第293話 傀儡姫の幸せ
『みなさまー、お汁粉を作ったのですがお召し上がりになりますかー?』
下から左文の声が聞こえてきた。その声を聞いたイサベル以外がそれぞれ反応を見せる。
「おしるこっ!」
既にお汁粉経験済みのティルフィングは跳ねるように立ち上がった。
「双魔はどないするん?」
「ん……餅はいいかね……ティルフィング、俺の分も持ってきてくれるか?」
「うむ!任せろ!」
「じゃあ、よそうのはうちがやるわ。ティルフィングはん、行こか」
「後輩君、おしるこって?」
「日本の甘味ですよ……ロザリンさんも見てきたらどうですか?」
「日本の甘味……うん、そうする」
鏡華とティルフィングに続いてロザリンも”日本の甘味”という言葉に惹かれたのかフラフラと部屋を出ていった。
「……イサベル?」
「…………」
ティルフィングたちが出ていったので部屋には双魔とイサベルの二人きりになる。そこで双魔はやっとイサベルが固まっていることに気づいた。
「……?イサベル」
「はっ!双魔君!?な、何かしら!?って……鏡華さんたちは?」
双魔に肩を叩かれて我に返ったイサベルは室内を見回して鏡華たちがいないことに、自分が双魔と二人きりになっていることに気がついた。
「左文がお汁粉を作ったって言うから……」
(そ、双魔君と二人きり!?い、今がチャンスよね?そうよね?や、やるしかないわ!
双魔が何か言っているが耳から耳へと通り抜けていく。脳内の梓織は笑顔でサムズアップしていた。イサベルにとっては久しぶりの大勝負だ。
「はむっ……もぐもぐもぐ……ごくんっ!そ、双魔君!」
イサベルはフォークに刺さったままのキウイフルーツを食べると双魔に向き直った。
「んー、なんだ?」
「っ!?」
(……双魔君……可愛いっ!……)
イサベルの目には返事をする双魔は病み上がりのせいかいつもはないはずの隙があってかなり無防備に見えた。それが庇護欲というか母性本能を刺激した。
「ほ、他に食べたいフルーツは……その、ないかしら?」
「ん……じゃあ、マンゴーかな?」
「マンゴーですね……それじゃあ……その……あーん……」
「あむっ……むぐむぐ……」
イサベルの差し出したマンゴーに双魔がかぶりついた。その瞬間、イサベルの頭はカッと熱くなった。言葉に表しきれない幸福感で胸がいっぱいになる。
「…………」
今度は違う意味で硬直したイサベルを見て何を思ったのか、双魔は手にしていたフォークで柿を一切れ刺してイサベルに差し出した。
「っ!……双魔君?」
再び我に返ったイサベルをじっと見て双魔はふわりと微笑んだ。
「ん、お返しだな。ほれ、あーん」
「っ!えっと、その……あ、あーん……はむっ……もぐ……」
(ど、どどどどどっ!どうなってるの!?これは夢!?)
イサベルにはもう何が何だか分からなかった。普段の双魔は優しくてかっこいいのだが、それとは違う熱で顔が少し赤らんだ無防備な双魔が可愛くて情報処理が追いつかない。
「……美味いか?」
「っ!っ!」
「ん、そうか……」
(あ、味なんて分からないけどっ!し、幸せ……やっぱり現実よね……はあーー……っ!)
幸せと羞恥心に耐えられなくなったイサベルは両頬に手を当てて双魔に背を向けた。
顔が熱い。絶対に双魔の顔より今の自分の顔の方が赤いに決まっている。
「――――――――っ!!!」
(……柿、美味いな)
そんなイサベルと対照的に双魔は残っていた柿を食べてシンプルな感想を抱いていた。
体調を崩すと天然気味になる双魔とある意味いつも通りのイサベル。数分後にお汁粉を持って部屋に戻ってきた鏡華が楽しそうに笑い、ティルフィングとロザリンが首を傾げる姿は予想するに難くなかった。
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