Q:FPSゲーマーの俺が異世界で水鉄砲合戦したらどうなりますか? A:相手は氏にます
剣とペン
ゲーム(スマホ)取られました
「おい、そっちに行ったぞ!」
「任せろ!」
広大な平原の中、残りは一人。今味方と撃ち合いをしている。小銃と狙撃銃を持った奴だ。
味方と撃ち合いながら、林の中へと逃げていく。今日の味方は優秀だ。作戦通り、しっかりと追い込んでくれた。
この林は背の高い草が生い茂っているため、見通しが悪い。こちらは近距離の武器しか持っていないので、気づかれずに近づくことは容易だろう。
不意打ちをするには絶好のチャンスだ。だが一つ、困った問題がある。
「弾がねぇ……」
弾がもう十発しかない。味方との銃撃戦でダメージを受けているとはいえ、この弾数では倒し切れないかもしれない。
それに、敵は俺の存在に気づいている可能性もある。だとすれば当然、挟み撃ちを警戒して隠密される可能性がある。
そうなると、非常に厄介だ。視界が悪い林の中で狙撃銃を持っている敵を見失うことは避けたい。
よって、動くなら奴が味方に気を向かせているであろう今しかない。
俺は味方に合図を送った後、銃を構え敵に突っ込んでいく。
動くと同時に、奴は俺に小銃を向け、発砲してきた。ちっ。やはり気づかれていたか。作戦を変更していて正解だったな。
俺はすかさず引き金を引き、鉛の弾を撃ち出した。
乾いた銃声が鳴り響き、弾丸が飛び交う。計十発の弾丸は全て命中。しかし、奴が地に伏すことはなかった。
弾が少なかったのもあるが、既に俺の位置が割れていたため、距離を取られてしまったのだ。近距離武器では、中距離の小銃に敵わない。
弾を全て撃ち尽くした後、敵の銃弾によって無残にも俺は倒れた。赤い鮮血が、体一面に広がる。
……ここまで計算通りだ。俺は囮だ。あのとき、味方に裏から回り込むよう合図を出しておいた。今、奴は俺を倒したことで気が緩んでいるだろう。
確かに、味方の存在は頭から離れていないとは思うが、奴も人間だ。決して、機械ではない。感情がある。勝ったときは嬉しいし、負けたときは悔しい。
俺と戦って苦戦の末に勝利した。この状況ならば、誰だって無意識のうちに一瞬の気持ちの緩みが発生する。
「勝って兜の緒を締めよ」とはよく言うが、それができる人間はそう多くはない。まぁ、偉そうに言っている俺もまだ完全にはできていないのだが。
すぐさま、奴の後ろから味方の銃声が聞こえ、奴は倒れた。
俺の眼前には、「You Win」の文字が表示される。やった……。勝ったぞ。
勝ったぁぁぁぁぁ!!
「よっしゃあ! 今シーズンもランク一位だ!」
スマホの画面の前で雄叫びをあげた少年--もとい俺、斎藤
「栄華? あんた、ゲームばかりしてないで、そろそろ学校に行った方がいいんじゃないの? それじゃ友達もできないわよ」
「……わかってるよ、母さん」
……もはや毎朝の恒例行事となった、母との面倒なやりとり。
うるさい。あんなところ、行ってたまるか。
簡単に説明しよう。俺は引っ越してきたんだが、転校初日にやらかした。
自己紹介で、自分の好きなFPSゲームのことを長々と話してしまったのだ。
そうしたら次の日から誰からも相手にされなくなった。以上。
何故あんなことをしてしまったのか、今でもずっと後悔している。
俺は生来、人と話すことが苦手なのに、どうして自分の得意分野の話になると途端に
俺の母には成績が安定していることを理由に不登校を許してもらっていたが、最近はあのように毎日口を出すようになってしまった。
ゲームの世界はものすごく楽しい。ただ覚えた知識を使うだけでは勝てない。臨機応変に対応する力が求められる。
俺は中学校に入って数ヶ月この世界に魅せられ、以後すっかり一員となってしまった。
最初こそ下手くそではあったが、今では毎シーズンランキング一位に輝くまでに成長した。こういった理由もあり、俺は今の環境がすごく気に入っている。
「栄華ー? ちょっと来てー?」
「何? 母さん」
母さんに呼ばれ、俺は階段を降りていく。俺がまともに話せる唯一の人だ。まさか、外に出ろと言うんじゃないだろうな。俺、死んじゃうよ?
