第3話 転生することになりました。

「そうですか、凄い仕事ですね。それが『お天気キャスター』なのですね」


 元少女の弾丸トークに、女神様は少し疲れ気味に、話を終わらせるべく相槌を打った。


「そうです! 凄いでしょう。私はその仕事に就くために、気象予報士の試験を何度も受けたのですが、結局、合格することができませんでした」

「希少世放神ですか。その試験に合格した人は神になるのですか?」


「そうです! その通りです!! 女神様はわかっていらっしゃる。気象予報士は神の存在なのです」


 元少女にとって気象予報士は雲の上の存在。つまり、神だった。


「希少世放神にならないと、『お天気キャスター』にはなれないのですか?」

「気象予報士でなくても、『お天気キャスター』にはなれますが、気象予報士になっているに越したことはありません」


 元少女の言う「気象予報士」を、女神様は「希少世放神」と聞いている。

「気象予報士」を、「希少世放神」、世界に放たれた、数少ない神なのだと勘違いをしていた。


「凄いですねぇ。――凄すぎて、成人している貴方には与えられません!」

「え……。希望の職(ジョブ)にしてくれるって、言いましたよね?」


「可能な限りと言いました!」

「そんな……」


「ただ、貴方が、その職を得ることが、全く不可能というわけではありません」

「可能なのですか!」


「今の貴方では無理です! しかし、生まれかわって、子供からやり直せば可能です」

「転生ですか?」


「そうです。

 第八界では、成人した時に誰でも職が与えられますが、それより前、五歳の時に仮職(プレジョブ)が与えられます。

 これは本人の適性や生活状態を勘案して、神がその者に適した職を提案するものです。

 併せて成人した時にその職を得るための試練も与えられます」

「その試練を達成すれば、仮が取れた正式な職となるわけですね?」


「そうです」

「試練を達成できなかった場合には、どうなりますか?」


「その場合は、試練の達成度によって職が決められます。

 それとは逆に、試練以上の努力をすれば、仮職以上の職が与えられます。

 例えば、『騎士』の仮職を与えられた者が、努力をせず、試練の達成率が悪ければ、『兵士』の様な下級職が与えられることになります。

 逆に、試練以上に努力すれば、『聖騎士』の様な上級職を与えられることがあります。

 それと、仮職で与えられた以外の職を得ることも可能ですが、適性がありませんから、仮職が与えられた者以上の努力が必要になります」

「成る程――」


「つまり、言いたいのは、仮職の間に努力しなければ、上級職は得られないということです。ましてや、希少世放神にならなければ得ることが難しい、『お天気キャスター』ともなれば、それはきっと超上級職、簡単な試練では得られることはないでしょう」

「世の中そんなには甘くないというわけですね。『お天気キャスター』になれるかどうかは自分の努力次第。そのために子供からやり直せということですね」


「そうです。ただ、貴方は第七界の人間ですので、もし、第七界の技術をこちらで広めていただけるのなら、試練の助けになる女神の加護を与えましょう!」


 女神の提案に元少女は一瞬驚いた。

 チートは無いと言っていたのに、チートをくれると言う。

 少し怪しんだが、直ぐに加護をもらおうと考え直した。


 今まで散々努力してきたのに『お天気キャスター』にはなれなかった。

 なら、転生したとしても、普通に努力しただけでは、また、なれないかもしれない。

 ならば、女神様の加護はあった方がいい。


 だが、ここで、元少女はふとした疑問が浮かんだ。

 転生した場合に記憶は引き継がれるのだろうか。

 引き継がれなければ、元の世界の技術をこちらに伝えることは出来ない。

 そう考えれば、記憶は引き継がれるのだろうが、もし引き継がれない場合、転生した私は、果たして私なのだろうか。

 心配になった元少女は女神様に確認することにした。


「女神様、転生した場合、記憶はどうなりますか?」

「転生した場合は、記憶は消えますが、問題ありません。加護の一つとして、記憶を書き戻します」


「加護は、いつ与えられるのですか?」

「仮職と一緒に、五歳の時ですね」


 元少女は考える。

 赤ん坊の時に記憶が有っても役には立たないだろうし、むしろ恥ずかしいだけな気もする。

 なら、五歳で記憶が戻るのは適当なところではないだろうか。

 記憶が戻った時に混乱しそうな気もするが、その辺はなるようにしかならないだろう。


 結局、元少女は『お天気キャスター』になりたくて、転生することに決めた。


 女神は、異世界の技術が得られると、喜んで、元少女を転生させたのだった。


 ――――――――――


 しかし、女神は悩んでいた。

 キャスターって何だろう?


 元少女の説明から凄いものだとはわかったが、今一つ理解できなかった。

 お天気と小さな車輪(キャスター)のイメージがうまく繋ぎ合わなかった。


 仕方がないので女神は他の神に聞いてみた。


「第七界から落ちてきた者に、なりたい職を聞いたら、キャスターと言われたのだけれども、なんだかわかる?」

「第七界の者に、なりたい職を聞いて、キャスターと答えたなら、それは多分、『魔術士』のことだよ」


「ああ、魔術士のことなんだ。納得。どうもありがとう!

(天気を決められるほどの魔術士ということは、職として授けるのは『大魔術士』でいいわよね)」


 こうして、元少女の仮職は、本人の希望とは別の『大魔術士』と決まった。


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