第三章・ニ「カラスの強襲者」

 「カラス男!、 クソっ逃げるぞ」


 ユニの手を引き来た道を戻る。


 せっかくここまで来たのに、あいつに捕まったら、何もかもが終っちまう!


 「無意味だやめたまえ」


 何でだよ、さっきまで進行方向の反対側に立っていたカラス男、だがアイツは今俺達の目の前に立っている。


 「あれはレイブンの幻想銃『デュラハン』の能力だよ、デュラハンは使い手に物理無視と影化の力を付与できるんだ」


 なるほどな、病院で壁をすり抜けて現れたのも幻想銃の能力だったのか。


 「大人しく彼女をこちらに渡しなさい、そうすれば命までは取らない」


 あくまで穏便に済ませようってか、しかしな………


 後を振り返ると俺のシャツを握りしめた白髪の少女いた。


 顔は恐怖で真っ青、こりゃダメだ逃げるわけにはいかない。


 「それは無理だね、お前みたいな不審者に絶対渡すかよ」


 全身の震えが止まらない、カラス男の迫力にビビっている証拠だ。


 さてどうするか、また消火器でも投げつけるか、残念なことに今回は何もない。


 「その勇気は讃えよう、しかし私と君の戦力差は歴然、残念だったね」


 一歩一歩ゆっくりと近づいてくる、考えろ、今の俺に何ができる、どうしたらアイツを退けられる。


 「ありがとう、ユニを楽しませてくれて」


 カラス男は俺の体をすり抜けた、後を見るとユニがいない!


 「待てやこの野郎っ!」


 カラス男の腕の中にユニはいた、俺はとっさに拳を握りカラス男目掛けて突出すも意味はなかった。


 煙でも殴っているかのように、突き出した拳がカラス男の体をすり抜ける。


 「それでは失礼するよ」


 振り返るカラス男、このままだとユニが連れていかれる。


 それだけはどうにかして防がないと。 


 「逃がすかよ!」


 無意味と分かっていても拳を突き出した続ける。


 今俺にできることはこれくらいしかない。


 ここで諦めたら彼女ユニはまた一人ぼっちの部屋に逆戻りだ、だから


 「諦めるかよ! てめぇこそ手引きやがれ!」


 「もう満足だろ」


 息も上がって、握っていた拳も次第に力を失い拳が解ける。


 カラス男の顔を狙っていた拳は徐々に下がって行き拳もどんどん失速していく‥‥今何かに触れたぞ


 先程の位置にもう一度手を突っ込み触れた物を掴み引っ張る。


 「あれ………ユニ?」


 俺が引っ張り出したのは白髪の少女ユニだった。


 「よくわかんねぇけど、今がチャンスだ!」


 ユニを抱え反対方向へ一目散に逃げる。


 次捕まったらそれこそ本当にお終いだ。 


 「なかなかの豪運を持っているようだが、それもここまでだ」


 カラス男はまた煙のように俺達の前に現れた。


 放たれた蹴りが俺の顔を直撃し地面に転がる。


 「クソガァ!」


 立上り反撃に出るも俺の拳は奴をすり抜けるばかりで効果がない。


 第二の蹴りをもらい再び地面を転がる。 


 まずい何も打開策が思いつかない。


 「やめて! これ以上剣次を傷つけないで」


 俺とカラス男の間に割って入った人物がいた。


 白髪に同色のキャスケット帽を被った少女、幻想銃『ユニコーンセカンド』だ。


 小さい身体を思いっきり広げ俺を守ろうとする。


 あぁ情けねぇ、守る筈が守らて、それも身をていして。


 「ユニコーンがこちらに来れば彼にこれ以上危害を加えない、約束しよう」


 「………わかった、レイブンについていく」


 惨めさが胸の奥底からこみ上げてくる。


 「ありがとう剣次、さようなら」


 夕焼けをバッグに立つユニ、その姿はとても淡く美しいかった。


 しかし彼女の表情はぎこちなかった。


 それもそうだ、また一人ぼっちの部屋に逆戻りなんだから。


 彼女が過ぎっていくのを俺は呆然と眺めていた。


 もう俺にはどうにもできない、抗うだけの力も残っていない。


 ユニはレイブンの前に立つ。


 このまま二人は消えてしまうのだろう、そうなれば本当に俺にはどうしようもない。


 ………でも


 「………やっぱ諦められねぇ」


 立上りカラス男を睨みつける。


 目の前で誰が不幸になるのは我慢できない。


 「お願い剣次も立たないで、ユニのために頑張らないで」 


 「無理な話しだね、俺は諦めが悪いんでね」


 体は痛む、恐怖は以前消えない、だが心はまだ負けてない。


 「剣次うしろ!」


 ゴッツン!何か硬いものが俺の頭に激突する、落ちていたそれを拾いあげる。


 「拳銃?」




 

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