第62話 レメイとの戦い
アミューズメントパークから戻って来た私は駅で紅凛たちと別れ、暗くなりかけた道を歩いていた。
「楽しかった」
エヴァレットがそう言ってくれることが一番うれしい。
私も今日は本当に楽しかった。ほとんど沈んでしまっている陽の光によって長く伸びた私の影がそのまま逃げてしまえと言っているようにも思える。
本心からすればそうしたい気持ちが一杯だ。このままずっとエヴァレットと一緒に居たい。
でも、それができないのも分かっている。その時、寂しく揺れる私の影に重なる影があった。
気配も何も感じなかったので、気持ち悪いなと思い後ろを見ると、
「みーつーけーたー」
そこに居たのは世里の顔をし、世里の服を着たレメイだった。
どうしてこんな所にレメイがと困惑する私にレメイは世里の声で優しく話しかけてくる。
「探したわよ。あの時殺し損ねてからずっとあなたの事が気になって夜も眠れなかったのよ。でも、こうして出会えたのは運命。あなたを殺せって事ね」
何がレメイの琴線に触れてしまったか分からないのだけど、全く嬉しくない告白をされてしまった。
私はレメイからの告白ではなく、紅凛からの返事が欲しいだけなのに。
「あなたの首から血が噴き出る所を想像すると私の体が熱くなってくるの。その手、その足がピクピクッて動きながら血を噴き出す様は――あぁ、もう我慢できない」
私の体から血が噴き出す様子を想像して恍惚の表情を浮かべるレメイだけど、そんな想像は止めて欲しい。
知らない人って訳ではないけど、あまり仲良くもない人が私の事を想像しているのを思うと少し気持ち悪い。
「さて、もう結界も張ってあるしそろそろ襲っても良いかしら? 早くあなたが血を吹き出す姿が見たいのよ」
わざわざ襲うのを宣言してから攻撃してくるって事は私が抵抗する所も楽しむつもりなんでしょう。
レメイの事を過小評価している訳ではないのだけど、こんな所でやられている訳にはいかない。明日には旗持さんとの戦いもあるんだ。
だけど、レメイ相手に一筋縄ではいかないのも分かっている。簡単に勝てるような相手ならすでに削除をしてしまっているはずだから。
レメイの攻撃はリミッターを外した肉体による攻撃だ。それに対抗するには私もエヴァレットに体を操ってもらうのが一番だ。
「何度もやると危険」
そんな事言われてもレメイの動きに付いて行くにはエヴァレットに操ってもらうしかない。
「本当に危険」
渋るエヴァレットだけど、旗持さんの時には操ってもらわないと言うのを条件に何とか納得してくれた。
『
心に漬物石でも乗っかったような重さが襲ってくる。それと同時に心を鷲掴みされているような締め付けられる感覚も同時に感じる。
前に使った時も心に負担がかかっていたのは感じたけれど、それは魔法を使い終わった後の事だったはずだ。
それが今度は最初から心に負担が掛かっている。これは魔法の使い過ぎって事でしょうか。
心の重み、痛みに耐えながらも私の体はエヴァレットの操作によってレメイの動きに付いて行けている。
逆に言えば魔法を使わなければ私の肉体のみでレメイに付いて行く事なんて無理だ。
「もう止めた方が良い」
えっ!? もう?? まだ魔法を使ってから数分しか経ってないのに?
