第九話 第一街人に発見されてみた。
「まぶ……しぃ」
引き戸を開け放って外に出ると、痛いくらいの太陽の日差しで目が眩む。
やっぱりダンジョンの暗闇に慣れた目には、この光は毒だよね。そう言えば、家に引きこもった後に外出るとこんな感じにいつもなるよ。
こまめに外には出なきゃね。
「さて、ここはどこなのかな?」
辺りを見渡していると、背後の岩でできた引き戸が自動的にしまって音を立てる。
振り返るとそこには大きな像の台座があるだけで、ダンジョンの入口なんて影も形も見当たらない。あれ? どうして?
「え? な、なんで……開かない」
私が出てきたところを開けようとしても、ピクリとも動かない。隙間も一切なくなっていて、ついさっき実際に出てきたんじゃなければ、ここが入り口だなんて信じられないはずだ。
どうやらこのダンジョンは、本来なら条件を満たさないと入れない特別仕様みたい。今すぐに戻るのは無理なのだと分かった。
「……うーん、まぁいっか」
あそこは一応調べつくしたので、別に戻る必要もない。いずれ正規の手段で訪れることもあるだろう。
「さてと、まずはここがどこなのかを知らなくちゃ」
改めて私が出てきた台座に乗っている像を見る。
台座だけで私よりもずっと大きくて、乗っている像は鎧姿の騎士が
「えーと、なになに? 『勇壮なる者 エフェア』か。この人、エフェアっていうんだ。ふーん」
この人が何をした人かは知らないけど、どうしてこの人の像の下にあんな化け物たちが暮らしていたんだろう。ちょっと意味が分からないや。もしかしてみんなこの人のペットだったのかな?
「――おいっ! 君、ここは一般人は立ち入り禁止だよっ!」
ぼんやりと像を眺めていたら、憲兵姿のおじさんが小走りで駆けてきた。
ひどく険しいその顔つきは、どうやら私に対して怒っているらしい。
「あ、ご、ごめんなさいっ! わ、わたしがどこ、ここだが……」
久しぶりに――と言うよりゲーム内で初めて人と話したことによって、私の脳は異常をきたしたようだ。いきなり怒られたことも相まって、自分でも何を言ってるのか分からない。
「……なんだい、迷子か? 子どもでもここに入っちゃいけないよ」
「す、すみません」
「ほら、出口はこっちだよ」
私の目の前に立った憲兵姿のおじさん、憲兵おじさんは私を見下ろして少し表情を和らげてくれた。
どうやらこの身長差に、私がまだ小さい子どもだと勘違いしてくれたみたいだ。良かったような悲しいような……。
「あの、ここはどこなんですか?」
「うん? ここはベルンダの街にある伯爵城の庭だよ。別名『古の城跡地』なんて言われているけどね」
「ベルンダの街……どこかで聞いたような」
「なんだい、自分のいる街も知らないのかい? もしかして『
「えっ! ここ始まりの街の一つなんですか?」
「そうだよ。君たち『来訪者』は真っ先にこの街かエルザードの街に降り立つって聞いているよ。実際、君もこの世界に来たばかりだろう?」
憲兵おじさんは私の初期装備をちらりと見やり、確認するように問いかけてきた。しかしそんなおじさんに、私は吹き出しそうになるのを堪えるのに必死で答えられない。
だってまさか、私は一応始まりの街にログインできていたなんて……なんて皮肉。
ちょっとログインする位置がずれていただけで、こんなに攻略に出遅れるとは。いやぁ、ゲームは何があるか分からないなぁ。
「ほら、ここが出口だよ。ここから左に行って突き当りを右に曲がれば第一広場に出る。そこに君と同じように世界に降り立ったばかりの『来訪者』たちがたくさんいるはずだ。行ってみるといい」
「はい、ありがとうございます」
取りあえず当てもないのでおじさんに言われた通り、第一広場なるところに行ってみた――秒で後悔した。
「ひ、人多いなぁ……」
目の前にはすごい人の数。
広場自体すごく広いので密度的にはそれほどでもないのかもしれない。けれどこの多さは、軽く三千人は超えているんじゃないかな?
「こりゃあ初期ログイン地点が複数必要なわけだよ。だからといってあんなダンジョンに飛ばされるのは勘弁してほしかったけど……」
サービス開始当初の知識を引っ張り出してみれば、たしかこのゲームは、二つの街からログイン地点がランダムに選ばれたはず。
並び合ったベルンダの街とエルザードの街の第一から第四まである広場。そのいずれかが最初のログイン地点になるのだ。
……まぁそんな知識は、変な場所に初ログインしたせいで、すっかりと忘れ去っていたけどねっ。
「――あれ? でもゲームが始まったらログアウトしたセーフティエリア内にログインするはず。こんなに広場にログアウト地点を選ぶ人がいるのかな?」
サービスが開始されてから現実で約三週間。ゲーム内では一ヵ月だ。それだけの日数が経っていれば、いくらなんでも広場以外にログイン場所を決める人も多そうだけど。次の街とかさ。
あるいはここに一斉に死に戻っただけ? いや、それにしたってこの人数……。
もしや、ベルンダの街の第一広場に何かあるのだろうか? ログインするのに都合のいい何かが……。
少し立ち止まって考えこんでしまった。
その辺りにいる人に話を聞けば早いのだろうけど、
少し自嘲を浮かべた私の背後に足音が生まれ、
「――ねぇ、そこのお嬢さん。さっきから立ち止まってどうしたの?」
「ぃひっ?」
コミュ力5の
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