第83話 悪魔と話をするの。
悪魔に命を狙われたレイニィであったが、「希少世放神」として信者が五千人近くいることが判明し命拾いすることになった。
「とりあえず、今は見逃してやる。だが、これからも技術を発展させて、五千人分以上幸福度を下げるようであれば、かわいそうだが死んでもらうことになる」
「技術の発展は、幸福度を上げることにもなると思うの」
悪魔に睨まれ、脅しを掛けられても、レイニィは怯むことなく言い返した。
「確かに、技術の発展が幸福度の向上につながることもある。だが、人間は大抵その技術の使い方に失敗し、幸福度を下げてしまう。
その昔、大変技術が発展した時代もあった。
その古代文明は、界位を上げるため、幸福度を上げる装置を開発した。だが、その装置が暴走し、辺り一面の魔力を吸い尽してしまい、その古代文明は滅んでしまった」
「それが黒砂の島なの?」
「その通りだ。今残っているのは島だけだが、当時は大陸であったがな」
「そんなことがあったの――。あたしとしては、技術の発展が、戦争や公害、自然破壊や異常気象など、人々の不幸に繋がりかねないのは理解しているつもりなの。でも、技術が発展すれば豊かになるのも事実なの。不幸に繋がらないように発展させるべきだと思うの」
「それは難しい問題だな。君なら出来るのか?」
「自信はないの。でも、努力はするの」
そこまで言っておいて、「出来る」と言わず「努力する」と言ったレイニィに、悪魔は少し好意を持った。
「死にたくなければ努力を惜しまないことだな」
「でも、なぜ女神も貴方も界位を上げたがっているの? 元勇者はそれなりの理由があったの」
元勇者は、元の世界に戻るために界位を上げようとしていた。
「いくつか理由があるが、ひとつには、界位が低いことは、それだけでリスクが高くなるんだ」
「リスク? 何のことをいっているの?」
「界を繋ぐ穴が開くことがあるだろう。あれは上から下への一方通行だ。それを利用して、その界で処理できない廃棄物を、下の界に投棄する界もあるんだ」
「そんな非常識な世界があるの?! でも、その穴って、自分たちで開けられるものなの?」
「技術が発展すれば、開けることは出来なくても、開く場所を予想することはできる。待機していて、穴が開いた途端に何でもかんでも投げ込めばいいのだから、簡単なゴミ処理だ」
「押し付けられる方は堪ったものではないの――」
「実際に古代文明が発展した時代にそれが起こり、そのゴミを送り返すために、さっきも話した幸福度を上げる装置を開発し、無理矢理幸福度を上げて、界位を上げ、ゴミを送り返した。その途端、装置が暴走し、古代文明は滅んでしまった。階位も一気に五段階下がってしまった。だが、この場合、界位が極端に下がったことにより、ゴミを押し付けられることはなくなった」
「何とコメントしていいか困る話なの……」
「侵略者がやって来たこともあったな。相手は少人数だが、技術が発展した世界から来たから、撃退するのがそれは大変だった」
「でも、それって、上の階位に上がっても、その上がいるのだから同じことではないの? むしろ、より危険なものが来そうな気がするの」
「いや、上に行くほど倫理観も高くなっていくのでリスクは低くなっていく」
「へー。そうなの」
「そして、何より重要なのは、界位が上がるとその界のエネルギー総量が多くなる。それだけ豊かな暮らしができるということだ」
「えー、でもそれだと、豊かな暮らしができる界位が上の界程、幸福度が高くなりやすいの。界位の入れ替えなんて起きないんじゃないの?」
「必ずしも、豊かな暮らしが、幸福度が高いとは限らない。先ほどの技術の発展と一緒だ。倫理観が低い者が豊かな暮らしをしていても、周りを不幸にして、そのうち界位が下がってしまうのさ」
「なるほど、それが、上に行くほど倫理観が高いに繋がるの――」
「兎に角、そういうことだから、幸福度を下げないように気を付けろよ」
「それは気を付けるの。だけど、天気予報に関する技術の発展は譲れないの」
「天気予報?」
「あれ? 悪魔さん、天気予報を知らないの?! 天気予報とはですね。……」
悪魔はその後、夕方までレイニィの天気予報談義を聞く羽目になった。
こんなことがあっても、レイニィは今日も平常運転であった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます