ほうかご探偵奇譚 -探偵たちの休日-

【旧】鹿田甘太郎

おじいさんの手紙

おじいさんの手紙 前編

 聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥、という言葉がある。

 知らないことを恥ずかしがったり知った被ったりせず、素直に聞いて学ぶべきだという教えだ。父の宗一郎は頭の固い人種なので、麻里の出したクイズがまったく解けなくても、ヒントに聞く耳持たず三日三晩悩み抜いたりする。そのこだわりは否定しない。僕も謎解きの最中に解法のヒントを出されるのは苦手だ。自分の力で切り拓いてこそ、道は広く感じるものだろう。そう感じるのは他の人も同じかもしれない。

 だから誰かのやることに口出しをするつもりはなかったけど……さすがに声をかけたほうがいいだろうか。数瞬悩み、待つことにしてから一〇分。ようやくチャットの三人目の参加者「はるこ」が現れた。


はるこ:すみませのせくなりました

はるこ:あれ

はるこ:なにかへんですね

ゴロウ:ん のあとに母音を続けて入れるとナ行になるから、そういうときはNキーを二回押すといいよ

はるこ:なるほど

はるこ:やってみます


 はるこというのは、同級生の小日向春瑚のこと。小日向さんとは高校入学前に知り合い、訳あって小日向さんの兄・小日向倫也の行方をともに追った仲だ。

 チャットで連絡を取り合う段階になって、小日向さんはチャットを使ったことがないということが明らかになった。中学の授業でやらないものかと思ったけど、学校による格差は多少あるらしい。文太のほうは手慣れたもので、先ほどまで「文鳥」という名前のユーザーと週明けの課題について話していたところだった。


はるこ:すみませんおせくなりました

はるこ:おおほんとうです

はるこ:ありがとうごあざいますしゅうごろだん

ゴロウ:落ち着いて。誤字が結構あるよ

文鳥:よし、これで全員揃ったな


 相談を持ちかけてきた本人、御子柴文太が切り出す。


文鳥:二人に来てもらったのは他でもない

文鳥:名探偵の二人にぜひとも知恵を拝借したい

はるこ:はい

ゴロウ:うん

はるこ:おはなしはかねがねうかがってます

ゴロウ:名探偵ってのは買い被りすぎだと思うけどね

ゴロウ:僕らがお世辞で動くと思ったら大間違いだよ

はるこ:なんでもどうぞ

文鳥:なんかコントみたいだな


 時間差があるから仕方がない。

 電話ができればよかったのだけど、三人同時となると難しい。もちろん最良の手段は、直接会ってついでに喫茶「シャーロック」にでも立ち寄ってウインナーコーヒーに舌鼓を打ちつつ相談を承ることだけど、世間の目は冷ややかなものだ。

 最大の理由は、巷で流行っている感染症にある。国外のどこかで発生したとされるウイルスがインバウンドによって日本に入国し、感染拡大の一路にあるとニュースでは伝えられている。致死率はまだインフルエンザよりも低いそうだけど、治療法が確立されていないこともあり、世の中はパンデミック寸前の状態にあると聞く。

 僕たちの住んでいる地域では、まだウイルスの存在が確認されていない。しかし数年前に史上最年少で市長となった鶴見市長の危機管理能力は高く、週末は外出を控えるよう自粛要請が発表された。健全でパシフィストな善良市民ならこの発令を遵守すべきだろう。

 そういうわけで文太から『相談がある』と持ちかけられたものの、外出せずに小日向さんとも話を共有しなければならないとなると、こうしてチャットツールを使うしかなかった。


ゴロウ:それで、相談というのは一体何についてだろう

ゴロウ:明後日の学年一斉英語テストなら、僕は力になれそうにないよ

はるこ:こんとですか

文鳥:テストじゃない。後輩からの相談だ

ゴロウ:小日向さんの反応がワンテンポ遅れているね

ゴロウ:もう少しゆっくりにしようか

はるこ:てすとではないんですね

はるこ:あわわすみません

文鳥:すまん。それじゃあ、まとめて説明するか

ゴロウ:ほい、よろしく

文鳥:大前提として、依頼したいのは手紙の解読だ


 手紙の解読ね。懐かしい響きだ。

 つい先日、僕らはある人物の残した手紙の内容を説き明かしたばかりで、関わりのあった文太がこうして依頼してくるのは肯ける。今どき暗号式の手紙なんて珍しいなと思ったけど、まさか短期間でもう一度巡り合うことになるとは。


