第253話 休日も一緒?
「……あー……」
週明けの昼過ぎ、授業を受け終えた双魔は一人、最早日課となったロザリンを迎えに行くために時計塔のエレベーターに乗り込み情けない声を上げていた。
別に何か煩わしいことがあるわけでもないのだが、たまにそんな声を上げたくもなる。”生きる”とは多分そういうことである。
(まさか……休日もだとは……いや、まあ、付き合うとは言ったから仕方ないが)
土曜と日曜は流石にロザリンも好きなように過ごすだろうと思っていたのだが、そんなことはなかった。
土曜は双魔が部屋でのんびりとしていると何処で番号を知ったのかロザリンから電話が掛かってきた。
『後輩君、今日は……お休み?』
『……今から行きます』
『うん、待ってる』
気のせいかどこか寂しそうな声を出されて行く他ない。
『……出かけてくる』
『双魔?出掛けるん?』
『ん、先輩がな……』
『そ……双魔』
『ん?何だ?』
『新しい女の子に構うのもええけど、イサベルはんのこと忘れたらあかんよ?釣った魚に餌をあげへんのは……なあ?』
『…………分かってる』
『ほほほほ!一応いっただけやから、そんな顔せんといて。気いつけてな』
一瞬、凍るような笑みを浮かべた鏡華だったがすぐに朗らかな笑い声を上げた。
(…………まあ、優先はイサベルと鏡華だよな…………)
ロザリンとの関係は今のところ先輩と後輩だが鏡華とイサベルは正式に恋仲だ。
二人とも双魔の事情を察してか色々と言ってくることはないが、双魔としては心苦しい。
ゲイボルグの目的が何なのかはっきりせず、期間が決められていないことが難しさを産んでいた。
そんなことを考えながら土曜日は一人でロザリンのもとへ行き、食事と話の相手をして帰ってきた。
日曜は一度会ってからすっかり仲良くなったティルフィングを連れていき、双魔は二人がじゃれあっているのを見ながら魔術科で次に代行が入った時の指導案を思案していた。
影の国の女王スカアハは魔術にも造詣深く、教えを施されていたらしいロザリンはティルフィングと遊びながらも興味津々といった感じで双魔の手元を覗き込んでいた。
その後は三人で食堂に行き食事を摂った。
いつもは一人前しか出ない”ロザリンスペシャル”もティルフィングが一緒に来れば二人前になる。
料理の山が二つテーブルに並び消えていく様に、双魔は苦笑いするしかなかったが、厨房からはおばちゃんやコックたちの拍手が聞こえてきていた。
「…………あー…………」
双魔はエレベーターが目的の階、ロザリンの部屋がある階につく間際にもう一度情けない声を上げた。
今度の声は何となくではなく鏡華やイサベルのことを思っての世の男子に打ち明ければ袋叩きにされるであろう贅沢かつ複雑さを孕んだ悩ましい声だった。
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