第47話 剣の稽古ですわ。

 国主の娘サニィは、城に中庭で剣の訓練を受けていた。

 レイニィと別れ後、父親に頼んで剣の教師を付けてもらったのだ。

 それというのも、強い者は偉い。女王様も偉い。なら、女王様は強くなければいけない。という子供ならではの考えによるものだった。


 女騎士の指導の元、サニィは汗だくになりながら、わら人形に剣を振るう。

 この暑いなか、七歳の女の子にはきつい事だが、女騎士から褒められるので、頑張れるのだった。


「サニィ様、そろそろ休憩しましょうか?」

「そうね。そうするわ」


「だいぶ剣が狙った所に当たる様になってきましたね」

「そうかしら。まだまだよ」


「そんな事ありませんよ、その歳でそこまで出来れば、将来は聖騎士になれるかもしれませんよ」

「私がなりたいのは女王様よ!」


「女王様ですか? 女王様になるには剣の腕が必要なのですか?」

「女王様は偉いのよ。強いに決まってるじゃない!」


「はあ、そうですか――」


 サニィが女騎士と休憩していると、城の中から一人のメイドがやってきた。


「サニィ様、レイニィ様がお見えですが、いかがいたしましょう」


 レイニィはスライム狩りを無事に済ませ、気圧計もできたことから、帰りも首都シャイン経由で帰ることにした。

 そのため、仲良くなったサニィの所に立ち寄ったのだ。


「まあ、レイニィが戻ったの。それならすぐ行くわ。いや、折角だから、こちらにきてもらって」

「畏まりました」


 サニィは剣を習い、強くなった自分を妹分のレイニィに見せたかった。

 上に立つ者は実力を示さなければならない。

 と考えた訳ではなく。単に、レイニィに「凄いの。かっこいいの」と言って、褒めてもらいたかったからだ。

 その点、本当の姉のミスティと変わらない理由だった。


 メイドに連れられレイニィがやってくる。


「サニィお姉様、また来たの!」

「いらっしゃいレイニィ。こんな所に呼んでごめんなさいね。今、剣の稽古の最中だったから」


 サニィは剣を軽く振って見せる。


「剣の稽古をしてるの? (この暑いのに)感心するの!」

「そうでしょう。レイニィもやってみる?」


「あたしには無理なの。(この暑い中、剣なんか振りたくないわ)それにあたしは魔法があるの」

「そう。なら私の華麗な剣さばきを見せてあげる」


 サニィがレイニィに、いいところを見せようとしたところを、女騎士が遮り、レイニィに話しかけた。


「君は魔法が使えるのか?」


 女騎士に目の前に迫られて、仕方なくレイニィが答える。


「使えるの。角兎(ホーンラビット)くらいなら一撃なの」

「ほお。それは凄いな。一度見てみたいが、あれを攻撃してみてくれないか」


 女騎士は先程まで、サニィが剣を振るっていた、わら人形を指差す。


「いいけど、丸焼きにしちゃっていいの?」


 レイニィにとって、攻撃魔法といえば火魔法だ。散々角兎を丸焼きにしてきた。


「代わりがあるから構わんぞ」

「そうなの。ならやるの」


 レイニィは、サッサと済ませて終おうと、わら人形に手を向け、魔力を込めすぎない様に気を付けて魔法を放つ。


「発火!」


 その途端、わら人形が燃え上がる。

 メラメラと燃え上がり、あっという間に灰になってしまった。


 そりゃあ、わらで出来たわら人形だ、よく燃える。

 生身の角兎と同じ要領でやれば、跡形もないのは当然だ。


「……」


 サニィは目を見開き、口を開けたまま何も言えなかった。


「凄いな。それほどの魔法が使えるとは。サニィ様より年下だよな?」


 女騎士は、驚きの目でレイニィを値踏みしている。


「五歳なの」

「そうか。大きくなったら私と組まないか!」


「組むの?」

「そうだ、一緒に敵をやっつけるんだ。楽しいぞ」


 ここでサニィが我にかえる。


「レイニィは私に仕えるのだから駄目よ!」

「あたし、戦うの好きじゃないの」


「あらあら、先約済みか。それにしても、それだけの魔法が使えるのに勿体ない」

「魔法の使い道は戦いだけじゃないの」


「そうか。それもそうだな」


 女騎士は笑ってレイニィの頭を撫でる。

 サニィは取られてなるものかと、レイニィの腕にしがみ付く。


 レイニィは「この暑いのに、余り引っ付かないで欲しいな」と、口には出さないが思っていたのだった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る