【NL】花姫様を司る。※R-15

コウサカチヅル

本編

ふたりでの朝。

「起ーきーるーのーじゃーっ!!」

 朝。鈴の鳴るような愛らしい声が、神社である我が家に響きわたる。

「んぅー……」

 僕・八代司やつしろつかさは、その色素の薄いまつ毛をぴくぴく動かしながら、枕の端を握りしめた。

「これ司! この花姫はなひめの栄養たっぷり『ぶれっくふぁーすと』が冷めてしまうであろう!」

 とたとたと枕元まで駆け寄ってきたこの、和装をまとう美しい少女。

 この地を加護する、正真正銘の女神様だ。

「今日は一段と美味そうにできてのぉ♪」

「そっかー……」

「司?」

 もぞもぞ、と厚い蒲団ふとんへ、より一層もぐりこむ僕。

「それはとても、楽しみだねぇ……」

「行動がともなってないようじゃが?」

「あのね、眠いの」

「で?」

「ここまで持ってきて、『あーん』してほしい……」

「こンの……ッ、甘ったれたことを抜かすなー!」

 がばっと僕が被っていた蒲団をひっぺがす。 

「んっ、寒。返してよ……」

 僕がのろのろと掛け蒲団へ腕を彷徨わせると、花姫様がガタガタ震えている気配を感じた。

 ばふんっ、と勢いよく蒲団が返ってくる。

「そっ、そそ、そなたっ、なぜ服を着ておらぬのじゃ!?」

「あー、着替えるのめんどかったの、かなぁ……?」

 改めてめくってみたら、確かに生まれたままの姿だった。道理で、蒲団を被っているのに冷たさを感じると思った。

 だって最近、すごく眠い。

 一日の神社のお勤めのあと、お風呂に入ったまではよかったけれど。そこからあまり記憶がない。

 蒲団がびしょびしょではないから、カラダはちゃんと拭いたんだと思う。僕、すごくいい子。

 花姫様は、未だ上半身はむきだしの僕に対し、その大きな瞳を必死で覆いかくしながら、きゃんきゃんわめきたてた。

 ちょっとからかってみたくなった僕は、にいっと笑んで、わざと聞こえるようにささやく。

初心うぶなんだね」

 案の定、彼女はゆでダコみたいに赤くなった。

「べべべ、別にぃ!? そなたみたいな小童こわっぱのすっぽんぽんなんか、その辺に群生するぺんぺん草くらい見慣れてるしぃ!!?」

「一応成人済みだけど。そんな高速で目が泳ぐひと、ハジメテ見た……」

 ムキになって手を外したものの、その泳いだ目は、必死にこちらを見ないようにしているのが、たまらなく愛らしかった。

「ごめんね、お腹空いたでしょ。ご飯どうぞ」

 腕を広げると、目をらしながらもそっとカラダをよせてくる。遠慮がちに肩へ添えられた手指や、さらりと鎖骨にかかる少し冷たい黒髪が、僕をぞくりとうずかせた。


 そして。

 僕らのくちびるは深く重なる。


 これが、花姫様の『食事』。


 ニンゲンの余剰な活力を、皮膚の接触を経由して一日二回、ほんのちょっとだけわけてもらう。


 花姫様はそれをすごく申しわけなく思っているみたいだけれど、とんでもない。

(甘い――)

 こんな合法的に、愛しいひとのくちづけを得られるなんて、この上ない至福だ。



 そしてこの『至福』は、最終的に僕の計略によって成り立ったものであることを、花姫様は知らない。

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