第一章・一「逃亡のユニコーン」
ある町の片隅、そこは十年ほど前からマフィアの支配下にある。
「おはようユニコーン、朝食を持ってきたよ」
部屋のドアが開かれ、そこから一人の男が現れる。
黒いハットに黒いロングコート、顔はペストマスクで覆われていて、その姿は死神かカラスを連想させる。
両手でおぼんを持ち、その上の皿にはベーコンエッグとパンが盛り付けられている。
「……………」
話しかけられた白髪の少女は何も反応示さない。
朝食の乗ったトレイはテーブルの上に置かれる。
「まだ眠気眼かい?、髪もボサボサだ」
カラス男は何気ない会話を打ち出す。
「うるさい、早く出て行って」
白髪の少女ユニコーンはカラス男の話しにぶっきらぼうに答える。
「ユニはパパとママに会いたい……、ここから出たい、出してレイブン」
ユニコーンは今にも泣き出しそうになり、カラス男に訴える。
「ごめんよ、それはできないんだ………」
ユニコーンはこの部屋に何年も軟禁されている。
それも物心ついた時からずっとこの部屋にいた。
自分の両親の顔も知らない。
だからこそ彼女は自分の両親のことを知りたい。
そして甘えたかった。
「大体どうしてユニを閉じ込めるの!、 ユニは一体何なの」
「それは……、君はこの部屋から出れば狙われる、君はいずれ世界を救う鍵なんだ」
とうとう我慢の限界が迎え少女の大きな瞳から大粒の涙が流れる。
「それじゃそろそろ行くよ」
レイブンが部屋を後にして、ユニは一頻り泣いた後気がついた。
いつも外側からかけられる鍵なのだが 部屋の鍵がかかっていないことに
「今なら外に出れるかも……でも」
確かに今なら外に出れる。
しかし外に出ても両親に会えるとは限らないし、ましてや両親が生きているかすらわからない。
それにレイブンいわくはユニはがこの部屋を出れば何者かに狙われるらしい。
下手をすれば今よりも状況が悪化するかもしれない。
だが彼女は行動を起こさずにいられなかった。
どうしても両親に会いたいそして、甘えたい。
何年間も心の奥底で閉じ込めていた思いを止めることはできなかった。
ユニはドアを開け、外の世界へと踏み出す。
ーーーーー
「所で城島君、就職したい企業の決まったかしら?」
「えっえ、まぁぼちぼち」
俺の正面に座るメガネをかけた妙齢の女性教師。
突き刺さるような鋭い視線が半端なく怖い。
「夏休み期間中に応募前職場見学に必ず行っておいてくださいね」
「了……了解でーす」
「って言ってもよ、そう簡単に決められないんだよ」
教室を出てドアを閉め数歩進んだ所で愚痴る。
就職は人生の中でも大きなイベントの一つだと思う。
それを簡単には決めらられない、でも決めないといけない、困ったな。
このまま廊下で立往生しても仕方ないので一旦クラスに戻る。
クラスには数人の生徒がたむろしていた、スマホで何かを見ているもの、友達と楽しげに談笑するもの、化粧をするもの様々だ。
俺は早々と荷物をまとめ教室を後にする。
「………暑ちい」
後のドアに目をむける、クーラーの効いた教室に戻ろうか考える。
でもせっかくの自由な放課後を教室でスマホをいじって無駄にしたくない。
「行くか」
意を決し教室を後にした。
廊下の先に進み、階段を降りる、少し歩けば下駄箱が見えてきた。
下駄箱で上靴から外靴へと履き替え、校外へ出る。
「廊下より暑いじゃん」
当たり前だが外は廊下よりも格段に暑い。
後戻りはできない。
俺は自由な放課後を謳歌したい、そのためには炎天下の中を歩かなければならない。
今日は七月の三十一日、七月最後の日、学校の課外の最終日。
俺は進学ではなく就職をする、そう来年には社会人になる。
昔からどうにも学校が好きになれかった。
友達がいないわけではない、多分。
勉強は少し苦手な気もするが、それは理由じゃないとはっきり自分自身わかっていた。
息苦しさを感じ始めたのは中学の頃だったような気がする。
生き苦しさの理由は俺にもわからない、でも生き苦しい。
それを今の今まで引きずっている感じだ。
だからこそ学校に通う以外の選択肢を選びたい。
でも何がしたいか全く決まってない。
そんなこんなで課外も今日で最終日。
難しことは夏休みの後にでも考えよう、そうしよう、うん。
ん?
「あの子一体何してるんだろう?」
いつも前を通る公園、小さな滑り台、ブランコとベンチそれだけしか置いてない単祖な作り。
人が使っているところ見たことがない。
そのベンチに一人の少女が座っていた。
真っ白で長い髪、十二歳くらいに見える見た目、顔は少女らしさ、幼さが残る印象を与える、美少女と言うには十分な顔立ち、まつ毛は長く大きな瞳をしている。
ただ服装は少し違和感があった。
病院で患者が着るような病衣に似ている服、形はワンピースに近い。
彼女はうつむいていた。
どうしてだろう、この暑さでバテてしまったのだろうか?
だったら放って行くわけにいかないしな、少し話かけてるか。
「君大丈夫、この暑いなか日光カンカン照りのベンチに座って、熱中症になるよ?」
白髪の少女に優しい声音で話かけるも返事が帰ってこない。
ますます心配になり、しゃがんで少女の顔を除こもうとした時だった。
バタン、鈍い音を立て少女がベンチから滑り落ちた。
急いで白髪の少女を抱き起こす。
少女は肩をゆらし小さく呼吸をする。
顔には汗をじんわりとかいていた。
「これ………熱中症か?」
とにかく病院に連れていかないと。
救急車を呼ぶか? いや最寄りの病院までならこの子を担いで走ったほうが速い、なら
病院を目指して白髪の少女を背中に乗せ走り出す。
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