第123話 不測の強襲
時は少し遡り双魔が鏡華にからかわれている頃、結界の外では悪霊たちとの交戦を終えた面々が一息ついていた。
「ふー…………なかなか疲れたね…………んーーー!」
「それにしても突然悪霊が現れなくなりましたね…………」
檀が結界に集中しながらも声を掛けてきた。
「きっと、双魔が上手くやってくれたんだと思うよ?賀茂殿の話を聞くとね」
悪霊が現れなくなった直後に春日から連絡が入った。不安定になっていた土地の魔力が突如安定したらしい。
タイミング的には双魔たちが山縣、もしくは怨霊鬼を打倒したのが原因だろう。
「さてさて、そろそろかな?」
剣兎は懐から双魔に渡された包みを取り出した。中身は結界を張る前に確認してある。
「それは……なんですか?」
「双魔から預かった合図さ。まだかな?」
手の平に包みの中身を出してみる。落花生のさやほどの大きさの蕾が数個転がる。
この蕾が開けば結界を解いていいと言う双魔の合図のはずだ。
周りに気を配りながら、花が開くのを待つ。
その時だった。
ピー―――――――!!ピーーーーーーーー!
「…………っ!?これは!?」
端末から耳をつんざくようなけたたましい電子音が鳴り響く。通常とは違うそれは緊急事態の際に用いられるものだった。他の場所からも同じ音が聞こえてくる。
『皆さん!今すぐ退避を!剣兎さんと檀さんはすぐに結界を解除してください!!』
春日の叫び声が端末から放たれる。声のトーンが尋常ではない。
「
「はい!
「ワン!」
事情は把握できないがここは春日の指示に従うのが最善と判断し、剣兎は檀に声を掛けた。天空にも結界を解くように念を送る。
しかし、脅威はほとんど予兆なく、即座に訪れた。
ヒュンッ!パキイイィイイン!!
風切音が聞こえたのとほぼ同時に結界が何かに貫かれた。
「ぐああああああああああ!」
「キャウン!」
「ぐっ………………がぁ!」
檀と剣兎の身体に激痛が走った。檀の両膝は折れてガクリと地面に倒れ込む。
宙に浮いていた太裳も沈痛な表情を浮かべて霧散する。
剣兎は片膝をつくに留まったが、同じように天空は痛みを訴える声を出すと現界を保ちきれずに消えてしまった。
二人が使用していた結界術は式神を通して、術者にある程度負荷掛ける強力なものだ。結界が損傷すると術者にも相応の反動が伝わる。
今、結界を貫いた何かは相当の力を持っていたのだろう。剣兎と檀の身体はすぐに回復するのは困難なほどの痛みに襲われる。
ギイィン!!!
続いて金属と金属が衝突するような甲高い音が響き、直後に凄まじい衝撃波が巻き起こった。
「不味い!」
元々劣化していた塀が衝撃波に当てられて砕けて傾く。このままでは檀が下敷きになってしまう。
剣兎は痛みが蝕む身体を無理やり動かす。
「オン・イダテイタ・モコテイタ・ソワカ!…………ぐぅうッ!」
韋駄天の真言を唱えて檀に高速で接近、片腕を掴んで一気に塀から離れる。
身体を更なる激痛が襲う。一昨日の傷が癒えていない上に、今の結界への攻撃で身体が限界寸前だったのを押して術を行使したのだ。
「ぐっ!」
上手く着地が出来ず、勢いのままに地面に落ちる。何度か転がった末に止まる。身に纏った服は土と雪、潰れた草の汁でぐしゃぐしゃだ。
「は、剣兎さん……ありがとうございます」
檀がよろよろと起き上がり。倒れたままの剣兎に手を差し伸べる。
「無事で…………よかったよ」
その手を握り何とか立ち上がる。
「きゃああああああああああ!」
「退避!退避してください!」
周囲からは部下の悲鳴や感知班による必死の指示が聞こえてくる。
「いったい…………何が起きたんでしょうか?」
「…………分からない、取り敢えず僕たちも動くべきだ。怪我人がいたら安全なところまで運ばなきゃね」
「分かりました!…………双魔さんと鏡華さんは…………」
剣兎は土煙の奥で崩壊したであろう廃墟に視線を送る。
「…………大丈夫、双魔なら何とかするよ」
屋敷の中で謎の襲撃犯を迎え撃ったであろう友のことを案じ、信じつつ、剣兎は満身創痍の身体に鞭を打って走り出した。
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