第213話 強引な傀儡姫?
「双魔君!」
自動ドアを潜ると目の前にイサベルが立っていた。髪型はいつも通りだが、先週と同じ青いドレスを身に纏っている。やはり、とても似合っていた。
「ん……っと……なんだ……」
顔を合わせるや否やイサベルは双魔のそばに寄ってきて、左腕に自分の両腕を絡めてきた。
「さっ!行きましょう!」
やたらテンションが高いイサベルはそのまま双魔をグイグイと引っ張り出した。
「おっ、おい!ちょっと待って……ああー…………」
その細腕からは意外なほどの力強さに、双魔は為す術もなく引きずられていく。
青のドレスを着た紫黒の髪の美少女がずるずるとローブを羽織った黒と銀の髪の少年をズルズルと半ば引き摺るように歩いていく姿は上品な雰囲気のホテルでは珍しいことなのだろう。
エレベーターに乗り込むまでにすれ違った、または座っている人達のほとんどにチラチラと視線を送られた。
今もチラリとエレベーターガールがこちらを見たような気がしたが双魔の意識はそれよりも別のところに集中していた。
「…………」
(……当たってるんだよな……言った方が良いのか?これは?)
双魔の腕に抱き着いて笑みを浮かべたままのイサベルの顔から少し視線を下げるとそこに問題の根源があった。
イサベルが強く腕を抱いているせいで、こう何と言うか、双魔の肘の辺りを魅惑的な柔らかさが包んでいるのだ。
胸元の開いたデザインではないので目視は出来ないが感触的に、イサベルの程よい大きさの胸のふくらみの丁度谷間に双魔の腕は挟まっていた。
(……少し不味いな…………)
双魔はこれからキリルとサラに会うと言うのにイサベルの色香を近距離で受けてクラクラしてきてしまった。
肘の感触だけでなく、目はイサベルの長いまつ毛や白い肌を、鼻は髪から漂う甘い匂いを捉えてしまう。
「……おい、イサベル」
「気にしないでください、当ててるんです」
「…………」
耐え切れなくなった双魔はイサベルに声を掛けたのだが、あろうことかイサベルは分かっていてやっているらしい。
よく見ると耳が真っ赤になっている。
(恥ずかしいならやらなきゃいいものを…………)
気恥ずかしさと煩悩を払うために心中で皮肉ったところでエレベーターのベルが鳴り響き、目的のサロンがある階に到着した。
エレベーターから上がると流石にイサベルも双魔の腕を放したが、ぴったりと寄り添っているのは変わらない。
「…………」
「お父様とお母様が待っているわ。行きましょう」
「おい……」
双魔がグリグリと親指でこめかみを刺激していると、イサベルは双魔の手を取ってスタスタとサロンの入口へと歩き出した。
「っ!これは、伏見様」
「ああ、邪魔する……イサベルっ!逃げることなんかないんだから、引っ張るな!」
受付にはこの間、絡んできた男が立っていて、恭しく礼をしてくれたが、言葉を交わす暇もなく二人はサロンの中へと消えていった。
「…………」
受付の男はここまでの二人を見てきた人々と同じように目を丸くするしかないのだった。
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