第十一話 チュートリアルを受けてみた。
どうも、人間としての自信を喪失気味の
広場での一件後、今は一人寂しく街を歩いています。これから私はどこに行けばいいんでしょうか。迷子です。そう、人生の迷子です。
「あっ! おい、誰かっ! そこのひったくりを止めてくれっ!」
とぼとぼと歩いていると、そんな声が背後からかかった。
――チュートリアル『クエスト:ひったくりに攻撃しよう』が開始されます。スキップも可能です。参加しますか? YES/NO
同時に女性的な機械音とそんなコメントが流れて、私は即座にYESを選ぶ。
――所持している武器を構えて下さい。
その声に従い、木の棒を構える。
見れば周囲の初期装備プレイヤーたちも、戸惑いながらもそれぞれ武器を構えだした。きっとたくさんの人がこのクエストに参加したんだ。
まぁ、チュートリアルだから大抵の人は受けるのかな?
「おらっ! 邪魔だ、どけっ!」
ひったくり犯らしい大柄な男が、通行人や初期装備のプレイヤーたちを突き飛ばしながらこちらへと走ってくる。
「こ、これがこのゲームのチュートリアルかっ! よ、よしっ!」
男の人が、木でできた剣を振りかざしてひったくり犯に挑んでいった。
ひったくり犯は立ち止まって迎え撃ち、男の人に何回か叩かれた後に再び逃走を開始する。
それを別のプレイヤーとも何度か繰り返して、いよいよ私のところへ迫って来た。
が、頑丈なひったくり犯だなぁ。
――魔剣士は剣技を使った攻撃と魔法を使った攻撃が可能です。
――プレイヤー名アンズに技スキルがないため、魔法スキルのみ使用可能です。
――『火炎魔法LV.5』『氷水魔法LV.3』『土木魔法LV.2』『風雷魔法LV.4』『回復魔法LV.10』のうち、攻撃が可能なスキルを選択してください。
さっそく木の棒でひったくり犯を殴りつけようとしたら、そんなメッセージが一気に流れ込んでくる。
え? そんな場合?
けれど言われた通り、『回復魔法』以外の魔法スキルを選択する……『回復魔法』を選択したらどうなるのかな?
――『回復魔法LV.10』では攻撃できません。もう一度選び直してください。
す、すみません。
仕方なく、『火炎魔法LV.5』を選択する。その間も、ひったくり犯は無駄に機敏な無駄のない無駄な動きをして律義に待ってくれている。なんか申し訳ない感じ……。
――『火炎魔法LV.5』が選択されました。使用する魔法を選択してください。
『火炎魔法LV.5』
・ファイヤー・ボール(単体) 消費MP:7
・ファイヤー・バースト(単体) 消費MP:15
・ファイヤー・ストーム(全体) 消費MP:30
・ファイヤー・ウォール(防御) 消費MP:50
・フレイム・アロー(全体) 消費MP:70
・フレイム・ウェーブ(全体) 消費MP:100
・フレイム・ストリーム(単体) 消費MP:150
・フレイム・ウォール(防御) 消費MP:200
・紅蓮地獄(全体) 消費MP:300
・火、猛る神の怒り(単体) 消費MP:450
どうしよう、何かいっぱいあるんだけど。
えーと、相手はAIとは言え人型だし、あんまり強いのは駄目だよね。
ここは『ファイヤー・ボール』を選択しよう。
――『ファイヤー・ボール』が選択されました。木の棒の先端を相手に向けて下さい。
言われた通り、相手に木の棒の先端を向けた。
――スキル名を唱えて下さい。
「え? ふぁ、『ファイヤー・ボール』……」
恥ずかしかったけれど指示された通りに唱えたら、思ってたより三倍デカい大きな火の球が棒から飛び出て、ひったくり犯の顔面に直撃した。
「え、なにあの魔法……」
「あれ『ファイヤー・ボール』か? もしかして賢さにステータス偏ってんのかな? 極振りってやつ?」
「――にしても、序盤で出せる威力じゃないだろ……」
何やら周囲のプレイヤーたちがひそひそと呟いているけれどそれどころじゃない。
だって大きな火の球を喰らっておいて、ひったくり犯はぴんぴんしてるんだもん。ちょっと顔はすすけているけれど。
これは、追撃が必要ですかね?
