第78話 水田地帯に行くの。

 レイニィは、元勇者の依頼により、黒砂によって魔力が枯渇してしまった田んぼを復活させるために、南部の水田地帯に行くことになった。


「お嬢様、本当なら俺が護衛に付くべきなのですが、なにぶん急なことで、予定のやり繰りが付かず、こんなどこの者かも知れぬ輩に護衛を任せることとなり、誠に申し訳ございません」

「アイス、いいの。行き帰りは熱気球だし、たいした危険はないの」


「ですが……」

「俺様が付いているから大丈夫だ!」


「アイスよ、心配するな。腐っても元勇者だ。腕っ節だけは誰にも負けることはない」

「エルダ様、その元勇者が本当にあてになるのですか? むしろ、お嬢様によからぬことを仕出かすのではないかと心配なのですが――」


「失礼な奴だな。こんなお子様に興味はない」

「何ですって! レイニィ様に魅力がないですって! なんて失礼な。この溢れんばかりの可愛らしさ、まさに天使じゃない。それがわからないなんて、あなたの目は節穴よ!」


 アイスとスノウィが元勇者に対して言いたい放題だ。

 元勇者が、勇者として活躍していた時代から随分と経つので、その活躍を知る者も少なくなり、若者からは敬意を払われることもなくなってきた。

 まあ、エルダは元から敬意など払っていなかったが――。


「はいはい。スノウィ、その辺にして、もう出発するの」


 出発前から賑やかなメンバーである。今回レイニィと一緒に行くのは、スノウィ、エルダ、元勇者の三人である。いつも護衛に付いていたアイスは、兄のドライの護衛の予定があり留守番となる。


「では、いってくるの」


 レイニィ達を乗せた気球は、海岸線沿いを南に向かう。

 岩礁が続く中、所々に湾が出来ていて、そこには砂浜も見える。大きな川が流れ込んでいる所では干潟になっていて、鳥達が群れをなしていた。小島が沢山浮かぶ所もあり、風光明媚で見ていても飽きることはなかった。


「この気球というのは凄いな。俺も欲しくなったぞ」

「浮くのは熱源を用意すればどうにかなるの。だけど、風魔法が使えないと、行く先が風任せになるの」


「ああ、そうか。俺、魔法が使えないからな――」

「あれ? 魔法が使えないの? 勇者なら光魔法とか使えて当たり前かと思ってたの」


「そんな、ファンタジーじゃないんだから。普通の人間が、魔法が使えるわけないだろ」

「十分にファンタジーな世界なの。それに、勇者は普通の人間とは違うの」


「勇者は普通の人間だよ。女神から加護をもらっているだけさ」

「そうなの?」


 夕方近くなって、眼下に田んぼが見え始める。


「ここからは西に向かってくれ」

「わかったの」


 気球は内陸に向けて飛んで行く。


「レイニィ様、周り一面田んぼですね」

「これ、全部に魔力を供給しなければならないの? とても無理なの」


「それについては、一つ考えがある」

「お前の考えをあてにしても大丈夫なのか? ろくなことにならない気がするぞ」

「エルダ、酷いな。まあ、任せておけ」


 そして、レイニィ達は一つの村に辿り着いた。


「おお、何が飛んで来たのかと思えば、これは、元勇者様」

「村長。魔力を供給してくれる人物を連れて来たぞ」


「本当ですか! それは助かります。今年はもう米作りは出来ないかと諦めていました」

「安心しろ。これでもう豊作間違いなしだ」


「人任せのくせに随分態度がでかいの」

「俺はお得意様だからな」


「元勇者様、そのお嬢様は」

「この子はレイニィ。この子が魔力を供給してくれる」


「この子がですか? そちらのエルフのお方でなく?」


 村長はエルダの方を確認する。


「私より、その子の方が、魔力量が多いのよ」

「はあ。そうですか――」


 村長は、半信半疑の様だ。


「取り敢えず、今日のところは私の家にお泊まりください」

「ありがとうなの」

「お邪魔するぞ」

「それは助かるな」

「お世話になります」


 レイニィ様は、村長の家に泊まることとなった。


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