しそう!これは一本取られたわぁ」

 「ソーマ、ピンチョス?とはなんだ?」

 「……そうだな……まあ、イスパニアのバル、居酒屋で出される酒の当てのことをピンチョスって言うんだが……まあ、要はイサベルの言った通りサンドイッチだ」

 「そうか。サンドイッチか!イサベルのお弁当も美味しそうだな!」

 「ん、乗せる具材も種類があるし……中々洒落てるな。結構作るの大変だったんじゃないか?」


 パッと見ただけでもスモークサーモンや色鮮やかなピクルスの他にもスライスしたゆで卵やオムレツらしきものにタコと茄子のマリネ、オリーブの塩漬けや一口サイズのフライのようなものまで用意してある。


 「そんなことないわ、梓織にも手伝ってもらったから……味も大丈夫なはずだから」

 「ガビロールさんのも凄いね……」

 「ああ、色々と楽しめそうなメニューだな」

 「…………」

 「……ロザリン……いや、もういいや……お二人さん、さっさと食べさせてやってくれ……」


 ロザリンの様子を見たゲイボルグは最早何も言うまいとシェフ二人に声を掛けた。


 「ほほほ、せやね!そしたらイサベルはん、せーのでええ?」

 「え?あっ、わかりました!」

 「うん、いくよせーのっ!」

 「「召し上がれ!」」

 「「「「「いただきます!」」」」」


 鏡華とイサベルの言葉に続けて元気な声が評議会室に響き渡る。いつもより少し遅めの、けれど楽しいランチタイムのはじまりはじまり……。


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