文鳥:二つ下の後輩の祖父が一ヶ月ほど前に亡くなった。流行の病気ではなかったそうだ

ゴロウ:今流行の

ゴロウ:ああごめん、一旦打つのをやめよう。よろしく

文鳥:悪いな

文鳥:祖父は寡黙かつ厳格な人物で、病床に伏せるとより口数が少なくなったそうだ。後輩は元々怖がっていたそうで話す機会はなかったと聞いているが、半年前に入院してからは見舞いでもほとんど会話がなかったらしい。そんな祖父が亡くなる前に、後輩に対して手紙を残していたことがわかった

ゴロウ:寡黙な祖父からの手紙、ね

はるこ:ごしゅうしょうさまです

ゴロウ:それを僕たちに解読してほしいということかな

文鳥:ああ、そういうことだ

はるこ:おまかせください

はるこ:わたしとしゅうごろうさんがいればひゃくにんりきです

ゴロウ:となるとまずは手紙の内容が知りたいね

文鳥:ああ、ちょっと待ってくれ。今から入力する


 ちょっと待つ。待ちながら状況を考える。

 二つ下の後輩だから、今は中学二年生で、年齢は十三、四歳。その祖父だから六、七十歳程度と推測する。その歳で亡くなるのは少し早い気がするのと、半年前に入院していたという事実と病床という言葉から、大病を患ったことが推測できる。見舞いができるのでおそらく感染症ではない。肺がん、白血病、脳梗塞……医学専攻ではないので、罹患後半年で死に至る病と言われても絞り込むのは難しいけど、一旦捨て置いてもいいだろう。

 そこまで考えたところで、文太のメッセージが飛んできた。


文鳥:大阪に住んでいた頃の話をしよう。大阪ではよく新世界に出かけていたものだ。切手を同封しておいた。気になったらいろいろと調べてみるといい。クラブの友だちに自慢しても構わない。名古屋も悪くない街だった。つるかめという喫茶店によくお世話になっていた

ゴロウ:なっていた

ゴロウ:それで全部?

文鳥:む

文鳥:全部入れたつもりだったが

はるこ:なっていた

ゴロウ:文字数制限に引っかかったのかもね

文鳥:ああ、なるほど

文鳥:なら、続きからもう一度打つ。少し待ってくれ


 わたしいつまでも待つわ。

 後輩さんの祖父は大阪、名古屋に住んでいたのだろうか。遺言として残した手紙の内容としては確かに違和感があるような気がする。この手紙は他の手紙の続きではないか、と考えたところで、残りの文章が送られてきた。


文鳥:から、行くことがあれば訪ねてみてほしい。煙草がなくなってきたから、そろそろ出かけるよ。ねずみがやってきたから、話はおしまい。

文鳥:以上だ。手紙はここで終わっていた


 文太の文章をコピーして、テキストエディタにまとめる。


『大阪に住んでいた頃の話をしよう。大阪ではよく新世界に出かけていたものだ。切手を同封しておいた。気になったらいろいろと調べてみるといい。クラブの友だちに自慢しても構わない。名古屋も悪くない街だった。つるかめという喫茶店によくお世話になっていたから、行くことがあれば訪ねてみてほしい。煙草がなくなってきたから、そろそろ出かけるよ。ねずみがやってきたから、話はおしまい。』


 支離滅裂な手紙、というのが最初の感想だ。

 大阪の新世界――串カツが有名だっけ――の話をしたかと思えば、名古屋の話になり、つるかめという馴染みの喫茶店の名前を出したかと思えば、煙草がなくなったから出かけるという。最後はねずみが登場してしまった。……なんだこれは?


