第40話 草刈り
第三ブロックが開始されて少し経ったころ、学園内を怪しい人影が動き回っていた。
服装が統一されているわけではないが学園外部の人間が闘技場をぐるりと囲むように配置されている。それぞれが怪しまれぬように振る舞っており違和感を抱く生徒もいない。
「……今のところボスからの指示に変更はないようだ。各自ぬかるな」
スキンヘッドにサングラスをした大柄な男が茂みに隠れて離れた仲間に通信で指示を飛ばす。足元には気絶した学園の警備員が倒れている。その時、背後からガサガサと音を立てながら何かが近づいてきた。
「っ!」
男は咄嗟に身構えた。相手が見えた瞬間にすぐに魔術を発動できるように魔力を両手に集中させた。
「俺だ……」
聞き慣れた声と共に現れたのは大量に着けたピアスの男だった。色黒の顔から血の気が引き病人のようだ。
「お前か……どうやらこの前やられたのがまだ響いてるようだな」
「チッ……あのクソガキ、今度会ったら八つ裂きにしてやる……」
数日前に裏路地で学園の生徒に何かしらの魔術を喰らってから体調が好転しない。
ピアスの男が忌々し気に舌打ちをしている間にスキンヘッドの男は倒れた警備員の服を脱がせ、その服を自分で身に着けていく。
「俺は今からボスの補佐のために闘技場の中に潜入する。そとの指揮はお前に任せる」
「おう、分かった」
「失敗は許されないぞ」
「ああ、了解だ」
ピアスの男の返答に頷くと茂みから警備員は姿を消した。
その様子を少し離れた高所から何かに腰を掛けて煙草の煙をふかしながら見ている者がいた。見るからに顔色の悪い女だ。その女は手にした刀で気怠そうに数度、肩を軽く叩いた。
「あーあ、面倒なこった……フーーーー」
紙煙草を手に、口から味わった煙をゆっくりと吐き出す。そして、コキコキと首を鳴らしながら立ち上がる。
その足元には気絶した魔術師が十人ほど倒れている。所々で折り重なり、皆、恰好はバラバラだ。
よく確認すると、倒れた魔術師たちはつい先ほどまで闘技場を包囲していた面々だった。
女は白衣のポケットからスマートフォンを取り出してどこかに電話を掛けた。
「もしもし、私。例の連中、しばらく泳がせたから全員片付けておいた…………ああ、今外にいるのは具合悪そうなやつ一人だけだ…………ああ、そこそこ腕が良さそうなのが中に入ってった……はいはい、きちんと働きますよ……」
電話を切ると同時に後ろに警備員たちが現れた。
「ご苦労さん、じゃあ、こいつらよろしく」
女はその場を警備員に任せると安綱を腰に差してスタスタと歩いていく。その足取りは普段のフラフラしたものではなくしっかりとしたものだった。
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