第5話 優美さんと下校 「一部訂正」

 優美  「春樹くん今日一緒に帰れる?」


 授業が終わり、帰りのHRをしている最中に俺の元に優美さんからこんなLINEが来た。


 「おぉ〜坂本先輩ってグイグイ行く系なんだな」


 俺が携帯の画面を見てなんて返事をしようか固まっていると俺の友人である拓真がニヤニヤとしながら覗き込んでそんなことを言ってくる。


 「やっぱこれグイグイ来られてるよな……」


 「あぁ、もうこれはがっつりだな。獲物を狙うライオンって感じ。でもお前くらいの獲物ならここまでしなくたっていいのにな」

 ライオンて……まぁ例え方的には間違ってないか。てかなんだよ「お前くらいの獲物」って。俺のレベルどんだけ雑魚なの?


 「はいはい。所詮ラブコメで主人公の引き立て役になるラブコメモブですよ」


「ラブコメモブとか……まぁ確かにいい例えだな」

 拓真は苦笑いしながらも「確かに」とどこか納得した表情をしている。「確かに」じゃねーよ。せめて否定して欲しかったわ。

 俺は拓真とそんなやりとりをしていたら優美さんへの返信を忘れていたことに気づきすぐさまLINEした。


 春樹 「分かりました。じゃあ正門のところで待ってます」

 すると秒で既読がつき返信が返ってくる。


 優美 「了解! なんかこのやりとりカップルみたいだね……♡ なーんちゃって! じゃあ後でね!」


「……………」

 俺は優美さんからのLINEを見て思わず固まってしまう。いやこれくらいのLINE、別に友達とでもするし別に特別変わったことじゃないよな、美香ともしてたし……って何俺意識してんだよまじで。

 俺が頭を悩ましていると担任は話終わりHRはあっという間に終わった。そして俺は拓真に「じゃあな」と言って駐輪場から自分のチャリを出して正門に向かう。

 するとすでに優美さんは立って待っていた。その姿はまるで彫刻のように美しくて立ってるだけで絵になるのは流石だなと思う。

 俺が駆け足で向かうと優美さんは俺の方をみて笑顔で手を振ってくる。

 やめてそれやると周りの男子の視線がガチで殺しに来てる目なの……


 「優美さんの方が早かったんですね。待たせてすいません」

 

 「ううん。私も今ちょうど来たところだから。じゃあ帰ろっか」

 そして俺はチャリを押しながら優美さんと歩いて下校する。どうやら優美さんは見る感じ徒歩らしい。まぁ俺もチャリで行くほどの距離ではないんだけどなんか青春感あるじゃん?


「高校生活には慣れた?」

 優美さんは先輩っぽい質問をしてくる。まぁ確かに先輩なんですけども。

「いやぁ、まだ慣れませんね。なんか中学と違って自由度が高くてだらけちゃって」



「あははっ。春樹くんいつも眠そうだもんね」



「そうなんですよいつも眠くて……って、ん?」


「ん? どうかした?」


「い、いや……」 

 今「いつも」って言ったよな? てか昼休みの時もそうだったけど一体俺のことどうやって観察してるんだ……? これは怖いけど聞いてみるしかないか……


「あ、あの優美さんに質問なんですけど」


「なに? も、もしかしてスリーサイズとか……? 春樹くんもそうだよね年頃の男の子だもんね……えーっと」

 優美さんは頬を赤らめてもじもじしながらとんでもないことを言ってくる。


 「い、いや違いますから! てか言おうとしないでください聞くつもりありませんし!」

 俺が慌てて否定すると優美さんは何故か悲しそうな顔をして


 「私の身体には興味ないってこと……?」

 いや待て待て待て待て。どうやったらその反応になるんだよ?! てか普通にまだ同じ高校の人周りいるからね? 「うわこいつまじか」みたいな顔して見てる人とかいるからね?!


 「いやそう言うわけじゃなくて……あっ、もうなんて言えば……」

 俺が必死になって弁明しようとすると優美さんはクスクスと笑い出した。


 「冗談だよ冗談。もうそんな焦っちゃって可愛いんだから」


 「……っ。い、いや……もうやめてくださいよ」

 俺は恥ずかしさのあまり思わず顔を背ける。すると優美さんは「もう照れちゃって〜」と脇腹をツンツンしてきた。


 「それで質問って?」

 あぁそうだった。話が脱線しすぎて本題忘れてた……


 「あ、あの昼休みの時も言ってたんですけど、俺のこと「いつも」見てるって言ってたけど一体どう言うことなんですか……?」

 俺が優美さんの顔色を窺うように恐る恐る聞くと優美さんは普通のトーンで


 「どう言うこともなにも私の日課が春樹くんを観察することだからだよ?」

 …………why?


 「か、観察?」


「そう! 眠そうな春樹くんもやる気に満ちた春樹くんも少し楽しそうな春樹くんも全部その瞬間にしか見えない表情なんだよ?! そんなの逃せるわけなくない?! だから私は出来る限り常に春樹くんを眺めているのです!」


 「は、はぁ……」

 やっぱあかん奴だった〜……マジか優美さん。いや普通に考えたらこんな可愛くて綺麗な女の人にこんなこと言われたら嬉しいんだけどさ、度がすぎてるとちょっと怖いよね……


「だけどねこれからはもう観察じゃなくて実際に話せるから嬉しいんだ私」


 優美さんは楽しそうに話しながらもその言葉にはすごく重みがあるように感じた。

 多分、ずっと俺が美香を好きなのを気を遣って話さないようにしてたとかそういうのなんだろうな……


 「俺でよかったらいつでも話すんで観察なんかしないで話しかけてくださいね」

 俺はせめてもと思いありきたりな言葉を優美さんに言う。すると優美さんはとびっきりの笑顔で、


 「うんっ! これからは毎日話しかけるから覚悟してよね〜?」


「わかりました。期待しときます」

 俺は優美さんとのこんな他愛のないやりとりがどこか楽しいと感じていた。そしてその後もこんな話をしているとあっという間に家の前に着いた。


 「あ〜もうついちゃったかぁ……まだお話したかったなぁ」


 「またいつでも出来ますから」


 「むぅぅぅう。そう言う時は「俺も話したかったです!」って言うのが乙女心的には正解なんだぞ!」

 優美さんはハムスターのように頬を膨らませて俺の胸をツンツンと叩いてくる。そして俺の方をドアをが閉まるまで振り返りながら「じゃあまた明日ね〜!」と手を振って家に入って行った。

 

 「やっぱ優美さんってどこか掴めないんだよな……」

 俺はそんなことを一人呟きながら家に帰った。


 



 


 


 




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