はるこ:ねずみというのはどうわみたいですね


 最後の疑問には、小日向さんが答えを出す。


ゴロウ:どうわ? 童話のことかな

はるこ:はいぐりむどうわでねずみといえばおはなしのさいごにでてくるはつかねずみのことです

ゴロウ:ひらがなの洪水

ゴロウ:入力してエンターキーを押す前に、スペースキーを押してみるといいよ

はるこ:すぺーすきー

はるこ:これでしょうか

はるこ:何も起こりません

はるこ:阿寒路になりました凄いですね

はるこ:あ漢字です

文鳥:Mキーの右に句読点もあるから、使うと読みやすくなるぞ

はるこ:、。

はるこ:わあ、本当です。ありがとうございます


 PC講座を切り上げて、話を戻す。小日向さんがわたわたしている間にグリム童話のハツカネズミについて調べてみた。


ゴロウ:ハツカネズミというのは、グリム童話の結句なんだね。読み聞かせが終わって、さあご飯にしようというときの合図のような感じかな

はるこ:ハツカネズミというものがありまして

はるこ:はい、それです

ゴロウ:お爺さんは紙芝居師だとか、読み聞かせが得意だったりしたのかな

文鳥:いや、そういう話は聞いていない

文鳥:昔軍人だったとは聞いている

ゴロウ:軍人かあ

ゴロウ:軍を辞めたあとに保育園に務めたみたいな話は?

文鳥:途中はわからんが、最後に働いていたのは航空会社だったらしい


 ふむ。航空会社務めとは珍しい気がする。軍人から航空……という響きだけで考えると操縦士だったのだろうか。疑問符は小日向さんが引き継いだ。


はるこ:操縦士さんだったんでしょうか

文鳥:いや、空港の管制塔勤務だったそうだ

ゴロウ:ということは管制官か

ゴロウ:ぜひとも話を聞いてみたかったね

文鳥:なりたいのか、管制官に

ゴロウ:いや、そういうわけじゃないけど

はるこ:周吾郎さんは管制官になりたいんでしょうか

ゴロウ:時間差!

はるこ:あああすみません

ゴロウ:ともかく、管制官だったならわざわざ手紙を童話調にしないだろうね

ゴロウ:つまり

文鳥:こういう書き方をしたのには、意味があると

ゴロウ:そうなるね

はるこ:わかりました


 ずいぶんと結論が早い。何か思うところでもあったんだろうか。それとも実家の老舗菓子屋『小日向軒』の常連客だったとか?


はるこ:ありがとうございます

文鳥:もう解読できたのか

ゴロウ:知っている人だったの?

はるこ:あああすみません

はるこ:わかりました、というのは、そういう意味ではなく

文鳥:ふむ

はるこ:承りました

はるこ:の、わかりました、です

ゴロウ:ああなるほど

ゴロウ:早とちりだったね、ごめん

文鳥:やはりチャットは慣れないな

文鳥:月曜日に直接話すか?

はるこ:ああいえ、大丈夫です

ゴロウ:まあ、問題ないと思うよ

はるこ:続きをやりましょう


 何にせよ家でずっと本を読むか、妹に勝てない格闘ゲームをだらだら遊ぶよりは、こうして知恵を絞っていた方が気が紛れる。謎が早く解決できるならそれに越したことはない。

 それに、糸口は見えかけている気がする。


文鳥:すまない、助かる

ゴロウ:まずは後輩さんとお爺さんの関係だね

ゴロウ:会話がなかったということは、仲が悪かったのかな

文鳥:どっちかというと、後輩のほうから話しかける機会がなかったそうだ

文鳥:祖父のほうは元より寡黙だから、向こうから話しかけてくることもほとんどなかったらしい

はるこ:お見舞いには行っていたんですよね

文鳥:ああ

はるこ:であれば嫌っていたわけではなさそうです

ゴロウ:そうだね。仲が悪くて会話が少ないのなら、わざわざ見舞いについて行く理由がない。小さな子どもならまだしも、中学生となれば多感な時期だ

文鳥:学校帰りに親に連れられて、というのはあるかもしれないがな

文鳥:まあ、不仲説は一旦捨てていいと思う

ゴロウ:あい


 仲が良いというエピソードがあれば手紙を残す理由もわかるのだけど、そもそも接点があまりなかったのなら、良し悪しの程度を判断するのは難しい。不確かな情報を素に憶測するよりは、手紙を読み解いた方が確実だ。


ゴロウ:お爺さんは大阪や名古屋に住んでいたことがあるのかな

文鳥:不思議なことに、ないそうなんだ

文鳥:九州から出たことがないらしい


 ……となると、やはりこれはただの手紙ではない。


はるこ:九州から出たことがないのに、大阪のことを知っているんですね

ゴロウ:まあテレビや新聞で知ってもおかしくはないけど

ゴロウ:住んだことがないのに、住んでいたと書くのはおかしいね

文鳥:後輩の祖母は小さい頃からの幼なじみだったそうだが、祖父は本州に踏み入ったこともないはずだと聞く

ゴロウ:新世界に出かけたのも、喫茶つるかめがおすすめなのも、嘘っぱちというわけだ

はるこ:鶴亀ってお店は実在するんでしょうか

ゴロウ:僕が調べてみるよ


 別ウインドウで『名古屋 喫茶 つるかめ』を検索する。うん、似た名前のラーメン屋や居酒屋はヒットするけど、それらしい喫茶店は見つからない。テレビで見かけた店の名前を、さも行ったことがあるように書き残した……というのは無理があるかもしれない。

 それにしても、つるかめか。実在しない店名であるのなら、つるかめという言葉はどこから思いついたものだろう?