――チュートリアル『クエスト:ひったくり犯を攻撃しよう』をクリアしました。チュートリアルを終了します。
「……へ?」
再び杖を構え直した私に、無情にも女性の機械音が告げた。
そしてひったくり犯は、別のプレイヤー目掛けて駆けていく……なんだか物足りない。
――魔法を使うにはMPが必要です。また、魔法の威力はステータスの賢さに影響を受けます。覚えておきましょう。
は、はい。
――クエスト報酬として2000ジニーを獲得しました。
――クエスト報酬として初級ポーション×3を獲得しました。
――アイテムポーチがいっぱいです。アイテムを入れ替えますか? YES/NO
え、ここでお金貰うんだ。
そして夢にまで見たポーション……けど初級か。多分私のHPじゃあまり役に立たないだろうから今はいらないかな。
少し悩んでNOを選択する。
――初級ポーションを受け取りませんでした。
「ふぅ、これで完全に終わったのかな? にしても……今のが本当のチュートリアルかぁ」
何だか私のイメージしてたのとはちょっと違ったけれど、まぁ高レベル帯のダンジョンにいきなり飛ばされるよりかはまともなのかな?
「ねぇ、君っ! すごい『ファイヤー・ボール』だったね? 良かったら俺のとこのギルドに来ない?」
「――へっ?」
「なんだ、お前? その娘は俺が先にギルドに誘うおうと目を付けてたんだぞ。引っ込めよ」
「はい?」
「いやいやいや。二人ともさっさとそのお嬢さんから離れたまえ。彼女のような才能ある幼女は、我がギルドにこそふさわしい」
「え、へ? な、なに?」
チュートリアルが終わった瞬間、何故か明らかに初期装備ではないプレイヤーたちが私を取り囲んで「ギルド、ギルド」言い出した。
ギルドってたしか、パーティーの大きいバージョンだったような気がする。何人かの集団からなる組織とかそんな感じ。
けど、どうして私なんかを誘うのだろうか。それもこんなにも熱心に。
「ねぇ、君もブレイダって名前のプレイヤーは知ってるでしょ? 前回イベント50位以内だった彼が、俺のギルドを率いてんだよね」
「ぶ、ぶれい……」
いや、知らないよ? イベントがあったことも、そんな人も知らないよ。むしろいきなり馴れ馴れしいあなたが
「へっ、ブレイダってオガミにpvpでコテンパンにされたんだろう? 大したことないな」
「なっ! そ、それとこれとは……」
「それよりさぁ、俺んとこのギルドにおいでよ。ゲーム自体初心者っぽいし、優しく教えてあげるよ。へへへ」
pvpはたしか、プレイヤー同士で戦う事だったはずだ。そっか、ブレイダさんはオガミさんに負けちゃったんだ……どうでもいいし、どっちも知らないけれど。
そんなことよりもなんかこの人たち怖いな。強引だし、笑ってるけど目が嫌な感じ。
まるでこっちを無理やり丸め込もうとしているようだ。
「あ、あの、わ、私、急いでいるのでっ!」
取りあえず、こういう人たちには関わらないのが一番だ。そう思って踵を返すも、どの方向もプレイヤーに囲まれていて動けない。
どうしよう……ぶっとばしてもいいのかな?
「別にもう少しいいじゃないか。なーに、僕のギルドに入れば、彼らのようなならず者から君を守ってあげられる。さぁ、僕のギルドに――」
「――ちっ、目障りだなぁ……おいてめぇら、さっきからガキ相手に何してやがる」
この状況に混乱して我を忘れて拳を握りしめた私の耳に、そんな乱暴な言葉が聞こえた。
けれど粗雑な口調の割に、その声は涼し気であり中性的で、不思議と耳に馴染んで心地がいい。
「げぇっ! お、オガミ……」
私を取り囲んでいたプレイヤーの一人が、声のした方を見て目を見開いた。けど「げぇっ!」って……本当にそんな反応する人いるんだ。こんな状況にもかかわらず、思わず「ふひっ」と笑ってしまった。
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