「ちょっと、買い物に行ってきて頂戴。買うものは袋に入っている紙に書いてあるから」
嫌な予感が的中してしまった。
母は手に持った買い物袋を、笑顔で俺に渡してくる。
はぁ……。外でんのかよ。ゲームの続きをもう一戦、やりたかったとこだったんだけどなぁ。
「そんな陰険な顔しないの。ほら、早く行ってきて。それに、外に出た方がいろいろ楽しいわよ」
「はぁ……分かったよ、母さん」
この家に引き
渋々、買い物袋を受け取った。中を覗くと、ポイントカードと、現金が入っている。
……仕方がない。行くしかないか。
「じゃあ、行ってくるよ、母さん」
「気をつけてね、少しくらい寄り道してきてもいいのよ」
速攻で帰ってきます。
「はいはい……おっと」
大事な物を忘れていた。俺は二階に戻り、ある物を取ってから一階へと戻る。
「これこれ。やっぱ、大事に持ってないとな」
俺のスマホ。命の次に大事なものだ。これがないと、冗談抜きで死んでしまうかもしれん。
「よし、行くか」
俺はスマホを買い物袋の中に入れ、長い間自分の手で触れていないドアノブに手をかける。
扉が開くと同時に、隙間から太陽の光が目に差し込み、思わず瞳を閉じた。
最後に外に出たのはいつぶりだっただろうか。あまり覚えていないが、おそらくここに越してくる前だったと思う。
それほど、俺の外への興味は薄れていた。
「暑っつ……」
なんだこれ。暑すぎんだろ。ここ日本か?!
外界へと飛び出した最初の感想がこれ。なんせ今は八月。さらにお昼時の最も暑くなる時間帯である。
買い物に行かせるならもっと遅い時間帯でいいものを。
それにしても、人がいない。周りの住宅街を見渡してみても、人っ子一人いなかった。たしかに今日は暑いが、これほどいないものなのか?
「あっ……今日、平日だった」
忘れてた。
世の人は皆、学校や仕事だ。長い間引きこもり生活をしていたせいで、曜日感覚も狂っていた。
しかし、暑いな。今日の気温、見てなかったな。30度超えてるんじゃないか?
「早く買って帰ろう……」
こんなところにいては、暑さで焼け死んでしまう。幸い、スーパーは家から歩いて五分のところにある。
早く帰って引き籠りの続……ゲームの続きをやらないとな。
少し歩き、目的地が見えてきた。ここの町の中では小型のスーパーだが、食べ物は全てここで揃うので、意外と便利な場所だ。俺は小腹が空いたとき、いつもここで買っている。
自動ドアが開き、店に入る。
「うーん、涼しい!」
冷房が効いてるだけあって、やはり店内は涼しい。ここまで頑張って店にきた俺を迎え入れてくれるオアシスだ。母さんの言っていたことは、あながち間違いでもなかったのかもしれない。
「さーてと、買うものは……」
俺は母さんから渡された買い物リストを
ふむふむ……えーっと、にんじん、たまねぎ、お肉、じゃがいも……。
料理にあまり詳しくない俺でも、このラインナップを見れば大体の察しはつく。
そう、みんな大好き、カレーである。今日はランクを上げるのに必死で、お昼を拒否していた。夕食が豪勢だと、非常に助かる。
「さてと、今日の夕飯も分かったとこだし、さっさと買いますか」
俺が買い物をしようと一歩を踏み出そうとした、その時だった。
「うわっ!」
突然、俺は何者かにぶつかられた。突っ立っていた俺は衝撃に耐えられず、床に手をつく。
痛てて……。なんだいきなり。とりあえず、まずは相手先に謝らないと。ゲームの中でも現実の世界でも、礼儀は大事だからな。
「すみません、大丈夫です……か? って、あれ?」
辺りを見回しても、どこにも姿は見当たらず。俺が接触したであろう相手は、跡形もなく過ぎ去っていた。マナーの悪い奴だな、そっちから来たくせに。
堪忍袋の尾が切れそうだったが、ここは公共の場。文句を言っても当事者はいないし、逆に俺が迷惑扱いされるだけだろう。
なにより、俺は早く帰ってゲームがしたいのだ。こんなところで問題を起こしたくはない。