「礼華が壊れちゃう」
エヴァレットの気遣いは嬉しいのだけど、私の体を心配するのならどうやれば早くレメイを倒せるのか考えて欲しい。
「でも……」
どうやらエヴァレットの意志だけでは魔法が解けないようだ。
前の時はエヴァレットが自分の意思で解いていたのだけど、それだけ浸食が進んでいるって事なんでしょうか。
それにここで魔法を解いてしまったら壊れるどころか殺されてしまう。体がレメイの動きに付いていけている今しかチャンスがないのだ。
「アハハハハッ! どうしたんだい? もっと抵抗してくれないと興奮しないじゃないか」
クッ! レメイの方はまだまだ余裕そう。前の時より時間が経っているから支配もほとんど完璧になっているんでしょう。
相手の事を気にせず戦えるのを羨ましいと思う反面、そうなっちゃ駄目なんだと心を強く持つ。
激しくなるレメイの攻撃を何とかかわしていたのだけど、それもだんだん難しくなってきた。
いくらエヴァレットの意志だけでは魔法が解けないと言っても支配が完璧でない私では徐々に効果は薄くなってしまう。
私はここで決断をしなくてはいけない。
このままエヴァレットに私の体を操作してもらってメイを倒す事にするのか、エヴァレットの操作を止めてもらって普通の状態でレメイを倒すかのどちらかだ。
このまま体を操作してもらった場合、レメイに対抗できるかもできるかもしれないけれど、私の心が壊れてしまう可能性がある。
対して操作を止めた場合、私の心は守られるかもしれないけれどレメイに対して打つ手がなくなってしまうかもしれない。
どうする? どうすればいい?
私が悩んでいる間にも魔法の効果は徐々に減っていき、動きが鈍くなってくる。
私の動きが鈍くなった隙を突き、レメイの攻撃が私の体に確実にヒットしてくる。
もう悩んでいる暇なんてない。
「魔法を解除する」
エヴァレットとしては私の心を壊してまで体を操作したくないみたい。
だけどエヴァレット意志だけでは解除ができないのは私が一番良く分かっている。
エヴァレットの気持ちはすごく嬉しい。私がエヴァレットの立場だったら一刻も早く魔法を解いているでしょう。
でも、今魔法を解除する事はできない。
私の心はもう決まった。このままエヴァレットに操作をして貰って一刻も早くレメイを倒す事に決めた。
「ダメ、解除する」
エヴァレットが何を言おうと私の心はもう決まっているし、私が同意しなければエヴァレットは私を操作するしかないのだ。
私はこのままエヴァレットに操作を任せてレメイを倒す! 私の心が壊れるのが先かレメイを倒すのが先か勝負してみる。
「礼華。お願い。解除させて」
ゴメン。エヴァレット。それはできない。私はレメイを倒すと決めたのだから。
だからエヴァレットには私の心が完全に壊れてしまう前にレメイを倒してもらいたい。
「礼華の馬鹿!」
私が心を決めた事によりエヴァレットはレメイを倒す事だけに集中し始めると渡すの動きが明らかに変わった。
それまで徐々に落ちていたスピードが戻り、攻撃の威力も魔法を使い始めた状態にまで戻っている。
それと同時に私の心の負担がさっきとは比べ物にならないぐらい増している。
多分だけど、あの状態でもエヴァレットが私に負担がかからないようにしてくれていたのでしょう。
私が徹底的に戦うと決めた事でエヴァレットは私の心の事よりレメイを少しでも早く倒す事に集中したようだ。
それで良い。
エヴァレットにはレメイを倒す事だけに集中してもらいたい。
私の体が高速に動きながらも魔法を使っている。
支配の薄かった時には大した威力の魔法は使えなかったのだけど、今は普段と変わらない威力で魔法を使えている。
エヴァレットが魔法を使うたびに私の意識が飛びそうになる。レメイを倒してしまうまで私はこの意識を保っていられるのでしょうか。
あとどれぐらいでレメイを倒せるのだろう。あとどれぐらいで私は完全に支配されてしまうのだろう。
なんだか考える力もなくなってきた。これが支配されてしまうって事なんでしょう。
エヴァレットはこの戦いが終わったら私の体をどうするんでしょう。
できれば大切に使って欲しいな。そうだ。紅凛からの返事まだもらってないや。
もう良いか。上手く行ったとしても付き合う事になるのはエヴァレットって事になるんだし。
あぁ、もう……、考え……られなく……なって……きた。
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