第219話 ”釣仙人”
「…………」
「…………」
『…………』
「んぐっ……んぐっ……んぐっ…………ぷはっ…………はむっ…………むぐむぐ………」
『来ないね?どうしたのかな?』
雑談をはじめて既に二時間以上経ったのだが最後の一人は中々画面に姿を現さない。
ヴィヴィアンヌは全員揃ってから話に加わる気なのかいつの間にかグングニルが用意したチーズなどをあてにしてワインを飲み続けていた。
訪れていた沈黙をマーリンが破った。確かに遅すぎる。
「ふむ……こちらから繋げてみるかの………」
『それがいいだろう』
待つのは構わないがヴィヴィアンヌの前には既に何本もの空き瓶が転がっている。
癇癪を起こされては面倒なので、三人と一頭は互いに頷き合ってこちらから映像を繋げることにした。
ヴォーダンが杖を手して、二度床を叩く。すると、ヴィヴィアンヌの横の画面がゆらゆらと揺れはじめ、やがてある風景を映し出した。
白みはじめた空の下に幾つもの岩山が突き出し、画面の手前には雄大な河が流れている。
そして、、画面の端の方には何やら釣り竿のような棒と水面に垂れた糸が見えた。
「また釣りをなさっているようですね……」
『自由過ぎるのも考え物だな……』
『いつもやってるけど面白いのかな…………僕も今度やってみよ!』
晴久とジルニトラはやれやれといった感じだが、マーリンの反応は少しずれていた。
「おーい、おらんのかー?」
ヴォーダンが画面の向こうに呼び掛ける。
『ひょっ?』
すると、少々間の抜けた老人の声と共に長く伸びた髭のような者が映り込む。
そして、そのまま柿渋色の粗末な服を身に纏った瘦せぎすの身体が映る。
『よっこいせ…………っと!』
その場で座り込んだのか画面に顔が映り込んだ。
先ほど見えた長く白い髭、力強さを感じさせる黒い瞳の上には髭と同じく長く伸びた眉が乗っている。
黒い頭巾を被り、皺だらけの顔にはやんちゃな少年のような笑みを浮かべている。
落ち着きと包容力のあるヴォーダンとはまた違った雰囲気の好好爺といった雰囲気の老爺が釣り竿片手にぼりぼりと頭を掻く姿が画面に映った。
『なんじゃ、お主らか……』
『お主らか、ではない。何度時刻破りをすれば気が済む……』
『儂とて暇ではないんじゃ!』
画面の向こうの老人はジルニトラの苦言を聞いて見るからに煩わしそうな顔をして見せた。
『ナハハハ!本当は忘れてただけでしょ?誤魔化さなくたっていいのに!』
『
『小童って……僕はもう千五百歳超えの立派な爺だぜ?』
『はん!っ儂からすれば小童じゃ。こっちは齢七十を過ぎてから数えるのをやめたが三千年は生きておるわい』
「フッ、夢魔殿の負けですね」
『チェッ……』
ぞんざいに扱われて不平を唱えたところを反撃された上に晴久にも笑われて、マーリンは口を尖らせて不貞腐れた。
「お久しぶりです、ご壮健のようで何より。今日も釣りですか?」
『おお、晴久か。お主は若いのにそこの小童よりも礼儀が正しいな』
「恐縮です」
『まあ、釣りをしておるのは間違いない。儂と言えば釣り、釣りと言えば儂と言ったところよ…………おや?今日は珍しい顔がおるのう?』
画面が斜めに動いて隣のヴィヴィアンヌの方に向いた。
「……あら?
不機嫌だったヴィヴィアンヌの顔が老人を見た瞬間ほころんだ。少し酔っているのか顔が赤らんで色っぽい。
その様子を見て太公と呼ばれた老人も笑みを浮かべる。
『うむうむ、元気そうじゃな。ひょっひょっひょ!やはり若い女子はええのう!しかもとびきりの美人じゃ!
「もう!お上手ね!」
『ひょっひょっひょ!』
褒められて嬉しいのかヴィヴィアンヌも褒めた老人も上機嫌だ。
『……何アレ、僕と全然扱いが違うじゃないか……』
”偉業を成し遂げた王の補佐”という似た功績を残しながらろくでなしの自分の先祖と違い、後世に多大な影響を残し敬われている老人をヴィヴィアンヌは非常に尊敬している。
呂尚もそんなヴィヴィアンヌを可愛がっているので、二人の仲は非常に良いのだ。
「それはまあ………仕方ないかと」
『日頃の行いだな』
『…………ガックシ……』
不貞腐れたたままボヤいたところを晴久にやんわりと、ジルニトラにバッサリと切り捨てられてマーリンは肩を落として俯くのだった。
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