起き上がった俺に、近くにいたお客さんが、敵と必死に戦っているかのような表情で話しかけてきた。
「あんた、さっきのやつ、早く追った方がいいよ! 鞄、盗まれてるよ!」
「え……」
言われて自分の手を見てみると、先程しっかりと握っていた鞄が存在していない。俺は一度もそれを手から離した覚えはないから、えーっと、それはつまり……。
「あのやろう……っ!」
俺はお客さんの話を聞き終える前に店を飛び出した。おいおいおい。冗談じゃない。あの中には、お金だけじゃない。俺の大切なスマホが入ってるんだ。
先程も言ったが、あれがなきゃ、俺の命が尽きる。そういっても過言ではない。
俺は、スーパーの駐車場を見渡して、血眼になって奴を探した。
どこだ、どこだ……。まだ遠くには行ってないはず。
「あっ……見つけた!」
奴がいたのはスーパーの駐車場の奥に見える、小さな公園だ。隣には建物があり、日が差さず常に暗い。隠れるにはもってこいの場所だ。
だが……相手が悪かったな。こっちはFPSゲーマーだ。全体を広く見るのは得意なんだよ。
あの公園の柵はかなり高く、普通の人間が登れる高さではない。そして出入り口は一つのみ。そこを押さえてしまえば、簡単に捕まえることができる。
ずっと引き籠っていて体力がない俺が、買い物袋を取り返せるかどうかの話は別だが。
俺は急いで公園へ向かい、声をかけた。
「おい! 俺の鞄、返せ!」
「…………」
女の子だ。
煌びやかな、白の髪。ストレートに下ろしたそれは、肩までかかっている。瞳の色は右が黒、左が灰色。手には俺の鞄、服装は白と黒が混ざり合ったコートを着ている。全体的に、ダークな印象を受けた。
「おい、聞いてんのか?」
俺の問いに対して一つの返事もしてこない。それどころか、俺に背を向け、何か腕輪のようなものを操作し始めた。
ありゃ。これ完んっ全に無視されてますわ。俺がいくら嫌われてるからって、こんな仕打ちあります? 普通。
こうなったら、意地でも返してもらうまで。どうせ俺が出入り口を封鎖している限り、逃げられない。観念するんだな。
『システム起動。これより、転送を開始します』
「?!」
彼女が腕輪を空間にかざした途端、青く光るリングのようなものが生成されたのだ。
「なっ……なんだこれ?!」
何が起こってるんだ。信じられない。こんなものは、マンガだけの世界だと思っていた。情けないが、本当に開いた口が塞がらないのだ。
彼女は煌々とする輪っかの中へと吸い込まれていく。
しまった。呆けている場合ではない。開かれたリングは、もう閉じ始めている。本来ならばリスクを冒して行動するのは避けたいが、致し方ない。
「くそっ。待てっ!」
俺は中へと飛び込んでいった。
「うーん……ここは……どこだ?」
目を覚ますと、俺は建物の中にいた。建物といっても、かなりボロボロで、壁に穴は空いてるし、部屋の中も汚い。
まるで、俺がプレイしているFPSゲームの世界みたいだ。となると……ここは廃墟ステージということになるのか?
「あっ! そういえば、あいつは? どこ行って……」
俺が部屋に目を通すと、部屋の中の隅に目的の人物はいた。彼女は体育座りでうずくまっており、なんだか様子がおかしい。容態が芳しくないのだろうか。
そんな姿を見せられては、追ってきたこっちが申し訳なくなる。俺は彼女に声をかけた。
「あの……大丈夫ですか?」
具合が悪そうにしているのに、鞄のことを聞くのは俺としては少し気が引ける。あとにしよう。
彼女も俺に気付いたのか、手につけていた腕輪を操作し、文字を表示させる。
チャット機能まであるのか。便利だな。
ていうか、この子も俺と直接話したくないんだな。どんだけ嫌われてんだよ、俺。
暫くして、腕輪から青い光が出て、文字が表示された。
『敵に襲われています。助けて下さい』
「……え?」
彼女はそう言い、俺に小型の水鉄砲を差し出してくるのだった。
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