引っ越しバイトがきつすぎた

アダムズアップル

初おろし

ブーン

タヌキのマークが目立つこのトラックには3人の男が乗っている。屈強な2人に囲まれて座っているのは今日が初日のアルバイトである。


「おい新入り、次はおろしだ。大物は俺らで行くから、適当に持てるもの持ってこいよ。」

「ハンケーは慎重にな。」

「は、ハンケー?」


ドライバーの男がチラッとこちらを見た。呆れたように言う。

「ハンガーケースだ。服運ぶやつ!」

助手席の男が付け足す。

「服以外も入ってる場合があるから、慎重にな。」

「は、はい。」


「えー、そこの筋を左で。右手に見えるはず。」

「おっけ。」

トラックが狭い路地に入っていく。

少し進むとやけに大きい家が見えてきた。かなりの金持ちの家だろうか。


ギギ カコ

到着のようだ。

「新入り!コーン立てとけ。それからゲンマとバケツ持ってこい!」

「はい!」


なかなかいい返事ができた気がした。


「せーの。」

先輩2人がドラム型洗濯機を運び始める。かなり重いのにすいすいと持っていく。


「おい新入り!ハンケー持ってこい!」

「はいぃ!」

少し声が裏返ってしまった。


荷台にある黄色いボックスを持ち上げる。意外に重い。服以外も入っているのだろう。


「持ってきました!」

「よし。中を開けてお客さんにどこにおけばいいか聞いてみろ。」

「はい。」

少し先輩との仲が良くなった気がする。ベテランになった気分でハンケーを開けた。


ピチャ

赤い液体が中から垂れてくる。

そして中には男性の生首がぶら下がっている。

「え…」

「どけ!!新入り!」

すぐさま先輩が雑巾を持って駆けてきた。床に付いた液体を拭うとハンケーを閉めた。


お客さんが訝しげに寄ってくる。

「どうされたのかしら?」

雑巾が赤く染まっているのに気づいたのか、一気に顔色を変えた。

「どういうことかしら!私はオプションで追加したはずよ!」

「す、すいません!積み上げ時に血抜きをするのを忘れてしまいました!すぐに責任者に連絡します!」

先輩がスマホ片手に家を出た。


「まったく…品質が大事だというのに。殺した直後に血抜きは当たり前でしょう。」

お客さんが一人で呟いている。

新入りにはどうしていいかわからない。とりあえずハンケーを一旦外に出すことにした。

すると隙間から血が漏れ出てきた。すぐに雑巾で拭こうとするが雑巾が見当たらない。

「余計なことすんじゃねぇ!」

先輩に怒鳴られた。

「す、すいません!」


はぁ…

引っ越しバイトって辛いなぁ



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