第75話 魔法を覚えるわよ。
レイニィが城塞都市セットで山神様に祭り上げられていた頃、港町ライズでは姉のミスティがエルダから魔法の訓練を受けていた。
「兎に角、魔力を感じられなければ何も始まらん。まずはそこからだ」
「わかりました。で、どうやるんですか?」
「私が手に魔力を込めるからそれを感じてみよう」
「魔力を感じるのですね」
「ではいくぞ!」
エルダは手に魔力を集めていく。
「どうだ。わかるか?」
「うーん。全然わかりません……」
「そうか。全然わからないか。それはよかった」
エルダはなぜか嬉しそうだ。
「わからない方がよかったのですか?」
「いや、すまない。よくはないのだが……、レイニィが相手だと、一言話しただけで、その十倍も百倍もやってしまうからな。教えがいがないというか、自分が要らないといんじゃないかと考えてしまってな」
「レイニィ相手ではそうなりますか……」
「その点、ミスティは教えがいがありそうでよかったぞ」
「それは良かったことなのでしょうか……?」
「訓練を続けるぞ。見ただけでわからないとなると、身体で感じてもらおうか」
「身体で、ですか?」
ミスティが少し、訝しげな表情をする。
「心配しなくても大丈夫だ。まずは両手を繋ごう」
エルダとミスティは向かい合って両手を繋ぐ。
「今から、この手を通して魔力を循環させる。少しピリッとするかもしれないが、それが魔力だから心配するな。ではいくぞ」
エルダは右手から魔力をミスティに流し込み、それを左手から引き抜いていく。
「確かにピリピリしますね。でもこれくらいなら大丈夫です」
「これが魔力だ。よく感覚を掴んでくれ」
「なんだかだんだん温かくなって、心地よくなってきました。ああ、とてもいい感じです」
エルダとミスティは暫く魔力の循環を行い、魔力を感じる訓練を行った。
「どうだ、魔力を感じられるようになったか?」
「そうですね……。なんとなくわかった気もしますが、それよりも、身体がとてもスッキリしました。疲れが取れて、肩凝りもすっかり良くなりました。魔力って凄いですね。これからも定期的にやってもらえますか?」
「おいおい、私はマッサージ師ではないんだぞ!」
その日の訓練はそれで終わることになった。
翌日、魔法の訓練でエルダがミスティの部屋を訪れると、待っていたのはミスティだけではなかった。レイニィとミスティ、二人の母親のウインディも待っていた。
「エルダさん、今日から私も魔術の訓練を受けたいのですがよろしいですか?」
「ウインディさん。それは構いませんが、どうしたんですか突然?」
「娘二人が魔術の訓練を受けているなら、私もどうにかなるかもしれないと思いまして――」
「本音は?」
「私も魔力の循環マッサージをしてもらいたいなー。なんて」
「はー。私はマッサージ師ではないと言ったはずなんだが」
「すみません。私がお母様に話してしまったばかりに」
「まあいい、一回だけだぞ」
エルダはウインディにも魔力の循環訓練を行う。
「まあ。本当に身体がスッキリしたわ。疲れも取れて、若返った気分よ!」
「それはよかったな。それで、魔力は感じられたか?」
「え、魔力?」
「こいつ、魔術の訓練を受けたいという建前を完全に忘れてるな」
「もう。そんなのどうでもいいわよ」
「そんなのって――」
「それより、これは商売になるわよ。魔法マッサージ。流行ること間違いなし!」
「私はそんなことやる気はないぞ」
「えー。勿体ない」
「魔道具にしてみてはどうかな。魔法マッサージの魔道具」
「それは名案ね。ミスティ、期待してるわよ」
「じゃあ、早速、作ってみるね」
「おい、魔術の訓練はどうするんだ?」
「そんなの、あとあと」
「これが出来てからやります」
「はー。仕方ない奴らだな」
ミスティが魔法を使える日は、果たしてくるのだろうか?
エルダは呆れてため息を吐くのだった。
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