逃亡犯編 その① 僻地ラブホの姉弟

そのホテルの名は『ホテル シーサイド』


バブル期丸出しのハロゲンのネオン。

いつの時代のセンスの産物なのかホテルの外観はピンクで物悲しく褪せている。どちらかと言えばサーモンピンクだ。


このホテルの敷地は100坪と少し。


僻地ならではに広めにとってある。


が、駐車場は雑草が生い茂り元々分かりづらかった駐車のスペースの区分けが判別不能になっている。


『姉貴、今日草取りは?』

僕は言った。


『今日は曇ってるからやめとこ。』

窓辺のソファでタバコを吹かした姉の朱里しゅりが言った。


小林凪、小林朱里、9つ違いの姉弟きょうだいである。


僕から見て、25になるこの姉はただの面倒くさがりなのだが本人曰く『合理主義』なのだそうだ。


どうせまた散らかすのだから片付けない。


どうせ汚すのだから洗わない。


姉の信条の一部である。


この姉に養われている二歳の姪のあんずが不憫でならない。

 


姉は去年、通算四度目の出戻りをした。


つまり25にして×が4つついている。


姉は身内の僕から見ても美人の部類だ。


体型はモデルのようなそれではないが、どちかと言えばグラビアアイドルの様な「適度にだらしなく男受けする感じ」である。


姉は自分の武器を自覚しており、いつも胸を強調するタイトな服しか着ない。


そんな姉が実は中卒である。

厳密に言えば中学は義務教育だから留年もクソもないからよかったものの、通学と言うものをしなくなったのは小6からである。


曰く『将来の夢が専業主婦なのに進学する意味がわからない』のだそうだ。

その夢は幾度となく頓挫しているのだが。


しかし姉の生活能力と言うか潜在能力と言うか、それはすごいもので子供が生まれたけど旦那と言う稼ぎ手がおらず収入がない状態に陥った時も『仕方ないなー』で始まり『あーだるかった』の一言で終わり、なんとン千万を作って見せた。


『シングルマザーの相互支援専門マッチングアプリ』を立ち上げ、打ち上げ花火よろしく一気に流行らせ早々に撤退したのだった。


なにかと恐ろしい姉である。

姉の概要は以上。


僕はと言うと。


一言で言えば異常なシスコンである。


病的とも言える。


それは幼少期からで物心ついた時には姉としか風呂に入らず、姉からしか食事を受け取らず、姉としか手を繋がなかったらしい。


我ながら気持ち悪い子供である。


思春期になった頃に同級生から自慰の存在を知った。


いわゆるとして登場するのは勿論毎回姉だった。


別に姉の巨乳が好きとかではない気がする。


生き物としての姉が好きなのだ。と主張しておく。



そんな我々姉弟はこのくたびれた潰れかけの日本海に面しているだけが取り柄のラブホテルに二人住み込み働いている。


両親は既に他界している。


ここは、姉が競売で落札したのだが、詳細はまた後述。


ここが自殺志願者御用達であり『ホテル』とネットクチコミなどで揶揄されていることだけは物語の円滑な進行のために添えておく。

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