第55話 望遠鏡をつくるの。
レイニィは、気球で飛んだ時に思い付いた望遠鏡を作ることにした。
自分は探索魔法が使えるから必要ではないが、船で航海する人や狩をする人などに、役に立つこともあるだろうと、考えたからだ。
「それにしても、ガラスがあるって素晴らしいわ。ありがとう。お姉ちゃん」
一人、天に向かってお礼を述べる。
ミスティは天上ではなく地上にいるのだが、そこは気にしてはいけない。
感謝の気持ちを忘れないレイニィであった。
「望遠鏡は凸レンズの組み合わせだったわよね。あれ。レンズがないわよね。ということは、望遠鏡どころか虫眼鏡も眼鏡もないのかしら?
これは、一度お姉ちゃんに相談した方がいいかしら――」
レイニィは姉のミスティの部屋を訪れる。
「お姉ちゃん。レンズってないの?」
「何ですか。いきなり。レンズならありますよ」
「え、あるの。ガラスが出来たのが最近だからないかと思ったの」
「ああ、ガラスの物はありませんね。今ある物は水晶とかで出来ているわ。今度ガラスで作って売り出しましょう」
「なるほど、水晶なの。なら、眼鏡とか望遠鏡はあるの?」
「眼鏡はあるけど、望遠鏡?それは聞いたことがないわ」
「レンズを組み合わせて、遠くの物を大きく見ることが出来る物なの」
「遠くの物を大きくですか。レンズ一枚では近くの物は大きく見えますけど、遠くを見ると小さく反対に見えるだけでしたが、それが、大きく見えるようになるの?」
「理屈としては、その小さく見える反対の像を、もう一枚のレンズで拡大して見る感じなの」
「そんなこと出来るの? 魔法ではないのよね」
「魔法じゃないの。やってみた方が早いの。ガラスちょうだいなの」
「はいはい。ガラスね」
ミスティはガラスを持ってくる。
「これでいいかしら?」
「充分なの。これから、一枚は大きめで、焦点距離が長い物を作るの。もう一つは、小さめで、焦点距離が短い物にするの」
「しかし、魔法って便利ね。ガラスを自由自在に、形を変えられるなんて」
レイニィはガラスの素材を、魔法を使って空中に浮かべたまま、加熱し、そして形を変えていく。
出来あがれば、冷やすのまで魔法で一瞬だ。
「出来たの。後はこれを筒に取り付けて、二つのレンズの距離が変えられるようにすればいいの」
「距離を変えられるようにするのは、何の意味があるの?」
「ピントを合わせる必要があるの。目で見る場合にも遠くの物と近くの物ではピントの位置が違うの」
「なるほどね」
ミスティは手の平と遠くの景色を見比べて納得する。
それから、ミスティが探し出してきた筒を組み合わせて望遠鏡を完成させる。
「筒の中は黒く塗った方がいいの」
「それは何で?」
「光が反射して見え辛くなるのを防ぐの」
「そうなのね。それじゃあ、黒く塗るのは後でもいいかしら、今は実験段階だし」
「後でもいいの」
「なら、これで、試作品の完成ね」
「覗いてみるの!」
レイニィは早速、外の景色を覗く。
「大きく見えるの。成功なの!」
「私にも見せて」
ミスティはレイニィから望遠鏡を受け取る。
「あら、凄い。遠くの景色が手に取るようだわ。でも逆さまなのね?」
「それは仕方ないの。途中に鏡を入れて何度か反射させれば戻せるけど、構造は複雑になるの。作り方はわからないの」
「鏡で反射させればいいのね。後で考えてみるわ」
「使い道によって一長一短なの。構造が簡単な方が安くて軽く出来るの」
「そうね。出来れば、両方用意してみるわ。また忙しくなりそうね」
ミスティは、工房にまた人を雇わなければと考えを巡らせるのだった。
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