第四章・一「二人で」

 「一体………日に……何回……何回全力ダッシュしなきゃ‥ならねぇん……だ」


 頬を伝う汗をシャツで拭いながら愚痴る。


 俺達は桜坂千花の助太刀もありどうにか危機を脱し、カフェ『秘密基地』を目指していた。


 桜坂千花は大丈夫だろうか、いくら攻撃が当たると言っても心配だ。


 でも俺達は戦うことなんて、まして助太刀なんてできない


 いた所で邪魔にしかならない。


 「ごめんユニのせいで、剣次を巻き込んじゃって」


 背中の乗っかっている少女が今にも泣きそうな声で申し訳なさそうに話す。


 ダメだ俺が頑張らなくちゃ、この子に責任を感じさせたくない。


 「何言ってんだ……これくらい平気、それよりもう少しで『秘密基地』につくぜ」


 カフェ秘密基地は虹ヶ丘商店街の中にある。


 このペースで行けば後数分で到着するだろう。


 「そっか………、もう着いちゃうんだ」


 「何だか残念そうだな、せっかく助かるのに」


 ユニが腕に力を入れより俺の体に密着する、え?なにごと。


 「剣次とお別れなんだね、ユニ寂しいよ」


 ユニは俺の背中に顔をうずめ、消えそうな声でしゃべる。


 「寂しいか……そう言ってくれると俺も嬉しい、そこまでユニと仲良くなれたってことだから、それに今日一日俺も楽しかったぜ」


 「本当に? 炎天下の中こんなに走ることになったし、レイブンに追いかけられたし」


 「その代りのこんなに可愛い美少女とお買い物できたしな」


 「もう剣次おべっかは言わないの、それとね、この帽子大切にするね」


 彼女の言う帽子はショッピングモールで買った、白のキャスケット帽のことだろう。


 ここまで気にってくれるならもう少し高い物を買ってあげれば良かったと今に思う。


 「そんなに高い物じゃないぞ?」


 「大切なのは値段じゃないの、剣次がユニを思って買ってくれた、それが大切なの」


 「本当ここまで言ってくれるなら、もっといい奴買えば良かった」


 「だから………ユニ今日のこと絶対忘れない、この帽子も、クレープの味も、優しい変わり者の剣次のことも」


 少女の言葉に目頭めがしらが熱くなる。


 なんだか泣きそうだ、泣くな、耐えろ俺!


 「俺も忘れねぇさ、こんな奇妙で楽しい日のこと………やっぱ今の無し!」


 なに言ってんだ俺は、こんな恥ずかしこと口走って。


 「剣次照れてる、可愛い」


 「うっせいやい、ガキんちょが色気ずいてんじゃね」


 「ユニ今年で十八歳だしー、ガキんちょじゃないですー」


 「おい待てユニ、十八なのか?、 その見た目で俺と同い年?、 十二とかじゃなくて」


 「もしかして剣次ショック?」


 「ここに来てとんでもない新事実を暴露しやがったな、てか十八歳なのに一人称『ユニ』ってどうよ」


 「ユニはユニなの!」


 「そんなものなのか?」


 良かった、シミっぽい雰囲気はどうにか払拭できた。


 しかしこの時間が後少しで終わると寂しく思う、その気持ちは俺も同じだ。


 だが銃士隊マスケディアーズに預けることは彼女にとって一番の安全策、しかたないことだ。


 夕暮れをバッグに立つ町が見えて来る、『秘密基地』まで後少しだ。


 足を更に早める、後少しだ。


 「『影の檻ブラックプリズン』」


 「一体なんなんだ!」


 少し前まで視界には夕映えの町が広がっていた、しかし今視界に映ってるいるのは暗闇。


 「レイブンに追いつかれてちゃったみたいだね」


 「それってあの千花って人やられちゃったてこと?」


 「多分そうだろうね」



 「随分手こずらせてくれたね、君達」



  暗闇の空間にカラスを彷彿とさせるマスクを付けた男が現れる。


 「レイブンお願い私は大人しくついて行くから、剣次に手を出さないで」


 俺の背中を降り、前に立つユニ、彼女を犠牲にするなんて論外だ、そんなことさせるかよ!


 「それはできない、剣次君はあまりにも厄介過ぎる、残念だが君はここで始末する」


 剣を構えたカラス男がこちらへ迫る。


 やべぇ避けねえと。


 気付いた時にはカラス男が目の前で剣を振りかぶっていた。


 「剣次危ない!」


 ブンッ!、風を切った剣が前髪にかすめた、しかし首はつながっている。


 俺が無事だったのはユニが押し飛ばしてくれたおかげだ。


 「剣次………それ」


 ユニがこちらを指差している、その顔は恐怖に染まっていた。


 なんだか横っ腹が痛む、痛みの発信源を見ると黒く鋭い物が伸びていた。


 バタン、足から力が抜け地面に倒れる、ダメだ! 痛くて仕方ない、何も考えられない。


 ーーーーー


 「ここまですれば十分か、さて帰ろうかユニコーン………聞いてないか」


 「剣次ねぇ、剣次ってば!、 起きて………お願い死なないで」


 ユニは剣次の揺すり目を覚まそうとする。


 剣次は痛みに耐えきれず、目を見開きしていた。


 「どうするかいユニコーン、と言うか君が契約して戦わないと二人とも生き残れないよ」


 幻想銃との契約、一度成立すれば死を迎えるまで消えることはない。


 それが意味することは、剣次を戦いの非日常に巻き込むことだった。


 ユニは剣次を戦いに巻き込みたくなかった。


 今までの人生で唯一自分に優しくしてくれた青年。


 確かにこの状況を打破できるかもしれない、しかし幻想銃と一度契約してしまうと、幻想銃が破壊されるか使い手が死ぬまで破棄できない。


 これからの彼の人生を大きく狂わせてしまう。


 そのことを彼女は何よりも恐れた。


 自分を助けてくれた大切な人が不幸な人生を送ることを。


 「…………ユニ」


 泣きじゃくるユニの頭に剣次は手をポンと置き撫でる。


 手は力なく地面につき、よろよろと立ち上がり、自分のシャツを裂き傷口に巻きつけ止血する。


 「ユニ……逃げろ」


 剣次は短い言葉を吐き捨てるように言い、ユニの前に立つ。


 「その不屈の精神……見込み以上だ」


 自分の目の前に立つ一番大切な人。


 弱々しくボロボロで今にも倒れてしまいそうなその立ち姿。


 腹部に巻いたシャツは自ら流れた血で真っ赤に染まり、痛々しいことこの上ない。



 その姿を目の当たりにしたユニ、彼女は決意した。



 「剣次ごめん、ユニも戦う、一緒に戦うよ!、 もう剣次を一人にさせない!」



 ユニは短い手を剣次の腰に回し抱きしめる。


 一人では行かせない、自分もついて行くそう言わんばかりに。



 「そっか……そりゃ頼もしいな……二人でアイツを倒そうぜ!」



 「『我はユニコーン、主の剣となり共に戦場を駆けよう、ここに誓いをたてん』」


 ユニと剣次の姿を光が包み、詠唱が終わるとその光が弾けぶ。

 

 そこには剣次の姿しかなかった。


 いいや、剣次の手には一振りの剣が握られていた。


 特に装飾が施それているわけではない、無骨ぶこつな銀剣。


 この銀剣こそがユニ、幻想銃ユニコーン・セカンドなのだ。


 『行こう剣次、勝つのはユニ達だよ』


 「勝ってまた二人でどこかに行こうぜ」


 『うん!』

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