第三十三話 誤魔化してみた。
アリンちゃんを呼び止めると、彼女は怪訝そうな顔つきで振り返った。
「……なんですか?」
ど、どうしようかな。
折角パーティーも組んだ仲だし、ガード対象からも除外してるんだし、フレンドになりたいんだけどなぁ。駄目かなぁ。
い、いや、アリンちゃんだってレベル82の私と仲良くしてた方が絶対良いと思うんだよなぁ。そりゃあまだ攻略の事とか全然分かんないけど、戦闘面では力になれるし? 何なら私、アリンちゃんのためならいくらでも寄生プレイとか言うのオッケーだし。素材だって貢いでもいいよ? けっこう良さ気なものいっぱい持ってるから、きっと役に立つと思うんだよなぁ。あ、でもアリンちゃん的にはそう言うのどうなんだろう? もしかしたら「私は貢いで欲しくてアンズさんとフレンドになったわけじゃありません」とか言わないかな? 言いそうだなぁ。そういうところも潔くて格好良くて可愛いけれど、もうちょっと私に甘えて欲しいよね。と言うよりこの娘、すごく可愛くて守ってあげたくなるオーラ全開だから、私以外にも貢ぎたいっていうプレイヤーがたくさんいるんじゃないかな? 今日がログイン初日だったからたまたま私と仲良くしてくれただけで、ここでフレンド登録しておかないと二度と私と関わってくれない可能性まであるよね。さぁ、困ったぞ。いや、困るも何もフレンド登録すればいいだけの話なんだけど、大丈夫かな? アリンちゃんに「フレンド登録したい」って言ったら、こ、告白してると勘違いされないかな? そして内心で「はっ、身の程知らずの陰キャ女が」とか思われちゃったりしないかな? い、いや、アリンちゃんは優しいからそんな風には思わないはず。きっと明るく笑って「いいですよ。フレンドになりましょう」と快諾してくれて、内心で「はっ、陰キャ臭がくせぇくせぇ」と思ってたり――って、やっぱり内心で馬鹿にされてるじゃないか。違う違う、きっとアリンちゃんは――。
「……あの、もう行ってもいいですか?」
「――へ? あ、え……いや、あの……ね? ふひ」
内心での早口な独り言が長くなりすぎて、痺れを切らしちゃったのかアリンちゃんが問いかけてきた。しまった、これで余計にフレンドに誘いにくくなってしまった。どうしよう。
「ああ、そうだアンズさん」
「へ、え? 何でござんしょう?」
「私とフレンドになってくれませんか?」
「……えぇぇっ! いいの?」
「はい」
――プレイヤー名アリンからフレンド申請が届いています。受理しますか? YES/NO
「やっぱりやーめた」なんて言わせない為に、私は即座にYESを選択してアリンちゃんをフレンド登録する。
や、やった。今日だけでフレンドが四人もっ! すごい、私。ゲーム内の時間でも、一月で百人はフレンドできるんじゃないかな。い、いや、別にそこまで欲しいわけじゃないど。ま、まぁ本気出せばそう言う事もできるよーって話でね。うひひ。
「ふふ。私とフレンド登録したくらいでそんなに喜んでもらえて嬉しいです。では、今日はこれで」
「あっ! わ、私も手伝おうか?」
折角フレンドになったんだし協力しようと思って提案したんだけど、アリンちゃんは首を横に振った。
「いえ、パロン草原でアンズさんと組んだらほとんど経験値が貰えなくなると思うので。『夜目』スキルを取得するだけならそれでもいいんですが、レベル上げもしておきたいので一人で行ってきます」
「そ、そっか……」
そう言えば、レベルに開きがあったら貰える経験値が減少するんだっけ? 黒羽さんが言ってたような。じゃあもしかして、アリンちゃんがもう少しレベル上げるまで、しばらくはパーティー組めないのかな? ちょっと悲しいかも。
「……アンズさん」
少し落ち込んだ私に、アリンちゃんが近づいてきて笑いかけてきてくれた。
「今日、私はこのゲームをやる上で目標ができました。それはレベルをたくさん上げて、アンズさんの足を引っ張らないくらい強くなって、また、二人であの巨人に挑むという目標です」
「――アリンちゃん」
「だからその時が来たら、一緒に戦って下さい。もちろん、あの巨人と戦う以外の時も機会があればパーティーは組みましょう……約束ですよ?」
差し出された掌を私も恐る恐る両手を伸ばして掴む。小さくて柔らかくて相変わらず可愛らしい掌だ。
守らなきゃ。
次に彼女と一緒にあの巨人に挑むときは、絶対に死に戻りなんてさせない。ううん、あの巨人だけじゃない。
私が彼女とパーティーを組むときは、絶対に死に戻りなんてさせないんだから。私が守って見せるんだから。
「……あの、いい加減すりすりやめてもらえますか?」
心の中で決意を固めながらアリンちゃんの掌をさりげなくなでなでしていた私は、引き
いや、ね? えーと……。
「……例のダンジョンを出て、未だゲーム内で一日。さぁ、私の攻略はここからだっ!」
「あの、全然誤魔化せていませんからね? そんな打ち切り漫画の最後の一コマみたいな台詞言っても、何も誤魔化せてないですからね?」
アンズの新たなる冒険にご期待ください!! ――とか、そんな感じで。
とにかくこの日から、私の実質的なゲームにおけるクロニクルが始まったのだった。
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