 ネットの海を彷徨いながら、チャットを続ける。


ゴロウ:つるかめという喫茶店は、名古屋にはないみたいだね

文鳥:隠語かと思ったが、違うかな

ゴロウ:行くことがあれば、というのに隠語で店名は教えないと思うよ

はるこ:確かにそうですね

文鳥:じゃあこのつるかめってのは、言い方は悪いが出任せか

ゴロウ:そうなる

ゴロウ:問題は出任せの内容を、なぜ手紙に残したかってことだ

文鳥:いたずらだろうか

ゴロウ:いたずらね

ゴロウ:普段からあまり話さないのに、いたずらをするのかな

はるこ:恥ずかしかったのかもしれません

文鳥:ほう

はるこ:お爺さんはお孫さんのことをかわいがっていたけど、恥ずかしかったから、手紙にしたとか、そういうこともあるかと思います

ゴロウ:根拠はないけど、筋は通るね

文鳥:寡黙だったのは、恥ずかしかったからという可能性もあるか

ゴロウ:お婆さんに確認してみたらどうだろう。もしかしたらお爺さんは後輩さんの前でだけ寡黙だったのかもしれない。恥ずかしいのか威厳のためかわからないけど、確かめる価値はあると思う

文鳥:わかった。聞いてみる

ゴロウ:よろしく!

はるこ:びっくりマーク

はるこ:どうやって入力するんでしょうか

ゴロウ:ああ

ゴロウ:Shiftキーを押したまま、数字の1を押すといいよ

はるこ:!!!!!!!!!!できました

ゴロウ:驚き桃の木山椒の木

はるこ:ありがとうございます!!!!!!!!!!!!!!!!!

はるこ:いっぱい入力されちゃいますね!!!!!!!!!!

ゴロウ:数字の1は押したままじゃなくてもいいからね


 チャットビギナーの小日向さんはさておき、手紙の意味を考えてみる。

 大阪や名古屋への遍歴がない以上、手紙の内容は昔の思い出をつらつらと綴ったものではなく、手紙と称して何かしらのギミックを盛り込んだテキストであると解釈したほうがいい。亡くなる前に残したと聞いたけど、タイミングまではわからない。文太に聞いてみよう。

 お爺さんは孫に対して伝えたいことがあったけど、子ども、つまり後輩さんの親を介して伝えることはしなかった。亡くなったあとに手紙が出てきたということは、すぐには見つからなかったわけだ。隠していたのかもしれない。もし隠していたのなら……読まれないほうが良かったのだろうか。それとも恥ずかしがりだったから、出しそびれてしまっただけなのか。本人に尋ねるのが確実だけど、亡くなってしまった以上は推測するしかない。あとは……。


文鳥:待たせたな


 他にも確認したいことはある気がするけど、その前に文太から返事がきた。


文鳥:どうも、祖父は友人と話すときは明るく快活で、お茶目な人物だったらしい。後輩も驚いたそうだ

ゴロウ:ということは、お孫さんに対しては恥ずかしがっていた説が強いかな

はるこ:ですね

文鳥:恥ずかしがっていたかはわからないが、本性を隠していたのは確かだな

ゴロウ:うん、そっちのほうが語弊がないね


 茶目っ気のあるお爺さんなら、手紙を暗号ライクにして孫に届ける――ということをしそうではある。確実な情報ではないにしろ、推理は段々と固まってきた。小日向さんも同じ考えのようで、発言の頻度が高くなっている。


はるこ:お爺さんは、なぜ手紙を残したんでしょうか

はるこ:伝えたいことがあるなら、直接でもいいはず

ゴロウ:恥ずかしがった、というのが現状では妥当なラインだね

文鳥:手紙であることに意味があるのかもな。文字として残すことに

ゴロウ:手紙を残すことで、お爺さんは何を伝えようとしたか

はるこ:もし私がお爺さんだったなら

はるこ:自分が病気なので

はるこ:孫には元気で生きてほしいって言うと思います!

