殺意

地元へ帰ると私を待っていたのは母の精神崩壊だった…











姉によると夜になるとお酒を飲みはじめ

ある程度酔うと子供のように私の名前を叫びながら泣きじゃくり、泣きつかれると眠る…

そんな事を朝まで繰り返すようになっていた。













母「もえちゃん、もえちゃんはずっとお母さんと一緒よ。」












虚ろで焦点の合っていない目で何度もそう言われる日々。













私が戻ってからは夜だけじゃない。

昼間からお酒を飲んでは私を呼び私にしがみつき泣きじゃくる…













母「もえちゃん、もえちゃん…」













譫言のように常に私の名前を口ずさむ母の姿…












時々私を呼び、私が直ぐに駆けつけなければ大声を出しながら外へ飛び出し、泣き叫び道路に駄々をこねる子供のように横たわり手足をバタつかせて泣きじゃくることもあった。














そんな母を私も姉も支える事に限界を感じはじめたある日だった。













母「もえちゃん、…」













珍しく母が自ら私の所へやってきた。













私は部屋のソファーに座り本を読んでいた。













私「なに?どうしたの?私はここに居るよ。」













そう言いながら母に目をやる。













『やばいな、飲んで酔っ払ってる目だ。』













直ぐに私は勘づいた。














『こんな時の母にはあまり関わらない方がいい。』













そう思いながらもとりあえず笑顔を母に向けてみた













母は私の方を見ながらゆっくりとなにも言わず歩いてきてソファーの前でそっと私に右手を差し伸べてきた。













私「なに?どうしたの?」













私がそんな母にそう聞いた瞬間だった…













母の目が一瞬で見開き、顔が高揚し

私に差し伸べられた手は私の首に向けられ

一気に両手で締め付けてきた。













母「お母さんも後で逝くから…お願い…死んで。」













この時、私は自分の身に何が起こったのか理解できず頭が真っ白だった。













けれど、本能でだと思う…

母の両手首を私はしっかりと握っていた。













『お母さん?』













そう言いたかったけれど首を絞められていて声が出ない…私は母の本気度を知ろうと母の目をみた。













この時の私が見た母の目は真っ黒で殺意しか感じられなかった…












『そっか、本気なんだ…私が母をここまで追い詰めて追い込んだんだ…私が生きてるだけで母を苦しめるのなら…このまま死のう。』













私はそう思った。













そして、手を母の手首から離し

母の手の甲に添えて私自身も力を込めた。













『お母さん、もう少し頑張って…もう苦しくなくなってきたから…後少しだから…』













そんな風に思ってた時だった…













母が急に私の首に込めいた力を抜いた…













遠くで母の「ごめんなさい」という鳴き声が聞こえる中で私は意識を失った。













気がつくと私はソファーの下で倒れ込んでいた。













指先が痺れていて身体も重く暫く動けなかった…













辺りを見渡すと誰も居ない…













少しずつ記憶をたどり、私の身に起きたことを整理してみてハッとした。













『母は???』













何とか起き上がり母を探した。













母はリビングのテレビの前で正座をしてお酒を飲んでいた…













私「お母さん?もう気は収まったの?」













私はそんな母に聞いてみた。













母「もえちゃん?痛かった?怖かったよね?

ごめんね…こんなお母さんでごめんね…」












母はそう言いながら私にすり寄ってきた。













私「大丈夫だよ。それよりお母さんは?大丈夫?」













私は母の頭を撫でながらそう聞いた。













母「お前が抵抗してくれてたらひとおもいに殺れたのに…」













私は母のこの変わりようにゾッとした

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