文鳥:ふむ

はるこ:仲が良いにしろ悪いにしろ、お孫さんを想う気持ちはあると思いますから

ゴロウ:至極真っ当な意見だね

ゴロウ:お爺さんとお孫さんはなかなか会う機会がなかったのかな?

文鳥:それは聞いている

文鳥:お見舞いに行くまでは、二~三年会ってなかったそうだ

はるこ:そんなに!

ゴロウ:ずいぶんと顔を合わせないものなんだね

はるこ:管制官だからでしょうか

文鳥:わからん。住んでいる場所が遠いと、そういうこともあるかもしれない

ゴロウ:うん、それを否定はしない

ゴロウ:あ

ゴロウ:肝心なことを忘れていたんだけど、後輩さんって男子?

文鳥:ああ。そこは重要じゃないかと思ったから、特に言わなかったが


 そうだろうか。

 そういうところにこそ、重要な手がかりがあるものではないかと、僕は考える。


ゴロウ:手紙がどのタイミングで書かれたかってわかる?

ゴロウ:数年前とか、亡くなる直前とか

文鳥:手紙には日付が記されていた

文鳥:そこから推測するに、見舞いに行った直後だそうだ

ゴロウ:なるほど。ちなみに見舞いに行った回数は?

文鳥:一回だけだな。あとは部活の都合が合わなかったらしい

はるこ:お爺さんは煙草を座れて異端でしょうか

ゴロウ:異端

はるこ:ああすみません

はるこ:吸われていたんでしょうか、です

文鳥:いや、飲酒と喫煙は一切しなかったそうだ

ゴロウ:やっぱり煙草も意図的に選ばれた言葉だね

はるこ:やっぱり?


 お、小日向さんが何も教えてないのにクエスチョンマークを入力できるようになっている。さすがに学習能力が高い。

 というか、感づかれてしまった。うーん、僕もまだまだ甘い。


はるこ:何かわかったんでしょうか、周吾郎さん

ゴロウ:どうして

はるこ:やっぱりという言葉は

はるこ:何かしら思いついていたから浮かぶ言葉です

はるこ:周吾郎さんの頭のなかには、何かしらの推理が展開されていると推測します

文鳥:本当か、周吾郎

はるこ:教えてください!!!

ゴロウ:落ち着きたまえ君たち


 とはいえ、嘘ではない。憶測の域は出ないけれど、こうではないか、という段階までは来ている。あとは……そうだな、『実物』さえあれば。


ゴロウ:文太、実際の手紙を写真に撮って、ここに貼ることはできる?

文鳥:ああ、ちょっと待ってくれ

はるこ:はる

はるこ:テープで貼るんですか?

ゴロウ:写真をアップロードすることを、貼るって言ったりするんだ

はるこ:アップロード

はるこ:また知らない言葉です


 グリム童話の結句を知っていてアップロードを知らないことがあるか?


ゴロウ:そのうち教えるよ

文鳥:待たせたな


 そう断って、文太が画像をアップロードする。おお、サイズがデカい。文太のやつ、携帯で撮ったものを画像調整もせずにアップロードしやがったな。大して手間はかからないけど、縮小しないと全体像が見えない。

 さて――――


『大阪に住んでいた頃の話をしよう。

 大阪ではよく新世界に出かけていたものだ。

 切手を同封しておいた。気になったらいろいろと調べてみるといい。

 クラブの友だちに自慢しても構わない。

 名古屋も悪くない街だった。

 つるかめという喫茶店によくお世話になっていたから、行くことがあれば訪ねてみてほしい。

 煙草がなくなってきたから、そろそろ出かけるよ。

 ねずみがやってきたから、話はおしまい。』


 ……うん、問題ないだろう。


ゴロウ:ありがとう、文太。これで十分だ

文鳥:本当か

はるこ:謎が解けたんですね!

ゴロウ:もしかしてこうじゃないか、ってのは考えていたから

ゴロウ:あと、小日向さんの言葉もヒントになった。僕はどうしてもネガティブに考えてしまうから

はるこ:私のですか?

文鳥:どういうことだ、周吾郎

はるこ:説明をお願いします

ゴロウ:落ち着きたまえ君たち

ゴロウ:これは、そうだね

ゴロウ:僕の考えたところでは、単なる言葉遊びだと思うんだ

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